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【特集】ドル円は“130円台”に、山岡和雅が斬る2017年「為替相場の大胆予想」 <新春特別企画>

Klug FX 編集長 山岡和雅

―トランポノミクス・欧州政治情勢がドルへの資金流入を後押し―

Klug FX 編集長 山岡和雅

 大胆予想ということで、新年の最初から飛ばしてみました。

 2016年の高値が121円69銭。2015年につけたアベノミクス以降の(要は80円割れからの)高値が125円86銭ですから、“130円”台と言っても、何を考えているのかと思われるかもしれませんが、新年早々ホラを吹いているつもりはありません。

 昨年はブレグジット(英国のEU離脱)、ドナルド・トランプ氏大統領選勝利と、1年前の今頃、2016年がスタートした時点では流石にありえないだろうと思っていた事態が2つも現実化した年となりました。

 為替市場も年初の120円台から、121円を高値にジリジリと値を落とし、ブレグジットを受けて100円の大台を割り込むところまで下落。その後、少し値を戻してもみ合いを続け、終盤になってトランプ氏勝利を受けたドル高が急激に進み、約1ヵ月半という短い期間で118円台まで回復と、目まぐるしい動きを見せる年となりました。

 今年も1月20日の就任式で正式に誕生するトランプ第45代米国大統領、3月までには正式にスタートする英国のEU離脱手続き、極右政党の台頭が懸念される欧州主要国の議会選挙やフランス大統領選挙など、政治的なイベントが目白押しとなっており、こうした政治情勢に相場が左右される年となりそうです。

 これらの事案は基本的にリスク材料であり、 ドル円にとっては重石となってもおかしくなさそうですが、なぜ大きなドル高を予想しているのかをご説明していきます。

 昨年終盤、11月からの急激なドル高は、次期大統領に決定したトランプ氏の経済政策、いわゆるトランポノミクスへの期待感が背景となっています。トランポノミクスの基本的な姿勢は、インフラを中心とした財政支出の拡大、法人税の現行35%から15%への急激な引き下げや所得税の簡素化による税率の引き下げなどの減税策、ドッド・フランク法案の廃止などの金融規制緩和などです。

 【トランプ次期大統領が提唱する政策姿勢】
  財政:老朽化が指摘される米国内のインフラ整備を中心とした拡大
  税制:法人税を35%から15%へ引き下げ(G7内最低水準)
     所得税の簡素化による高所得者層を中心とした引き下げ
  金融:ドッド・フランク法の廃止を中心とした規制緩和
  産業:米国内産業優遇
  外交:TPPは離脱、貿易面では中国、移民問題ではメキシコへの警戒感

 もっとも財政支出拡大は与党である共和党内からの反発が必至。もともと共和党は小さい政府を志向する傾向がある上、ティーパーティー運動などで近年この傾向は強まってきており、支出拡大をすんなり認める可能性は低いでしょう。減税についても、可能性はありますが、ここまで大きな減税を一気に行うと混乱は必至なだけに、慎重な対応を求められる可能性があります。

 以上のように、政策をどこまで実現できるのかは未知数と言えます。ただ、議会共和党側としても、自分たちの党から選出した大統領のプランにすべて反対という訳にはいきません。ある程度は実現していくと考えるほうが自然です。そして、そのときに問題となるのが、どうあっても財政赤字への懸念が広がるということです(減税して支出を増やすのですから当たり前です)。

 財政赤字のファイナンスは基本的には国債発行によって賄われます。これにより国債価格は下落圧力を受け、その分ドルの利回りは上昇します。為替市場は金利動向の変化にかなり敏感なため、こうした状況は中長期的なドル高の材料となります。

 もちろん短期的にはドル円の120円やユーロドルのパリティ(1ユーロ=1ドル)など、超えていかねばならない重要な水準がまだまだ残っていますが、当面はこのドル高基調は継続していきそうです。

 では、どこまでトランポノミクス期待が続くのでしょうか。トランプ氏が強く意識しているレーガン大統領によるレーガノミクスを例に考えてみましょう。

 トランプ氏の5代前、第40代の大統領であったロナルド・レーガン氏。彼の打ち出した富裕層への減税と軍事費などを中心とした大幅な財政支出拡大は、スタグフレーションに喘いでいた米国市民の支持を受け、ドル高が強まる展開となりました。

 レーガン氏が大統領に就任した1981年1月には200円を割り込む場面が見られたドル円は、その年の8月に243円まで、実に43円超のドル高円安を誘ったのです。

 その後いったん調整が入ったものの長期的なドル高傾向は変わらず、同年10月には実に277円台まで、年初から見てわずか10ヵ月で77円超のドル高円安が進行しています。そしてこのドル高傾向は1985年のプラザ合意で強引に是正されるまで続きました。

 今年、流石にここまで大きな動きなるとは考えていません。スタグフレーション下にあったレーガン大統領の就任時と違い、米経済はすでに景気回復基調にあり、ドルはある程度上昇が進んでいます(谷が深い方が反発は大きいですが、今年はそこまでの状況にはありません)。ただ、レーガノミクスでも見られた財政赤字からのドル金利上昇と、それに伴うドル高という流れは同じ。今年もドル高圧力は当面の継続となりそうです。

 さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)の動きも、こうしたドル高の動きに寄与しそうです。12月に入ってドル高が加速する要因となったのは、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる経済見通し(SEP)の中で、金利見通しが9月発表時の来年中に利上げ2回から、来年中に利上げ3回へと引き上げられたことでした。

 ただ、実はこの引き上げ、トランポノミクスの影響を特に織り込んでいません。SEPの他の項目(経済成長率、失業率、インフレ率)を見ると、経済成長率、失業率は0.1%の小幅引き上げ、トランポノミクスが実現すると大きな上昇が予想されるインフレ見通しについては9月時点から変化していません。9月の発表時ではヒラリー・クリントン氏の勝利が濃厚でしたから、そこからトランプ氏が逆転勝利し、巷(ちまた)のインフレ期待が強まった状況については、実際の就任前に織り込むには不確定要素が大きすぎるという認識のようです。

 逆に言うと、1月20日の就任以降、トランプ大統領の政策が実現するにつれて、インフレ率などの見通しは上方修正がかかる可能性が高い。この場合利上げ期待はさらに強まり、ドル買いにつながると思われます。

 さらに、欧州情勢もドル高を誘っています。

 2017年は欧州主要各国で大統領選や国政選挙が行われる年となっています。12月の国民投票を受けてレンツィ首相が辞任したイタリアは早ければ2月に総選挙を実施する予定。その後、3月にはオランダが総選挙を実施。4月・5月にはフランスで大統領選が行われます。さらに6月にはフランスで国民議会選挙、8月以降はドイツで総選挙といった具合です。

 そして、各選挙で注目されているのが、反EUを掲げる極右の台頭です。

 イタリアは反EUを掲げる政党「五つ星運動」が支持率で1位を取る勢いを示しています。オランダもEU離脱の国民投票実施を公約としている自由党が勢力を伸ばしています。フランス大統領選では現与党の左派勢力が5月の決選投票に進む可能性は相当薄く、中道右派のフィヨン元首相と極右国民戦線ルペン党首の一騎打ちが濃厚。流石にフィヨン氏が優位と見られますが、善戦するとその後の6月の国民議会選挙で国民戦線が躍進し一気に勢力を広げる可能性があります。ドイツも移民問題でメルケル首相の支持率が地に落ちており、難民支援削減とEU離脱の国民投票実施を公約とする右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進が警戒されています。

 こうした右派(というか極右)政党の躍進は投資資金のユーロからの離脱を誘います。流石にブレグジットが始まる英ポンドに逃げるわけには行きませんので、米ドルと日本円が逃避先に。

 ドル円への影響は短期的には円高ですが、ユーロはドルの唯一の代替通貨であり、世界の基軸通貨としての役割の一部を果たしているだけに、中長期的にはドルへの資金集中が強まる可能性が高いです。

 こうした状況を勘案すると、ドル円はアベノミクス以降の最高値を更新する可能性は十分にあると思われます。2015年の高値を超えると動きが加速する可能性があるだけに、早ければ夏頃にも130円が現実化してくるのではと予想しています。

2016年12月29日 記

<プロフィール>(やまおか・かずまさ)
1992年チェースマンハッタン銀行入行
1994年ロイヤルバンクオブスコットランド銀行
(旧ナショナルウェストミンスター銀行)移籍
10年以上インターバンクディーラーとして活躍した後にGCIグループに参画。
2016年3月より株式会社みんかぶマガジン社・FX情報配信部門 部長兼 編集長
(社)日本証券アナリスト協会検定会員
主な著書として「外為投資ネットでらくらく儲かる方法」(すばる舎)
はじめての人のFX(外国為替証拠金取引)基礎知識&儲けのルール」(すばる舎)がある


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