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【市況】中村潤一の相場スクランブル 「視界ゼロ相場で見えてきたもの」

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

株式経済新聞 副編集長 中村潤一

●運命が支配しない残りの半分

 株式市場は羅針盤を失った状態で、濃霧の海原を航海するがごとき様相となってきました。日銀のマイナス金利導入決定を受けいったんマーケットは色めき立ちましたが、やはり銀行株を傷めながら上昇する相場にはおのずと限界があります。実際、為替相場の円安誘導と合わせた急騰劇は2日間で幕引きとなり、その後は上昇分の3倍返しで売りの洗礼を浴びる結果となりました。

 振り返って1月29日、日経平均株価は後場の短い時間の中でN字型の乱高下をみせましたが、2度目の急浮上場面では個人投資家もその後の上昇相場を“確信”して買い乗せした向きが多かったようです。結果的にアダ花となってしまったものの、そこでの判断が浅はかだったわけではありません。経験豊富な市場関係者であっても、多くの人の耳には黒田バズーカ第3弾は「買いの号砲」に聞こえたからです。

 ただし仮に高値で参戦しても、その後に頭を切り替え、不合理が加速する相場の習性を考慮して素早く手仕舞うことができれば、傷は浅くて済んだはずです。

 元来、株式投資は右か左かの決断を迫られる分岐点の連続といってよいかもしれません。しかし、そうした場面でしばしば間違えてしまうのは、未来を覗くことのできない人間にとって宿命と考えるよりないでしょう。大切なのは間違えた時にどう対処するか、その対応次第でその後の視界は大きく変わってくるのです。『君主論』で有名なマキャベリの言を引けば「運命は我々の行為の半分を支配し、あとの半分を我々自身に委ねている」。相場における本当の勝ち負けはあとの半分によって決まる、運命から渡されたバトンを握る自らに託されている、と理解するべきなのでしょう。

●“北風”政策は株価にもアンフレンドリー

 日銀の決断は、短絡的な見方をすれば思惑とは逆の方向にシナリオが進んでしまったように映ります。銀行に対し当座預金のマクロ加算残高を超える10兆円の部分にマイナス金利を課すというのは、「その分を民間に貸し出しなさい」という日銀の意思ですが、これは「北風と太陽」でいえば“北風”の政策。

 本来であればアベノミクスの成果としての民間の資金需要に銀行が対応するというのが筋であって、強引に引き剥がしてビジョンなき経済活性化を銀行に強いる構図は、既にその時点でアベノミクスの軌道を外れているともいえます。結果的に融資余力を漸減させ、デフレマインドを助長してしまうリスクを孕んでいるのです。10年物国債利回りがマイナスという現実は、ひとつの衝撃には違いありませんが、決してデフレ脱却を担保するものではありません。

 東京市場は今後も上下にボラティリティの高い展開が続きそうです。しかしジェットコースターに例えるなら、引力には逆らえず徐々に頂点を切り下げるような相場つきとなる可能性があります。時価はテクニカル的に売られ過ぎていることは明白ですが、長期で腰を落ち着けて買いを入れるほどの根拠にも乏しい。直感的にまだ完全に下値は出し切っていない感触を持っています。

●リーマン・ショックと同じ匂い!?

 一方、7月の参議院選挙までには政策的な活が入り、相場は上昇基調に戻るという見方もありますが、そこに拠って立つ大樹があるというのは幻想に過ぎません。年が明けてからの波乱相場では安倍政権の一挙手一投足ではなく、海外マーケットの動向とそれを取り巻く環境に視線が集中しているわけで、もはやアベノミクスでは手に負えないところにきています。マイナス金利導入のサプライズ効果が瞬間蒸発してしまったのは、この政策の是非というよりも、海の向こうの大きな悪材料に怯えているからです。

 この見えない悪材料と真剣に対峙しなければならない時が近づいている気もします。年初に「現在のマーケットには2008年のリーマン・ショックと同じ危機を連想させる」と著名投資家のジョージ・ソロス氏が語ったことが伝わっていますが、ここに至ってドイツ銀行を巡り浮上したクレジットリスクの思惑は、ソロス氏が投げかけた波紋と符合する部分がありそうです。08年に先進国を襲った金融システム不安のレベルまで発展する可能性は短期的には乏しいと考えますが、相場の長期トレンドを下降転換させる引き金としては十分過ぎる材料ともいえます。

●相場の黎明はまだ先、為替がすべての鍵を握る

 結論として今の相場は全力で買い向かって報われるようなタイミングではないでしょう。突っ込んだ反動での戻りは見込めますが、それはあくまでトレードであって投資ではない。当面はトレードと割り切って、トヨタ <7203> など主力株の突っ込み短期リバウンド狙いか、あるいはさくらネット <3778> やアイサンテク <4667> [JQ]といった中小型テーマ材料株が再動意した場面でのトレンドフォロー(順張り)。このいずれかに精神を集中したいところです。

 最後に一つの投資の参考として挙げておきたいのは、為替(ドル・円相場)と日経平均株価の連動性の強さです。過去10年間のチャート「日経平均、NYダウ、為替、WTI原油、上海総合指数」などを並べて気づくことは、為替と日経平均、この2銘柄のトレンドが他を凌駕して見事なまでに合致していることです。為替が円安に動けばそれにリンクして日経平均も上昇、さらに円高なら日経平均も下降する。これは鉄板セオリーであり、語弊を承知で言えば、もし円安誘導が叶えば欧米株、中国株、あるいは原油が下落し続けても日本株は上昇できるという理屈になります。

(2月10日記、隔週水曜日掲載)


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