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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「ETF買い裏街道・意表の低位株に勝機」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●悲観と楽観の狭間で漂う相場

 空が悲観一色に染まる瞬間が、実は次なる上昇ステージの黎明だった、ということが相場には往々にしてあります。特に今年はそういう場面によく遭遇します。またその裏返しで、楽観ムードに支配された途端、眼前に断崖絶壁が出現するというケースに出くわすことも頻繁にあり、なかなか方向感が定まらないのが2016年相場の特徴といえます。

 最近の例では6月24日。いわゆるブレグジット・ショックで日経平均株価が1286円安の暴落をみせ1万5000円大台を割り込んだ日ですが、むしろ注目すべきはその後の足取りです。週をまたいだ6月27日から間髪を入れず戻りに転じ、7月4日にかけて今年初の6連騰で800円以上の戻りを演じて、あっという間に下げ幅の3分の2戻しを達成。この時、知り合いの市場関係者からは、狐につままれたような気分という声も聞かれました。しかし、7月5日からは再び売り方が闊歩する地合いに急変、欧州金融機関の信用不安をネガティブ材料に4日間で670円安と戻りの8割を消滅させ、やはり英国のEU離脱決定の影響は不可避というムードを市場に植え付けました。

 もっとも、ジェットコースター相場の真骨頂はここからです。ブレグジットで世界株市場が暗いトンネルに入るかとみられた矢先、再び目を覚ましたかのように日経平均は再度6連騰で1600円上昇、7月21日にはザラ場1万7000円台目前まで水準を切り上げ、この間に米国市場ではNYダウが14ヵ月ぶりに最高値を更新するというオマケ付きの大出直り相場が演出されました。7月8日発表の6月の米雇用統計がサプライズともいえる急改善を示したことが米国株主導で反転の足場を作った格好ですが、前回も触れましたように「不確実性の高まり」を瞬時に霧消させた本質は何かと問えば、過剰流動性のなせる業というのがその答えです。

●辛口のリアリズムで立ち回る

 その後マーケットは再び軟化、29日に発表された日銀の追加緩和はETF買い入れ枠拡大とドル資金供給の上乗せにとどまり、市場はこの材料を消化しきれず1万6100円台まで沈み、悲観が漂い始めると、それを打ち消すかのようにまた買い直されるという、ハイボラティリティな上下動の繰り返しとなりました。ただ、日銀のETF買い入れ増額決定後の8月2日には豪州準備銀行、4日にはイングランド銀行が金融緩和に動いており、世界を覆う広義のヘリコプターマネーがさらに勢いを加えている状況で、世界株高の潮流は続いていると考えています。

 こうした経緯を踏まえて東京市場を眺望すると、見えてくるのは、ボックス圏往来を強いられながら、奇妙な安定感も同居しているポスト・アベノミクス相場の実態です。海外からの突風に主体性なく舞い踊っている感は否めませんが、16年相場を振り返れば売り飽き気分が出たところで買い、買い疲れ感を感じたら売るという辛口のリアリズムが、投資スタンスとして結果的に功を奏すかたちとなっているのです。

●日米金利差と政治的思惑の綱引き

 注目された7月の米雇用統計は非農業部門の雇用者数が前月比で25.5万人の増加と市場コンセンサスの18万人増を大きく上回りました。これにより利上げ観測が高まり、為替も日米金利差拡大思惑が、円高の進行を抑えています。現状では9月の利上げ実施を予想する向きはかなり少数派ですが、9月20~21日のFOMCまでには8月の雇用統計を筆頭に重要経済指標が数多く控えており、これらの結果次第ではFRBが9月に利上げのカードを切ることも現実味を帯びる可能性が出てきます。仮にここで見送られても、11月の大統領選が終わった後、12月の利上げについては否が応でもマーケットは思惑の段階で織り込みに行く展開が予想されます。

 一方、日銀もFOMCと同じく9月20~21日に金融政策決定会合を控えており、ここでの緩和検証が今後の金融政策にどういう方向性を示唆するのかは不明ですが、少なくとも緩和縮小の流れをマーケットに印象づけるようなことはないと思われます。

 相場の帰趨を握る為替動向については、11月の大統領選を控え、クリントン、トランプ両氏ともドル高牽制の立場に変化はなく、この政治的な思惑がどう作用するかは未知数。しかし日米金利差拡大の思惑が高まるなかで、中期では円安傾向に流れるとみています。当面注意を要するのは、8月26日のジャクソンホールで予定されるイエレンFRB議長の発言で、いったん1ドル=100円割れを意識する円高に振れる可能性は十分にありますが、その後は105~107円程度を視界に置く円安トレンドを想定しています。

●ETF買いよりも外国人買い

 日経平均は日銀のETF買い増額の効果で以前と比べ為替相場との連動性は薄れてはいます。とはいえ、今の相場は上値を買う主体がいないのが弱み。相場を立ち直らせるには外国人投資家の物色意欲を取り込むことです。ETF買いはセーフティネットの役割は果たしても、跳躍の踏み台にはなりにくい。買い主体としての外国人投資家復活の条件は、経済対策の効果発現と円安による企業収益に対するポジティブマインドが醸成されること。4月25日の戻り高値1万7613円を払拭するためには、この2つの条件が揃うことが重要であると考えています。

 個別銘柄では、日銀のETF買いのインパクトの大きさが意識されるなかで、時価総額比で想定資金流入額の大きい日経平均採用の値がさ株に追い風が強い、というのが今のマーケットの通説になっています。この場合、ファーストリテイリング <9983> 、アドバンテスト <6857> 、ソフトバンクグループ <9984> 、TDK <6762> 、ファナック <6954> 、ダイキン工業 <6367> 、東京エレクトロン <8035> などがその有力候補となります。しかし、個人投資家がキャピタルゲインを狙う対象として照準を合わせる銘柄としては、それほど魅力がある対象とは思えません。

●意表の低位株投資に活路

 ここは「人の行く裏に道あり花の山」であえて低位株に活路を見いだしてみるのも一法。ここ急速に動意づく銘柄が相次いでおり、徐々にマーケットの視線が強まる可能性があります。直近では虹技 <5603> 、UACJ <5741> 、沖電線 <5815> 、パイオニア <6773> 、日本ケミコン <6997> のほか、北越銀行 <8325> 、西日本シティ銀行 <8327> 、宮崎銀行 <8393> などの地銀株が動意含みです。

 さらに値動きの激しい東証2部ではアサヒ衛陶 <5341> [東証2]が急騰後急反落していますが、日本伸銅 <5753> [東証2]、ジー・スリーホールディングス <3647> [東証2]、三井住建道路 <1776> [東証2]、などの値動きは必然的に注目を集めそうです。ただし、投資ではなくあくまでトレードの観点で割り切って見ておく必要はありそうです。

(8月10日記、隔週水曜日掲載)


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