市場ニュース

戻る
 

【市況】中村潤一の相場スクランブル 「日銀決定会合での秘策とは?」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●人を不安にするのは人の意見

 相場は川の流れのごとくその正体が定まることはありません。株価は時々刻々と変遷し、なおかつ接近してどんなに目を凝らしても、一寸たりとも時間を飛び越え未来を見極めることは不可能。見えないからこそ至近距離で対峙する投資家に対して、時に陶酔にも似た楽観や、恐怖にも近い悲観をもたらすのです。

 後期ストア派の哲人エピクテトスは「人を不安にするのは物事ではなく、物事についての意見である」という至言を残しています。それはまさに投資家心理を操る相場の本質的な部分と合致していると思います。株式市場はいわば“仮説の塊(かたまり)”といってよく、後講釈で出てくる株価の高安の理由については、真相と離れていることも決して少なくないでしょう。ところが、実際は影響力の強いところから出てくる意見はそのままマーケットを闊歩し、投資家は高い確率でバイアスのかかった方向にセンチメントを誘導されてしまうのが常といえます。

●空売り投機筋の舞台装置

 今年に入り1月と2月合算で外国人投資家は日本株を現物で3兆円強売り越しました。3兆7000億円以上売り越した昨年8、9月には及びませんが、その時を彷彿とさせる売り攻勢であったことは確かです。日経平均株価の急落は現象面からは、世界的なリスクオフの流れを受けたこの外国人売りと結論できますが、根本の理由は何かと聞かれれば人それぞれの視点によって違った切り口の見解が出てくるところです。仮に同様の経済環境にあって、1、2月に株価が大きく下がらず狭いボックス圏往来で推移したとしても、それを不思議がる人はいなかったでしょう。

 原油安を背景としたオイルマネーの穴埋め換金売りが喧伝され、中国景気のダッチロール飛行を想起させる減速が世界経済懸念へと波紋を広げるなか、リーマン・ショック再来と著名投資家が重く語れば、舞台装置としては売り方万歳の出来映えとなります。もちろん、年明け以降の経済環境が株式市場に逆風であることは事実ですが、空売りを仕掛けた投機マネーが実態以上に悪環境を強調したポジショントークを加えたことで、下げを助長した部分もあったはずです。昨年同様に、今年1、2月は堰(せき)を切ったように出てきたネガティブな「意見」が不安心理の源泉となったといえるのです。

 世界株市場が急落した昨年8、9月を経て年末までの株価復元過程は、こうした短期空売り筋の決済ニーズが反動高を生んだわけで、今回も同じような浮揚力が働く可能性は十分に考えられます。

●長期トレンドは戻り売り

 ただし、長期の大勢トレンドは既に崩れ足で完全修復が難しい段階に入っていると判断しており、今年中に昨年6月24日の高値2万952円を払拭して次のステージに向かうような展開はかなり困難を伴うと考えています。今16年3月期の主要企業の業績は当初見込みを下回るとはいえ8%程度の増益が確保されるとの見方が支配的。しかしマーケットの視線はいうまでもなく来17年3月期です。現状は4~5%の増益を想定する調査機関が多いようですが、今期決算発表が実施される4~5月の時点で、企業側のガイダンスは弱気に傾くことが予想され、その時点で来期の全体業績見通しが横ばいもしくは減益ということになれば、今の水準より日経平均は下に振れる公算が大きくなりそうです。

 ストラテジーとしては短期回転が前提であれば下値に大きく突っ込んだ場面の逆張りが有効。一方、資金を長く寝かせたいのであれば、今は“休むも相場”すなわち買い場とはいえないと思います。決算発表時の企業側の弱気のバイアスがかかった「意見」に市場が揺れ、ゴールデンウイーク後から夏場にかけての下値模索局面があれば、そこは出動のタイミングとして適切であると思われます。

●日銀の決定会合で秘策は出るか

 さて、時間軸を変えて当面のスケジュールに目を向けてみましょう。まずは10日の欧州中央銀行(ECB)定例理事会ですが、ここでの追加緩和の可能性は高そうです。しかし、実施したとしても織り込み済みであり、通常モードの緩和であればポジティブサプライズは伴いません。したがってマーケット関係者が熱視線を向けるのは14~15日の日銀金融政策決定会合のほうでしょう。

 1月29日のマイナス金利導入のトラウマが日銀の舵取りを極めて難しくしています。これまでのように「追加緩和イコール買い」の方程式は通用しづらくなっているからです。マイナス金利幅を拡大すれば、銀行株は売り直されるかたちとなり、内需の要であるセクターを叩きながらの上昇シナリオが画餅(がべい)に帰すことは既に証明された格好です。

 29日に続くバズーカ2連発の可能性は低く「現状維持」が基本線。しかし、このままでは期末に向けて日経平均は漸次水準を切り下げ、せっかくの底入れムードが雲散霧消する懸念も出てきます。ドラスチックなETF買い入れ枠拡大などの強力な量的緩和を行い、マイナス金利には手をつけないのが理想であり、秘策として考えられるのはこのパターンではないかと考えます。

 もっとも、業界関係者の声を聞くと「黒田日銀総裁がマイナス金利政策を肯定している以上、その選択肢は取りにくい」という答えが返ってきました。マイナス金利とセットでの量的緩和では、果たして市場が素直に好感するかは未知数といえます。

 一方、15~16日の連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ見送りの可能性が高く、日銀が音無しの構え(現状維持)をみせた場合は、為替の円高という株式市場にとって最も警戒するシナリオが蠢(うごめ)きだします。直近の日本株は売り方(黒い目を含む外国人)の買い戻しプロセスにあると思われ、乱気流相場が上に行くか下に行くかは紙一重の部分もありますが、3月第3週を通過しないと積極的な買いポジションは取りにくいというのが率直なイメージです。

(3月9日記、隔週水曜日掲載)

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均