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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「揺れる2月相場、突き抜ける材料株」

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

 勝負というのは勝ちと負け、すなわち勝者と敗者2つに分かれることを意味します。その境界線を仕切るものはフィールドによって千差万別ですが、本当の勝負というものは、すべてに共通して“わずかの差で決まる”という真理があります。紙一重を見極める、言い換えれば究極の合理を追求してこそ勝利を手にすることができる。将棋界でプロ入り初戦から29連勝を達成し話題をさらった藤井聡太四段も、国民栄誉賞を受賞したレジェンド羽生善治永世七冠も、常にギリギリの勝負で勝利を手繰り寄せてきた。その積み重ねで今があるのです。

 いかに相手と合理的な間合いを取るか、その巧拙が鍵を握るのは株式投資も同じかもしれません。宮本武蔵風に言えば「一尺、二尺の間があっても伸びてくる太刀先は怖い。しかし、伸び切った太刀先であれば厘毛の差でも恐怖はない」ということになるでしょうか。太刀先三寸で見切る動体視力を養うことは、勝負の神髄を極めるうえでの要諦といえるでしょう。また相場では、これから伸びてくる太刀先がどういうものかを見極める“先見力”というものも重要な要素を占めているように思えます。

●テーマ性と需給の合致が大相場発展の条件

 誰もが安心して買えるような銘柄を手にして、その銘柄の上値を買ってくれる人を待つというのは投資手法として有効な作戦とはいえません。誰の目にも安いと思える銘柄は、その水準に放置されていることが既に矛盾しているのです。万年割安株というのはこの矛盾にさらされている銘柄の総称といってもよく、一見高いように見えても上値を出す銘柄との差を経験値で感じ取れるようになれれば理想の域です。

 また株式投資では、ハイリターンを望む以上はハイリスクな選択肢を取らざるを得ないと考えられがちですが、実際はそうではありません。火中の栗を拾うのも投資手法の一形態には違いないけれど、出来る限りそれは避けたい。ハイリターンを求める際には当該銘柄の特性(時価総額や人気素地)にもよりますが、新たな材料もしくは投資マネーの琴線に触れる新しい切り口があるかどうかが重要。これに需給面でのティッピングポイント(トレンドが加速する臨界点)が時間軸でうまく合致すれば、うねりを伴う大きな相場へと発展していくことになります。

●ドル・円相場と自動車株の歪んだ関係

 東京株式市場はドル安・円高に振り回される展開となっています。ドル・円相場 は日米金利差から中期的に円安というのが、昨年12月時点のマーケット関係者のコンセンサスでした。意外にこういう足並みが揃った時に躓(つまず)いて、一斉に転んでしまうというのが相場ではよくある風景です。昨年12月の日銀短観の大企業・製造業の今年度想定為替レートは110円18銭(下期想定レートは109円66銭)であり、実勢は1ドル=108円台の推移でそれよりもはるかに円高に振れています。円高による輸出採算の悪化が本格的に意識され始めると少々厄介で、上昇相場における金看板が企業業績であっただけに、ここが揺らぐことで投資家心理も弱気に傾きやすくなります。

 今の変調な地合いは為替の仕業によるものですが、前日(30日)まではトヨタ自動車 <7203> や日産自動車 <7201> など自動車株が輸出株のなかで異色の底堅さをみせていました。輸出企業のなかでも為替感応度が最も高いはずのセクターにあって、この波乱含みの円高進行のさなかにトヨタも日産も25日移動平均線の上で頑強な足をみせていたのは意外な感もありました。目先はトヨタが耐え切れず遂に長い陰線を引いてしまいましたが、為替の実勢を考慮すれば、株価はまだかなり高い水準といえます。

 ドル・円相場で1ドル=109円を割り込んだのは、直近では昨年の9月初旬以来。その時のトヨタの株価は6100~6300円のゾーンで現在より1200~1400円も下に位置していました。当時はそこから円安が進行し、自動車株をはじめとして全体指数も大きく水準を切り上げた経緯があります。上がる時は円安が上昇エンジンとなったわけですが、そのエンジンが急速冷却された(円高となっている)現状にあっても下げ幅を限定的なものにとどめている自動車株。この歪んだ相関関係はどこかで修復されていくことになりそうですが、為替と株価のどちらがサヤ寄せしていく形となるのか関心が持たれるところです。

●意外なる円高で見えてきた米国の思惑

 また相場の歪みといえば、ドル・円相場と米長期金利の関係も不可解。直近米10年債利回りは2.7%台を超え3年9ヵ月ぶりの水準まで上昇し米国株式市場の波乱要因となりました。米長期金利の上昇は金融株高を誘発し相場全体にも浮揚効果を与えることが多かったのですが、足もとはネガティブ材料として意識されています。

 それにしても、なぜこのタイミングでドルが売られるのか。外野は騒がしくなってはきているものの、当の日銀黒田総裁が金融緩和の出口戦略に言及する素振りすらみせない今の状況にあって、日米金利差をベースに為替市場はドル買い・円売りがセオリーのはず。ドル安に振れるだけならまだしも、米長期金利が大幅に上昇するなかでのドル売りという現象を見るにつけ、相場は理屈ではないということを改めて感じさせられます。

 今の円高は、これまで軽視されていた政治的な思惑が背景に絡んでいることは明白。米国では今年11月6日に中間選挙が予定されており、これについては通商問題の解決に向けた進捗度合いがトランプ政権にとってのアキレス腱ともいえ、今の貿易赤字をどうするかは大きな課題となっています。ムニューシン米財務長官の「短期的にはドル安容認」という姿勢は、11月に向けた思惑を内包しているといえるわけです。足もとは投機筋の仕掛けでやや行き過ぎにドル安が進んでいる感があり、どこかで金利差を考慮したドルの買い戻しが利く可能性がありますが、政治的背景を考慮すると、中間選挙前に円安方向にそう簡単には流れが向きにくいという見方もできます。

●金沢関連で倉庫精練に穴株素地、津田駒にも期待

 全体相場は短期調整局面に入っていますが、これは為替の影響によるものだけではないようです。日柄的にみて2月相場は前半調整の流れとなって自然でした。ここは2月後半以降の上昇に向けた買い場の提供場面と大きく構えておくところでしょう。為替の影響で想定していたよりもやや早いタイミングで1月下旬から日経平均は男性的な下げに入り、値幅調整としてはいいところにきている感もあるため、その分だけ立ち直りが早まることも考えられます。また、全体が短期調整局面とはいっても個別株物色の勢いは止まりません。31日も東証1・2部と新興市場を合わせ13銘柄がストップ高(ザラ場を含む)を演じていました。

 前回の当コーナーでも触れましたが、訪日外国人の急増は地方活性化に一役買っており、インバウンド需要による不動産市況へのプラス効果も顕在化してきそうです。この地方活性化で注目したいのが石川県金沢市。訪日客の急増もあって昨年は石川県の公示地価がバブル期以来25年ぶりに上昇、特に金沢市が牽引する形となっており、今後もこの傾向は続きそうです。

 そのなか、金沢関連とも呼ぶべき銘柄で穴株的な妙味を漂わせているのが倉庫精練 <3578> [東証2]。石川県と言えば世界でも屈指の合繊織物産地。そのなか、同社は長繊維織物の染色加工の老舗として注目されます。業績は低迷していますが、丸井織物傘下で経営再建途上にあり、株価は200円台前半という低位に位置し値ごろ感があります。ポイントは同社の土地含み資産です。直近では金沢市高岡町に所有する約6000平方メートルの駐車場の入札が行われる見通しで、金沢市の不動産開発が進むなか、「インバウンド×不動産」のテーマに乗る銘柄として変身余地があります。

 また、同じ金沢市に本社を構える津田駒工業 <6217> も面白い存在。同社は超自動織機の大手メーカーで、空気を活用した噴射力で糸を飛ばして織物を編む「エアジェットルーム」や水を活用した「ウォータジェットルーム」などで世界トップメーカーとして君臨し、工作機械も手掛け、海外では中国やインドでの展開力で強みを持っています。株価は18年11月期の好業績見通しを手掛かり材料に1月19日にマドを開けて値を飛ばしました。その後は目先筋の利益確定売りをこなす局面にありますが、300円近辺は売り圧力が一巡し再度切り返す展開が見込めそうです。

●EV関連でサンコールと大同メタルに注目

 また、東京市場で強力な物色テーマとして常に光が当たっているのが電気自動車(EV)関連。特にEVはトヨタが注力姿勢を示し、異業種であるパナソニック <6752> との車載用電池分野での提携を発表するなど開発に本腰を入れる構えで、つれて周辺銘柄の株価も刺激しています。EVをテーマに、これまで株探トップ特集も含めてさまざまな銘柄をご紹介してきましたが、今回新たに注目したい銘柄としてサンコール <5985> と大同メタル工業 <7245> を挙げたいと思います。

 サンコールは伊藤忠系の精密部品メーカーで自動車用の精密ばねやリングなどを手掛けています。トヨタ向けのウエートも高く、EVシフトの流れにも対応、ハイレベルの金属加工技術を応用して電動化部品を開発しています。またEV用小型センサーの開発なども材料視され、13週移動平均線をサポートラインとした上昇トレンドが続きそうです。

 一方、大同メタル工業は軸受けメタルのトップメーカーで自動車用エンジン軸受けでは世界有数の実力を持っています。EV向けアルミダイカスト製品の需要旺盛ななか、タイに同製品の工場建設(2020年に操業開始予定)に動いており、中期的な業容拡大期待が高まっています。信用取組も買い残に乏しく、日証金では株不足状態になるなど株式需給面で上値の軽さが意識されます。

●ネオスはAI分野とセキュリティーで活路

 さらに、人工知能(AI)関連は継続的に輝きを放つ物色テーマで目が離せません。1月20日にアップした株探トップ特集「世界が変わる日――『AI関連』新たなるステージで化ける株」でも触れたように、既にAIは人類の生活と融合して表面的にも潜在的にも大きな影響力を発揮しており、このまま行けば「2045年」といわれるシンギュラリティ(AIが人類の英知の総和を超える)の到来は早まる可能性が高い。同特集で挙げなかったニューフェース銘柄では、PKSHA Technology <3993> [東証M]やエスユーエス <6554> [東証M]などの押し目が注目されます。また、穴株としてマークしたいのがネオス <3627> 。

 ネオスは携帯電話向けコンテンツ配信などを主軸とし、足もとの業績は低迷していますが、AI分野の受託開発システムに活路を見出しており今後が注目されます。AIを活用したアパレル向け自動接客システムを手掛ける空色(東京都・品川区)と業務提携するなど事業領域拡張にむけた布石にも余念がありません。にわかに浮上気配にあるサイバーセキュリティー関連としての側面もあり、サイト・アプリ監視分析システム「ARGOS」の販売などに期待がかかります。

●インバウンド新星のアスラポート、和井田にも勢い

 このほかの個別材料株では「牛角」などの外食フランチャイズを展開するアスラポート・ダイニング <3069> [JQ]は、訪日外国人の日本食ブームに乗る銘柄として人気素地を持っています。アプリ「日本美食 Japan Foodie」と連携してニーズを捉える計画にあります。

 さらに昨年10月配信の当コーナー「燃え上がる株高 変身DNAを持つ銘柄群」で紹介した和井田製作所 <6158> [JQ]を改めて注目。当時、「切削工具と研削盤分野で高い商品競争力を持っており、そのナノ・ミクロン単位に特化した技術はメイド・イン・ジャパンの象徴」として取り上げましたが、その位置づけに変化はありません。株価は昨年10月から大きく水準を切り上げていますが、上値余地はまだ十分に残されていると思われます。

(1月31日記、隔週水曜日掲載)

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