【経済】【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(3):◆不動産株の軟調を考える◆
ドル円 <日足> 「株探」多機能チャートより
〇円高下、不動産株の軟調目立つ〇
メイ英首相の「EU単一市場から完全撤退」方針表明は、メイ首相の強い姿勢から、ある程度想定された展開。「急ぎ働き筋」は英ポンドを買戻し(3%高と急伸)、英株を売った(1.46%安)と考えられる。ただ、「メイ首相の方針、達成可能かは不明」(ムーディーズの見解)との見方が大勢で、ハード・ブレグジット交渉は難航が予想されている。
それよりもやや強めのドル高修正の動きとなった。一旦材料出尽くしとなった英ポンドの急伸に加え、前週末にトランプ氏が人民元安に強い懸念を表明したこと、ダボス会議にトランプ陣営から唯一参加している次期政権上級顧問予定のスカラムッチ氏がドル高リスクを警告したこと、パリで開催された会合で米著名エコノミスト2人が「トランプ政権とFRBの衝突」を予想し、両者の姿勢はドル高(二桁のドル上昇も)に跳ね返ると指摘したことなどが重なったためと考えられる。ドル円は112.5円の攻防で115円±2.5円ゾーンのギリギリの線。
もう一つ、市場が「超金融緩和の終焉」を読み始めた可能性が考えられる。英国の方針はポンド安を想定している可能性(ポンド安局面で牽制しなかった)があり、それはインフレ圧力を高め、金融引き締めに転換する可能性を孕む。日本市場では円高に強いはずの不動産株の下落が目立ち、日銀が市場金利上昇の容認幅を拡大する可能性を探り始めた公算がある。米国の利上げ動向が第一義的ではあるが、他国が超緩和を緩めれば相対的に通貨高要因になる。
昨日の不動産株指数は2.40%安(TOPIX1.41%安)、月曜日はTOPIX0.92%安に対し1.51%安。目まぐるしく物色・下落動向が変わるなかで、その他金融(月1.56%安、火1.51%安)と並び下落が目立った。年初から空売り勢が息を吹き返し、ファーストリテイリング、トヨタ、医薬品株、日本郵政など売り対象が次々に出て来る地合いで、売り対象の一角にされた公算がある。
キッカケは16日の日銀さくらリポート(地域経済報告)。最近の住宅投資の動向をまとめ、「金融緩和を背景に受注が増加しているが、マンション価格の上がり過ぎや貸家の供給過剰で需給が緩みつつある」と指摘した。とくに貸家の供給過剰で空室率の上昇、家賃の下落が報告され、17日付産経新聞は「行き場を失った個人投資マネーが(相続税対策もあって)貸家経営に流れ込んでいる状況に不動産バブルを警戒する声も出ている」と報じた。ニッセイ基礎研が昨年10月に公表したリポートでは、老朽物件の多い世田谷区のマンション空家は12.8%と最も低い江東区3.3%の4倍近い。関東圏の郊外型アパート物件では空室率35%との話も出ている。追い打ちを掛けるように、16日にロイターが「東京オフィス市況に大量供給の影、不動産投資ブーム冷やす懸念も」との特集記事を配信した。小池都知事の国際金融都市宣言などが奏功しないと、深刻化する恐れがある。
過剰供給抑制論が強まれば、要因となっている超金融緩和の是正論に繋がり易い。先走り的ではあるが、トランプ潮流の国際的ウネリの中で、金融緩和時代の終焉に向かうことも模索され始めたと思われる。国別の強弱で為替変動の要因になろう。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/1/18号)
《WA》
提供:フィスコ