【特集】「TPP関連」で本当に買える株 <株経トップ特集>
―輸入コスト低減と競争力がキーワード―
東京株式市場がにわかに活気を帯びてきた。中国景気減速に端を発した世界経済の停滞懸念が、株式市場に重くのしかかり、8月下旬以降の急速な調整につながったが、ここにきてようやくその歯車が逆回転を始めた印象を受ける。全体相場の戻り局面でタイミング良く買いの材料を提供したのが環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意であり、これによりメリットを受けるとみられる銘柄群が、相次いで物色人気に沸いている。
●農業の成長戦略加速で農機メーカー
米アトランタで行われていたTPPの閣僚会合で、交渉に参加した12ヵ国が大筋合意に達したことは、マーケットにもポジティブ材料として意識されている。これまで、期待先行でなかなか合意に至らず、市場関係者の間でも冷めた見方が蔓延していたが、それだけに今回の妥結は少なからず株式市場にもインパクトを与えている。
物色対象も自動車関連や電子部品など国際競争力の高い工業品を扱うセクターをはじめ、輸入による原料安メリットを受ける食品関連や、貿易活性化で恩恵を受ける商社および海運、倉庫といった業種、さらに成長戦略の要衝でもある国内農業では競争力強化をテーマに農機関連などに物色の矛先が向かっている。
ただ、「全体相場の戻り局面に乗じて思惑先行で短期資金が煽り気味に買いを入れている部分も否めない」(国内中堅証券営業体)という指摘もあり、本腰を入れた投資ではやはり銘柄の選別が重要となってくる。
では、TPPで本当に買いであるのはどこか、中長期スタンスで株価変貌の可能性を秘める銘柄を探ってみる。
●輸入メリットで食品周辺
まず、「輸入メリットという観点では食品周辺が有望視される」と指摘するのは松井証券シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏だ。くしくもTPP関連として早くから思惑含みの動きを示していたのが林兼 <2286> 、プリマ <2281> などをはじめとする食肉加工メーカーだ。食肉の関税引き下げに伴う牛肉や豚肉など原料コスト低下が利益採算を向上させるとの見方が買いの手掛かりとなっている。
特に林兼は6月末から7月末にかけ、特定資金の攻勢観測を背景に株価を倍化させた経緯がある。その後は急落したものの、9月中旬から再び戻り足を強めていた。
●プリマ、山崎パンに上値妙味
プリマハムはPERに割安感があり、相対的に買いやすさがある。ただし、上値は重いものの、中期投資であれば業界大手の日ハム <2282> や伊藤ハ <2284> に買い安心感が強いといえる。
同様に山パン <2212> など製パンや日清粉G <2002> を筆頭とする製粉メーカーは、輸入小麦の関税引き下げで恩恵を享受することになる。日本は小麦消費量の9割を輸入に頼っているだけに、経済的にも波及効果は大きい。
●クボタに法人買い観測
また、安倍政権はTPPを視野に農業の競争力強化を政策テーマに掲げている。今後10年間で農業所得を倍増させる方針を打ち出しており、「(それを後押しする)資金支援の思惑は農薬や農機など関連企業にとっての商機拡大を意味する」(前出の窪田氏)と前向きに評価する。
井関農 <6310> やクボタ <6326> などの農機メーカーは生産者向けにICT化戦略を展開、スマート農業の担い手として注目度が高い。クボタは直近マドを開けて買い進まれており、機関投資家などの大口資金の流入をうかがわせる。
●世界が舞台のサカタのタネ
農薬関連では日農薬 <4997> 、クミアイ化 <4996> 、住友化 <4005> などが要注目。いずれも農林中金を大株主に擁しており、同テーマで存在感を示す。この分野では商品競争力の源となる種苗メーカーにも注目が集まっている。
とりわけ海外展開で圧倒的強みを持つ業界トップのサカタタネ <1377> は外せない銘柄だ。同社は品質が均一化され、生育が早く収穫量も多い「F1種子」を国際的に展開、ブロッコリーの種子では世界シェア約6割と群を抜く。
●自動車周辺にも追い風強い
一方、TPP妥結は工業大国である日本の強さを前面に押し出すチャンスともなる。市場関係者の間では「世界的に輸出競争力の高い商品を扱う電子部品や自動車部品、完成車メーカーにとっての追い風は決して侮れない」(ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏)と指摘する声がある。
特に、トヨタ <7203> をはじめとする大手自動車株はPER面でも割安感が際立っている。「中国景気の減速はあるが、北米が主力で米国景気がしっかりしている現状では大手自動車は売られ過ぎ感が強い」(同)という。自動車部品では業績好調で割安感のあるカルソカンセ <7248> やアイシン <7259> などをマークしておきたい。
ここ大きく売られていたミネベア <6479> や日精工 <6471> 、NTN <6472> など自動車向けベアリングを手掛ける企業についても、ベアリングは高関税商品だけに株価見直しの契機となりそうだ。
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情報提供:日刊株式経済新聞
株探ニュース