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【特集】「“トランプ大統領”は福音か? 現地市場関係者の声」馬渕治好氏に聞く!<直撃Q&A>

馬渕治好氏(ブーケ・ド・フルーレット代表)
 ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利にいったん株式市場は身構えたものの、いざ蓋を開けてみれば、トランプショックの直撃は日本株市場では大統領選当日だけ、また米国株は押し目を形成することなく浮上するかたちとなった。その後、日経平均株価は年内のハードルとしては高いとみられていた1万8000円台回復を難なく達成、さらに上値をうかがう動きをみせている。果たして、“トランプノミクス”は日米両国に福音をもたらすのか。11月下旬に訪米し、現地の市場関係者を取材しているブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏に貴重な話を聞かせてもらった。

Q1 トランプ氏が11月8日の米大統領選で勝利したことは米国でも驚きをもって受け止められたと思いますが、現地9日の米国株市場ではNYダウが大幅高に買われました。この時、現地のムードはどうだったのでしょうか?

馬渕 現地でも直後からの株高は、極めて意外だったようだ。少数の投機筋が、トランプ政権は景気刺激的だから株高だろうと、とりあえずの「賭け」として買いに出たところ、様子見の投資家が多いため株価が上振れし、慌てた売り方が、反射神経的に買い戻したとみられる。現地で友人のヘッジファンドは、「動物的な恐怖心から買い戻した」と言っていた。そうした買い戻し相場に勢いがついて、「トランプ次期政権の経済政策を考えると株高でよいのだ」という理屈が後から付けられたのが今の株高だとすると、次期政権が実際に発足する来年1月辺りまでに、米株式市場が冷静に戻り、いったんは株価の反落が生じることが見込まれる。

Q2 馬渕さんが11月下旬に訪米した際に、ニューヨークの市場関係者とワシントンDCの関係者とではトランプ次期大統領に対する見方や評価が違っていたということですが、具体的にはどういう違いでしょうか?

馬渕 ニューヨークでは、「株が上がっているのだから、トランプ政権は少なくとも経済政策については大丈夫、ということなのだろう」と、楽観的な意見が多かった。一方ワシントンDCでは、トランプ氏本人より、危険思想を持った取り巻きが政権入りすることが問題だ、との声が強かった。また、トランプ氏を支持した製造業の労働者たちが望むような、旧来型製造業、たとえば自動車や機械といった産業などの復権は、トランプ氏でも無理なので、次期政権の支持率は失望によりいずれ大幅に低下し、議会共和党はこのままでは2018年の中間選挙を戦えないとして、共和党と大統領の関係がかなり悪化するのではないか、といった悲観論が優勢だった。ワシントンの悲観論が100%正しくはなくとも、かなり真実に近いのではないかと考えている。

Q3 大型減税と積極的なインフラ投資などトランプ政策へのマーケットの期待は大きい一方で、米長期金利の急上昇など先行きに対する漠然とした不透明感もあります。来年1月20日の新大統領就任後の米国経済についてどう見ますか?

馬渕 トランプ氏の経済政策は、需要を刺激するものではあるが、一種のカンフル剤に過ぎないと言える。米国産業・企業の競争力を高めるものではなく、かえって、海外生産や安価な輸入で収益を伸ばそうという企業努力を妨害するものでもある。とすると米国経済の長期的な成長力は高まらず、カンフル剤が切れると、後に残ったのは財政赤字だけだった、という恐れがあり得る。現地でも、18年には米経済が失速するとの懸念が聞かれた。前述のような支持率低下による政治面の不透明感の高まりが、景気の悪化に重なると、早ければ17年後半に、そうした悪材料を先取りして、米株価や米ドル相場が軟化に向かう恐れもあるだろう。

(聞き手・中村潤一)

<プロフィール>(まぶち・はるよし)

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米MIT修士課程終了。米国CFA(証券アナリスト)。マスコミ出演は多数。最新の書籍は「勝率9割の投資セオリーは存在するか」(東洋経済新報社)。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。

出所:株経ONLINE(株式会社みんかぶ)

最終更新日:2016年12月08日 18時18分

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