トランプ2.0で混迷の国際情勢、マネーは防衛関連中小型株にも流入へ <株探トップ特集>
―日米同盟で軍事費負担は増大の公算、国産ドローンなどの調達拡大シナリオも―
防衛関連株が注目を集めている。世界的な地政学リスクを背景に政府が防衛予算を拡大していることを受け、この恩恵を大いに受けるセクターとして期待が寄せられているためだ。同盟国に対して軍事面で負担増を求めるトランプ米次期政権の誕生も追い風として意識されている。主力の三菱重工業 <7011> [東証P]は足もと上場来高値圏を舞い、川崎重工業 <7012> [東証P]やIHI <7013> [東証P]も三十数年ぶりの高値圏に浮上している。こうしたなか注目したいのが、関連銘柄の中でも時価総額が比較的小さい中小型株だ。前述の主力大型株と比べ株価に出遅れ感のある銘柄も多く注目となる。
●世界の軍需販売拡大、日本勢は35%増
米国で来年1月20日に大統領就任式が行われる。この日をもって第2次トランプ政権が発足することになり、外交・経済の両面で再び世界を振り回すことになりそうだ。トランプ氏が掲げる関税強化など各政策への不安は拭えないところだが、ここで前回の第1次政権の時を振り返ってみたい。サプライズとなった2016年11月の大統領選を経て、翌17年から看板スローガン「米国第一主義」のもとに政権運営をスタート。特に安全保障分野を巡る動向が注目され、自国の防衛力増強とともに同盟各国に対して防衛費の増額を要求した。日本にも在日米軍の駐留経費の負担増を迫った。
また、突然の軍事行動に出たこともある。17年4月、米中首脳会談の最中にシリアへ攻撃を実施した。アサド政権(当時)が化学兵器を使用したとして同国の空軍基地に巡航ミサイルを撃ち込み、中東情勢が一気に緊迫化した。こうしたトランプ政権の一連の動きを受け、株式市場では防衛関連株に関心が寄せられることとなった。ちょうどこの時期に北朝鮮のミサイル発射が相次いでいたことも、投資対象としての注目度を高める要因となった。例えば、小銃や迫撃砲を手掛ける豊和工業 <6203> [東証S]の株価は年初に600円前後で推移していたが、シリア攻撃のあった4月に900円台まで上昇。更にその後北朝鮮のミサイル発射に警戒感が高まり、10月にかけて2800円台まで急騰した経緯がある。
果たして今回のトランプ政権ではどのようなことが起こるだろうか。ウクライナ、パレスチナと2つの戦争が勃発し、米中対立を背景に台湾有事への懸念がくすぶるなど、当時と比べ地政学リスクは格段に増している。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると世界の軍事費は23年まで9年連続で増加。23年の軍需メーカー大手100社の販売額も拡大し、国別では日本が前年比35%増と増収率が高かったという。
●好業績や高配当、PBR1倍割れなど
豊和工業は産業用機械の老舗。工作機械を中心に、前述した小銃や迫撃砲などの防衛装備品を製造する。また、防衛施設周辺の防音工事も手掛ける。足もと装備品の大幅な売り上げ増によって業績が急拡大し、4-9月期の営業利益は前年同期比3.8倍の6億3800万円。通期計画(7億6000万円)に対して8割超の進捗で業績上振れへの期待が膨らむ。株価は好業績を背景に上げ足を速め、17年の大相場以来の高値を突き進んでいる。防衛関連中小型株のなかで一足早く出遅れ修正に動いている。
新明和工業 <7224> [東証P]はダンプ、ゴミ収集車といった特装車の最大手。同社の前身は戦前に軍用機を製造していた「川西航空機」で、現在でも航空機部門において海上自衛隊の救難飛行艇「US-2」を製造している。4-9月期は主力の特装車が好調なことに加え、防衛省向けの売り上げが増加したことも後押しとなり営業29%増益で着地。通期でも増益を見込む。配当は4期連続の増配を計画し、配当利回りは3%台後半と高い。一方、PBRは0.8倍台にあり割安感が意識される。
ジャムコ <7408> [東証P]はギャレー(厨房設備)、ラバトリー(化粧室)といった航空機内装品の世界大手。エンジン部品など機体に使う各種製品の製造、航空機・ヘリコプターの整備事業も展開する。防衛省向けでは整備事業で案件拡大を図っている。同社も業績変化率が高く、4-9月期は営業2.6倍増益を達成。通期でも前期の38%増に続き、今期は3倍強の増益を見込む。更に今期は20年3月期以来の復配を計画。業績はコロナ禍の低迷から復活を遂げており、株価もこれに続きたいところだ。
古野電気 <6814> [東証P]は船舶用電子機器の世界的企業。船舶向けで培った技術をベースにGPSやヘルスケア機器を製造する産業用事業も展開し、このセグメントで防衛装備品も手掛ける。同社も直近業績の伸びが著しく、3-8月期は営業96%増益に。新造船需要の高まりを追い風に主力の舶用事業が拡大したほか、防衛予算増額に伴う防衛装備品の伸びが寄与した産業用事業も好調だった。3-8月期決算とあわせ通期業績・配当予想の上方修正を発表し、株価は40年ぶりの高値水準で推移している。
イーグル工業 <6486> [東証P]はオイルの液漏れを防ぐ部品「メカニカルシール」の大手メーカー。自動車や半導体製造装置、発電所、石油プラントなど供給先は多岐にわたり、航空宇宙分野でも実力を発揮。国内唯一のロケット・航空機のエンジンシールメーカーとして、自衛隊機やH3ロケット向けに製品を提供した実績を持つ。今期業績は自動車や半導体向けの落ち込みで冴えない見通しだが、株主還元に手厚い点はポイント。配当は前期比20円増の100円を見込み、足もと5%台の利回りは注目だ。
ACSL <6232> [東証G]は国産ドローン 専業メーカー。物流やインフラ点検、災害時の物資輸送といった用途に向けて製品を提供する。官公庁向けの展開も図り、今年3月には防衛装備庁や航空自衛隊から案件を獲得。4月には防衛関連産業で構成する日本防衛装備工業会からドローン企業初の正会員として承認され入会している。防衛省向けには今後も注力する構えだが、「攻撃目的のドローン技術の開発、技術提供は行わない方針」(第3四半期決算説明資料内)としている点は押さえておきたい。
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