【経済】【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(1):◆見落とされた二つの視点◆
日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより
〇根強い円高論、見落とされた二つの視点〇
トランプ氏がツイッターで「ドル高は行き過ぎ」と言っただけで相場は反転する、あるいはトランプ政策の躓きが表面化すれば、早晩ドル高に急ブレーキが掛かるとの警戒ムードは強い。円安に依存した日本株(25日のドル建て日経平均は162.45ドルと大統領選前の165ドル近辺から弱含み推移)上昇にもブレーキが掛かると見られている。
円高を主張してきたJPモルガンの佐々木融氏がロイターコラムで「ドル円急騰の背景に『2つの損切り』の影」と寄稿している。それによると、ドル円の上昇は2週間弱で12%強、1995年以来の現象と指摘。これほどの急騰劇には、円ロングポジションの損切りと債券ロングポジションの損切りの二つの側面が重なったためとしている。
日米10年債金利差との相関は、選挙前は0.1%拡大するとドル円は1.6円の上昇だったが、選挙後は3円程度に拡大。倍近い拡大は投機的ポジションの動きでないと説明できないとしている。また、UBSなども利回り格差拡大では説明できないとしている。過去20年の分析だと、格差2.1~2.2%の時、100~103円近辺に収まる傾向としている(ただし、この分析だと、過去と決別した黒田バズーカ、最近のイールドカーブコントロール政策の意義を認めないことになるのだが)。結論的には、ポジション調整の動きであれば早晩限界が来る、との見方が根強い円高論の背景にあると思われる。
11月第2~3週で、海外投資家は日本株を1兆8038億円(現物8909億円+先物9128億円)買い越した。売りポジションの巻き戻しも入っているので、全額海外から買いに来た訳ではないが、日本株を買う時、円売りヘッジを行うのが定例になっている。これがアベノミクス相場の一つの特色だ。割合は不明だが、円安の勢いに貢献していることは間違いなかろう。米株と連動する日本株買いは、投機筋のポジションだけで動向を測れるものではない。円高論で見落とされている一つの要素と考えられる。
もう一つ、財務省の対内対外証券投資によると、国内勢による海外中長期債投資は第2週が4662億円の買い越し、第3週が2606億円の売り越し。選挙直前3週が6053億円、8923億円、7743億円の買い越しだったことから見て、米金利上昇に対し国内勢は買い向かっていない。買い向かう場合、ドルヘッジをすれば円高要因となり、米金利上昇も抑えられることになる。何故動かないのか、生保のコメントによると、ヘッジコストが高いため。3ヵ月物ヘッジコストは1.85%程度に上昇し、10年米国債の実質利回りは0.5%強。ひと頃のマイナスから見れば改善しているが、為替変動の大きい局面では動き難い。為替ヘッジをしなければ円安要因になる。
元々、米国債需給では、サウジ、中国、さらにカリブ海諸国(タックスヘイブン)の売り圧迫がある。有力な買い手は日本ぐらいしか見当たらない状況だ。米国が金利安定を模索するようになると、(インフラ銀行への資金供給など)何某かの協調体制を求める動きになると思われる。日米協調は不可欠と考えられる。総合的なトランプ政策のバランスを注視して行く必要があろう。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/11/28号)
《WA》
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