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【特集】バイオ新潮流「スマートセルインダストリー」の未来図 <株探トップ特集>

ゴルドウイン <日足> 「株探」多機能チャートより

―人工合成クモ糸繊維「QMONOS」など期待の新素材続々―

 「バイオテクノロジー」と聞くと、創薬や食品など、健康や医療分野を思い浮かべる人が多いと思われるが、近年では工業分野などにも広がりをみせ、経済や社会の変革の大きな推進力となりつつある。こうした分野は「スマートセルインダストリー」(生物による物質生産産業)と呼ばれており、今後、市場でも大きな話題になりそうだ。

●NEDOがオールジャパン体制のプロジェクトを始動

 スマートセルインダストリーとは、高度に機能がデザインされ、その発現が制御された生物細胞(スマートセル)を用いた産業のこと。近年、ゲノムに関する集積・分析や改変する技術が急速に発達したことで、これまで利用できなかった「潜在的な生物機能」を引き出すことが可能になり誕生した分野だ。遺伝子治療再生医療のほか、省エネルギーでの物質生産や、バイオ由来の原材料や燃料の生産など、さまざまな領域での活用が検討されているという。

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)もスマートセルインダストリーの構築に向けたプロジェクトを始動させており、大学の研究チームから実用化を進める民間企業まで全40機関が参加している。2016~20年度までで総額86億円を投じ、従来の合成法では生産が難しい有用物質の創製、生産プロセスの低コスト化や省エネ化の実現を目指す。国産のゲノム編集技術やIT/AI(人工知能)技術を駆使することで、世界で競争力を発揮できる産業にするのが狙いだ。

●人工合成したクモの糸でアウタージャケットを開発

 まだ研究段階の話が多く、未来の話と思われがちなスマートセルインダストリーだが、研究段階から実用化段階に進んでいるものも少なくはない。なかでも、最も知名度の高い代表的なものが人工合成クモ糸繊維の「QMONOS」だ。

 「QMONOS」は、慶応義塾大学発のベンチャーで、IPOが近いとも噂されるSpiber(スパイバー、山形県鶴岡市)が13年5月、世界で初めて量産化に成功した新たな繊維。世界で最もタフな繊維ともいわれる“クモの糸”だが、その主成分であるタンパク質を微生物発酵で生成し、原料としており、従来の石油由来の化学繊維のように製造工程でエネルギーを大量消費しないのが特徴だという。

 これに注目したゴールドウイン <8111> では、15年9月にスパイバーと提携し、同年10月には「QMONOS」を用いたアウタージャケット「MOON PARKA」のプロトタイプを発表した。当初、16年内の発売とされていた製品の発売時期が、「素材品質の安定性をさらに向上させるためには、今しばらく研究開発に時間をかける必要があるため」(会社側)として17年以降に延期されたが、その分、発売まで注目を集めそうだ。

●三菱化学は植物由来樹脂を複数展開

 また、三菱ケミカルホールディングス <4188> 傘下の三菱化学では、これまでにも植物原料のバイオプラスチックを複数開発してきたが、その一つでイソソルバイド(イソソルビド)が主原料のバイオポリカーボネート系樹脂「DURABIO」の需要が拡大している。同製品は、光学特性、耐久性、耐候性、表面硬度などの面で従来の石油由来のものより優れた機能を持っており、ガラス代替部材をはじめ幅広い分野に用いられている。例えばスズキ <7269> の「ハスラー」や「アルト ラパン」の内装樹脂カラーパネルに採用されているほか、シャープ <6753> [東証2]のスマートフォン「AQUOS CRYSTAL2」の前面パネルにも採用された。

 さらに、ブリヂストン <5108> では、NEDOの支援で天然ゴムの原料となるラテックスを産出する「パラゴムノキ」の研究を開始。既にゲノム解読にも成功し、これをもとに、生産性が高く品質の高いラテックスを産出するパラゴムノキの選抜や、病気や環境ストレスに強い品種の開発などに取り組んでいる。

 このほか、NEDOのスマートセルインダストリーに関するプロジェクトに参加している江崎グリコ <2206> 、不二製油グループ本社 <2607> 、キリンホールディングス <2503> 、味の素 <2802> 、旭化成 <3407> 、三井化学 <4183> 、JSR <4185> 、島津製作所 <7701> 、プレシジョン・システム・サイエンス <7707> [東証M]、長瀬産業 <8012> などの動向にも注目しておきたい。

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