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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「フィンテック祭り再び」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

 9月相場は投資家の不安心理をよそに着実に上値を慕う展開をみせてきましたが、7日は、米経済指標を受けて為替市場で円買いの動きが再燃したことで、いったん下値を試す動きとなっています。しかし、かなり派手な円高演出にもかかわらず、株式市場では慌てた印象がみられません。

 今週を振り返ると、日経平均株価は週明けの5日に、満を持して1万7000円大台回復を果たしました。また、テクニカル的に長期波動をみるうえでの分水嶺である200日移動平均線も同日に上回りました。200日線クリアは昨年12月18日以来、約9ヵ月ぶりのことであり本来であれば買い方の気勢が上がる場面です。しかし、これまでの経緯から鬼門となっていたはずの上値のフシを、売買代金2兆円台を割り込んだままの低調な市場エネルギーで、スルリと滑りこむように通過したことに違和感を持った市場関係者も少なくなかったようです。正直、弓を引き絞った状態である“満を持して”という形容からはかけ離れた、静かなる大台替えであったといえます。

●為替と株の連動性消滅

 問題は、この静かなる因縁場の突破と超長期移動平均線越えの同時達成が、上昇相場復活に向けた確かな道標となり得るかどうかです。

 今夏は7月21日と8月12日に2度にわたって1万7000円台乗せ挑戦場面があり、いずれも1万6900円台で力尽きて跳ね返されたわけですが、この2度の大台トライ場面では背景に大きな相違がありました。7月21日は2兆6000億円弱の売買代金をこなしており、売り買い交錯のなか力ずくで売りに押し戻されたという感じでしたが、この時のドル・円相場は1ドル=106~107円の水準でした。いうまでもなく現在より4~5円の円安レベルです。ところが、8月12日の日経平均1万6900円台は現在と同じ1ドル=101~102円の水準。

 つまり、7月21日から8月12日の約3週間の間に相場のメカニズムに大きな変化が生じていることが分かります。これまで為替の円高とリンクさせていた東京株式市場の売りプログラムが外された理由として挙げられるのはいうまでもなく、7月29日に行われた日銀金融政策決定会合において、黒田日銀総裁が追加緩和策としてのETF購入枠倍増に踏み切った事実をおいて他にありません。相場のメカニズムの変化とはすなわち売り圧力の減殺です。

●善悪はともかく“親方日銀相場”

 しかも、日銀は宣言通りの月5000億円ペースの買い入れを行っていない。週明け5日の相場で日経平均1万7100円台まで無風通過となったのは、希薄化された売り玉の実態を反映したものであり、日銀の強力な「見せ札」効果によるものです。

 日銀は新型ETFを毎日12億円ずつ、まるで貯金箱に100円玉を落とすように儀式的に買いを入れてはいますが、金額的にみて相場の大勢トレンドに与えるインパクトはほとんどないといってよさそうです。マーケット関係者や投資家が固唾を飲んで見守るのは700億円強の“ETFバズーカ砲”。これについては9月7日に733億円の買い入れを行いましたが、8月26日から9月6日までは全く音沙汰なしでした。日銀の真意は明らかではありませんが、状況的にみれば、手の内にジョーカーがあることを知らしめたうえで、切るぞ切るぞとモーションをかけながら切らない焦らし作戦。これが図に当たり、相場は摩擦を極力落とした状態でスルスルと上値を指向する展開となっているのです。

 既に日銀は信託銀行などを通じて間接的に企業の株式を大量保有し、株式名簿には記載されないものの、実質的な大株主として東京市場に覆いかぶさった格好となっています。あたかも売り方を四方固めで抑え込んでいるような状態。コーポレート・ガバナンスや経営規律の緩みなど問題を生じさせ、緩和政策である以上はどこかで出口を考えなければならない理屈ですが、今は売り方にとって国策に売りなしを意識せざるを得ない局面であることも事実です。結論として当面は全体相場に強気になってよいと考えます。

●9月は「押さば買い」で対処

 ジンクスはあくまでバックミラーに映る過去の軌跡に過ぎませんが、9月は月間騰落率で最もパフォーマンスの悪い月として知られています。米国では8月のISM非製造業景況指数が大幅低下し6年半ぶりの低い水準となったことで、盤石にみえた米景気にも一抹の不安が漂っています。米国の9月利上げのシナリオも揺れに揺れている状態。とすれば、投資家サイドとしては積極的に動きづらいという判断が成り立ちます。

 しかし、ここは刹那的であってもしたたかに、親方日の丸ならぬ“親方日銀効果”を見ておくところ。押し目があればすかさず買い下がり、「押さば買い」のスタンスが有力な手段であると思われます。

 年末に向けた相場を占ううえで最大の難所ともいえる次の日米の金融会合が9月20~21日という同じスケジュールで行われるというのも巡り合わせといえるでしょうか。時差の関係で日銀がFRBに半歩先行して態度を明らかにする必要があり、浜田内閣官房参与が指摘したようにFOMC前に追加緩和の決定を下すのは難しい部分もあります。総括的検証に伴い、マーケットをポジティブ誘導することは考えられますが、実際にここで緩和のカードを切る可能性は低いとみています。

 一方、FRBは「雇用統計重視」とはいえども、先のISM景況指数などを横目に、敢えて大統領選前の9月利上げに動くかといえば、比較的その選択肢は回避されやすいと思います。結果として日米ともにノーアクションと読みますが、もしそうなった場合には、為替市場では円高バイアスがかかることは仕方のないところ。ただし、今はイコール株安ともいえなくなっている。円高・株安のプログラム売買が既に霧消しているのかどうか、この時に東京市場の真価が問われるとみています。

 そして、もう一つ上昇相場の帰趨を握る外国人投資家の動向にも注目。昨年は10月から買い越し姿勢を明示してきましたが、今回もそれに準じた展開となれば相場の上昇エンジンとして機能することになり、年内1万8000円台回復のシナリオも現実味を帯びてくることになります。

フィンテック関連ネクストステージ

 さて個別銘柄では、目先的には15日から幕張メッセで開催される「東京ゲームショウ2016」を前にゲーム関連株の追撃が有力。ミクシィ <2121> [東証M]、アドウェイズ <2489> [東証M]、コロプラ <3668> 、KLab <3656> 、クルーズ <2138> [JQ]などはチャート的にも魅力的といえます。

 一方、テーマ買い対象として復活のタイミングを感じさせるのがフィンテック関連です。8月下旬に日銀が第1回Fintechフォーラムを主催するなど同業界への姿勢を高めていることがひとつ。また、民間も三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> などをはじめメガバンクがフィンテック分野を深耕していくうえで、ITベンチャーとのアライアンスに前向きな動きをみせていることもポイントです。三菱UFJは2018年をメドに、日立製作所 <6501> と連携してブロックチェーン技術を用いた小切手決済に踏み込む構えが伝わっています。こうした“大資本企業の本気”は、周辺企業にとっても活力を与えることになります。

 関連銘柄として、まず注目したいのはさくらインターネット <3778> とインフォテリア <3853> [東証M]。両銘柄の昨年来の週足チャートを比較してみると、特異な軌道にもかかわらず驚くほど似ていることに気づかされます。この2銘柄はテーマ物色で先陣を切っており、今後もツートップ指標株として要注目。時価は13週移動平均線の上に浮上、信用取組も程よく売り残が乗っており、動意前夜の雰囲気を漂わせています。

 業績面で成長期待と安定感を併せ持つラクーン <3031> も有力。年初に879円まで一気に買われた実績がありますが、足もと小刻みながら上値指向を明示しています。

 このほかマネーパートナーズグループ <8732> 、アイリッジ <3917> [東証M]、セレス <3696> [東証M]、ウェルネット <2428> 、GMOペイメントゲートウェイ <3769> 、アイビーシー <3920> [東証M]などに打診買いを入れてみたいところです。

(9月7日記、隔週水曜日掲載)

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