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【市況】中東の混乱は回避できるか【フィスコ・コラム】

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより

アメリカのトランプ政権が極端にイスラエル寄りの外交姿勢を打ち出し、国際社会を驚がくさせています。中東・アラブのイスラエルに対する怒りは増幅され、今後の大きな地政学リスクとして意識せざるを得ない状況になってきました。中東情勢の混乱を回避する道はあるでしょうか。


トランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムと認定するとともに、大使館を現在のテルアビブから移す意向と報じられました。それを受けた12月6日の金融市場は、株式市場では日経平均株価が前日比500円超安と今年最大の下げ幅を記録し、外為市場ではリスク回避的な円買いが強まりました。海外市場でも中東主要国の株は売られ、安全資産の米国債買いが進み債券利回りは軒並み低下しました。


2016年の大統領選で公約の1つに掲げていたとはいえ、トランプ氏が本当にそこまでイスラエルに肩入れした政策に踏み込むか、といぶかる向きもありました。イスラエルは中東戦争でエルサレムを占領し、その後実効支配が続いていますが、パレスチナ自治政府は東エルサレムを首都とする考えに変わりはなく、双方が領有権を主張しています。エルサレムの帰属問題は、和平交渉の中で解決される問題です。


そのようにあいまいに位置付けることで、イスラエルとアラブ・中東諸国は対立の激化を抑えてきた経緯があります。1993年に締結されたオスロ合意でイスラエルとパレスチナが共存するために対話による解決を目指していました。しかし、ここへきてアメリカが和平の仲介役を投げ出しイスラエル側に一方的に加担するなら、イスラエルを共通の敵とする中東・アラブ諸国の反発は避けられないでしょう。


中東では現在、親米のサウジアラビアと反米のイランが地域の覇権争いで対立し、イランと近いカタールはサウジから国交を断絶されています。またレバノンでは、首相がサウジ訪問中に突然辞任を表明。これはイランの支援を受けたシーア派組織ヒズボラがレバノンの現政権に参加していることを快く思わないサウジが支援の打ち切りをちらつかせ、首相を退陣に追い込んだもようで、周辺地域に波紋を広げています。


トランプ大統領はすでに今年5月の中東歴訪でサウジ支持を明確に打ち出し、イランが2015年に欧米6カ国などと締結した核合意を認めない見解を示しているのに加え、トルコともビザ発給停止をめぐり対立するなど、火薬庫につながる導火線に次々と火を放っているように見えます。イスラエルは核保有国、イランも事実上の核保有国とみられており、両国が紛争に発展した場合のダメージは計り知れません。


そのような混乱が見込まれる中東で、親米のイスラエルと中東・アラブの間を仲介できる唯一の国であるトルコの動きが今後カギを握るかもしれません。トルコ独立の父アタチュルクが遺した「内に平和、外に平和」という外交方針は、実は欧米や周辺国などからあまり信用されていませんが、国際社会のこれまでの外交努力や世界の常識をことごとく破壊するトランプ政権のアメリカよりははるかにマシです。


トルコは現在、中東諸国などが加盟するイスラム協力機構(IOC)の議長国で、さっそくエルドアン大統領の外交手腕が試されています。地域の安定化に取り組み存在感を高めることができれば、国際社会から見直されるはずです。過去最安値圏のトルコリラは、主に欧州との関係悪化に伴う影響で先安観は続いていますが、トルコの平和外交が再評価されれば投資魅力も増し、長期的なリラ買いにつながるかもしれません。

(吉池 威)

《MT》

 提供:フィスコ

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