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【経済】<トップインタビュー> いちご 長谷川代表執行役社長に聞く

長谷川拓磨氏(いちご 代表執行役社長)

―いちごの成長エンジンとなる心築事業―

●長谷川拓磨氏(いちご 代表執行役社長)

 不動産関連事業で継続的な成長を図ることにより社会貢献し、経済的な部分と同時に心の部分の豊かさを日本にもたらすことを標榜しているいちご <2337> 。同社は、昨年11月に念願の東証1部上場を果たした。これを機会に、新たな中期経営計画を策定、さらに、従来の“不動産再生事業”を“心築事業”に変更、また独自の株主還元策「累進的配当政策」も導入している。今後の同社の戦略について「いまは、10歳、6歳、2歳の3人の女の子の子育てが一番の趣味」という優しいパパの一面も持つ長谷川拓磨社長に聞いた。

●経営理念の『日本を世界一豊かに。その未来へ心を尽くす一期一会の「いちご」』について教えてください

長谷川 当社は昨年の11月に、念願であった東証1部に市場変更させていただきました。当社の一番の存在意義は、不動産を通して皆様から求められる事業を実現し継続することによる社会貢献であることは間違いありません。当社は国内のみで不動産事業を展開しており、日本の皆様に経済的な部分と同時に、心の豊かさが広がっていくような両面でのお手伝いができたらいいなと思い、今期からこの経営理念を掲げています。

●既存不動産に新しい価値を創造する「心築事業」の内容はどのようなものですか

長谷川 イメージで申し上げると“不動産に価値を加えていく”ということになります。前期までは“不動産再生事業”と呼んでいたものを今期から“心築事業”と改めました。不動産の再生というと、言葉のイメージとして外部からも“悪いものを少し良くする”といったとらえられ方をされがちでした。そこで、昨年から新たな事業計画を策定するなかで半年程度掛けて、新しい言葉を探す過程で“心を込めて不動産の価値を築いていく、お客様との関係もしっかり築いていく”という意味に、不動産の価値を高めていくことも含めて心築と名付けました。経済的な豊かさだけでなく心の豊かさの構築という意味合いも加わっています。心築という言葉には“壊さない再生”という面もあります。建物を壊すのではなく、建物の価値を生かすことで、サステナブルな社会に寄与するものです。

 心築事業は、当社の事業のなかでは収益の柱で、現在評価額で1500億円程度の不動産を保有していますが、これを心築事業によって価値を向上させ、J-REITに提供したり、不動産の保有ニーズのある方へ売却したりしています。したがって、この心築事業はメーカーでいうところの工場のような役割を果たしており、当社にとっての成長エンジンとなっています。

●「J-REIT」をはじめとしたアセットマネジメントの現状はいかがでしょうか

 長谷川 アセットマネジメント事業では、現在J-REIT市場に、2つの銘柄が上場しています。資産規模30億~50億円程度の中規模オフィスビル物件で構成されるいちごオフィスリート投資法人 <8975> [東証R](運用資産残高約2000億円)は、12期連続で増配を続けており、今後14期までの増配を想定しています。さらに、昨年11月に上場したホテル特化型のいちごホテルリート投資法人 <3463> [東証R](運用資産残高約500億円)では、なるべく早い時期での運用資産残高1000億円を目指しています。これに加えて、「いちごグリーンインフラ投資法人」を既に設立し、上場に向けて準備を進めています。これはクリーンエネルギー事業のメガソーラーなどのインフラをアセットとして3つ目の上場投資信託として、12月の上場を計画しています。このアセットマネジメント事業は、投資口というかたちで投資家の皆様にインカムゲインとして、しっかり配当することを目指したものです。

●太陽光発電などクリーンエネルギー事業が拡大を続けていますが

 長谷川 いま、全国で37ヵ所の発電所(合計発電規模約116MW)での売電開始や開発が確定しています。そのうち実際に発電を開始しているのは31発電所(同51.63MW)で売電がスタートしています。関東最大級となる群馬県昭和村(43.35MW=18年1月売電開始予定)以外は中小サイズの発電所が多いものの、北海道から沖縄まで地域的に幅広いポートフォリオを展開しているのが特長です。今後は、三重県津市での公募の案件に採用が決まるなど順調な成長が見込まれるのに加え、いちごとしては初となる、岡山県笠岡市のため池での“水上メガソーラー”の公募案件でも内定を獲得しています。さらに、風力発電についても、不動産業のノウハウを生かせる部分もあるので、来期中の事業化に向けて風況観測などを実施し検討を進めています。

●17年2月期第2四半期累計(3-8月)決算と、17年2月期通期業績見通しについて教えてください。

長谷川 17年2月期第2四半期累計の純利益は、前年同期比2.8倍と大幅増益で、通期に対する進捗率も89%に達しています。実は第1四半期、第2四半期に比較的大きなイベントが重なって、不動産賃貸損益約51億円、不動産譲渡損益約103億円を計上したことも、利益急拡大の要因となっています。下期は「いちごグリーンインフラ投資法人」のインフラファンド市場への新規上場が、通期業績向上への大きな要素となります。

●中期経営計画「Power Up 2019」での飛躍のポイントをお話しください

長谷川 今期から、“成長と深化”により持続的成長を果たし、企業力を深掘りし、次の成長エンジンとなる19年2月期を最終年度とした新中期経営計画「Power Up 2019」がスタートし、最終年度には純利益148億円を目指しています。まずは、いちごオフィスリート、いちごホテルリートの持続的成長や、新投資法人のインフラファンド市場への上場など既存事業のさらなる強化と深化により強力な収益基盤を構築します。

 さらに、新規事業創出としては、(1)現状のリートだけではなく、現物不動産をオーナーシップとして所有したいという個人のお客様の投資ニーズに対応する“不動産に特化したプライベートバンキング”的な新たなビジネス機会を創出します。(2)政府が20年に現在の2倍に当たる4000万人の訪日外国人客数を目指す「観光立国」の方針に打ち出すなど、ビジネスチャンスが拡大するなかで、ホテルを利用するツーリズム需要は拡大する見通しで、いちごホテルリートとのシナジーをもたらす宿泊施設の提供を目指します。(3)不動産×IT=「不動テック」を活用したビジネスの創出です。いま、金融業界では“フィンテック”の動きが加速していますが、不動産は一番IT化が遅れている業界のひとつです。不動産のリアルとITのバーチャルを融合したイノベーションを活用して、個人に対して分かりやすいかたちで不動産のさまざまな情報の風通しを良くすることが間違いなく必要になってくると思います。

―他社に先駆けて「累進的配当政策」を導入―

●他社にない画期的な株主還元の具体策を打ち出していますね

長谷川 他社に先駆けて「累進的配当政策」の導入を進めています。これは、各年度当たりの1株当たりの配当金(DPS)の下限を、前年度1株当たり配当金額とし、原則として「減配しないこと」を宣言することにより、配当金の成長を図るとともに、将来の配当水準の透明性を高めるものです。同時に、株主資本を基準とした「株主資本配当率(DOE)3%以上」を採用することにより、配当の安定化を図ります。

 一般的には、当期純利益に対する配当の割合を示す「配当性向」が基準とされていますが、当社では株主様からお預かりしている株主資本の何%を配当できているかという株主資本配当率を重視しています。これにより、原則として、「減配なし、配当維持もしくは増配のみ」を明確な方針としています。ただ、不動産業にとっては、この「累進的配当政策」はチャレンジングな取り組みと思っており、いかにして安定的な収益源を確保しつつ継続的に成長できるかが重要です。

―不動産業界のトヨタを目指す!―

●企業グループ「いちご」が目指す長期的な将来像をお示しください

長谷川 今後も不動産を軸としてさまざまな事業を展開し、社会に貢献していきたいと思っています。とにかく、“不動産であればいちご”といってもらえる企業を目指します。不動産業界のなかでのトヨタ自動車 <7203> のような会社になりたいと思っています。これは企業規模ではなくて、トヨタは「安心、安全で、燃費が良く、環境への配慮、メンテナンスが行き届いている」という企業イメージが定評となっています。まさに、不動産事業こそこうあるべきだと思っています。現状では、こうしたことが出来ている不動産会社は少ないのではないでしょうか。そこをしっかりと意識して社会に貢献できるような企業を目指します。

(聞き手・冨田康夫)

●長谷川拓磨(はせがわ・たくま)
(株)フジタ入社後、開発事業に従事。2002年当社グループ入社後、ファンド事業、開発事業全般に従事。不動産部門全体の責任者を歴任。当社グループを代表するディールメーカーの1人。2011年1月より、いちご地所株式会社を立ち上げ、マーケットにおいて、活況な中小規模不動産を活用した新規ビジネスを主として取り組む。また、これまでの開発経験を生かし、底地を活用したビジネスも展開。2015年5月当社代表執行役社長に就任。

株式会社いちご

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