Chordia Research Memo(4):CTX-712は急性骨髄性白血病を対象とした臨床試験を米国で実施(1)
■Chordia Therapeutics<190A>の開発パイプライン
1. CTX-712(CLK阻害薬)
(1) 開発状況
現在のリードパイプラインであるCTX-712(CLK阻害薬)は、mRNA生成過程において重要な役割を担うCLKキナーゼ※の働きを阻害することで異常なスプライシングを発生させ、RNA制御ストレスを増大させてがん細胞を死滅させる効果が期待されている。
※ CLKキナーゼは、基質であるSRタンパク質をリン酸化する働きを持つ。SRタンパク質がリン酸化することで前駆型mRNAのうち不要な箇所(イントロン)が正確に取り除かれ、正常なスプライシングが促進される。
2018年から2023年まで日本で実施した第1相臨床試験では、標準治療の効果がない再発・難治性の急性骨髄性白血病(以下、AML)や骨髄異形成症候群(以下、MDS)※1などの血液がん及びその他固形がん(卵巣がん、乳がん、すい臓がん、大腸がん、肉腫等)の合計60症例を対象に安全性や有効性などを確認した。治験デザインは、週2回投与※2で用量漸増試験を行い、主要評価項目として安全性、有効性、最大耐量、用量制限毒性を、副次的評価項目として薬物動態などのデータを収集、評価した。
※1 骨髄中で血液細胞のもとになる造血幹細胞に異常がおき、正常な血液細胞(赤血球、白血球、血小板)がつくれなくなる疾患で、病状が進行するとAMLに移行する場合がある。
※2 間隔をあけて投与するのは、CTX-712の投与によってストレスが掛かった正常細胞の状態を元に戻すため。
被験者投与を進めるなかで、血液がんや卵巣がんでの薬効が確認できたため、これら疾患の患者を優先的に組み入れることにし、結果的に血液がん14例、卵巣がん14例、その他固形がん32例となった。試験結果については、2024年4月に開催された米国がん学会において発表しており(2023年11月時点までのデータ)、有害事象としては悪心、嘔吐、下痢などが挙げられたが、既述のとおり制吐剤などを投与することでコントロールが可能であり、安全性について問題のないことが確認された。
有効性に関しては、卵巣がん14例中4例でPR(部分奏功)※1が確認されたほか、AML及びMDS計14例(うちAML12例)のうち、4例でCR(完全寛解)、1例でCRi(好中球未回復の完全寛解)、1例でMLFS(形態学的無白血病状態)が確認され、奏効率で43%、CR率で29%となった※2。これら有効性については、AML治療薬として承認された第一三共<4568>のヴァンフリタや、抗がん薬としてブロックバスターに育った小野薬品工業のオプジーボの第1相臨床試験結果と比較しても遜色ない水準※3であるほか、直近でFDAに承認または承認申請を行っているAML治療薬や卵巣がん治療薬との比較においても比肩しうる成績であり、上市に向けて期待が持てる結果が得られたと同社では評価している。
※1 PR(Partial Response)は、治療前と比較して腫瘍の大きさが30%以上縮小した状態。白血病におけるCR(Complete Remission)は、骨髄に存在する白血病細胞の割合が5%未満であり、正常な好中球と血小板の数が完全に回復している状態。CRi(Complete Remission with Incomplete hematologic recovery)は、骨髄に存在する白血病細胞の割合が5%未満であるが、好中球、血小板のどちらか一方、又はその両方の回復が不完全な状態。MLFS(Morphologic Leukemia Free State)は、骨髄検査で白血病細胞が見つからない(光学顕微鏡で検出できない)状態。
※2 固形がんの残りの症例については約5割の被験者で腫瘍縮小が確認されたが、PRを達成するまでには至らなかった。
※3 ヴァンフリタは16例中、CRを達成した症例はなかったものの56%が何らかの奏功を示した(奏効率56%)。オプジーボは第1相臨床試験で、初めて承認取得したメラノーマで4例中1例のCRを達成した(奏効率25%)
なお、CTX-712を投与した被験者すべてで、スプライシング異常が引き起こされたことが確認されている。また、AML及びMDSの被験者14例中、投与前の段階でスプライシング因子に異常があった被験者4例のうち3例で奏功が確認されたほか、3例すべてで投与期間が300日以上と長期間の奏功が認められるなど、患者が保有するスプライシング異常と治療効果の相関が強いことがわかっている。がん種別でスプライシング因子に異常を持つ患者の割合を見ると、肺がんや乳がんなどは1?2%と低いのに対して、AMLが10?20%、MDSが40%と血液がんで相対的に高い傾向となっている。また、AMLについては標準治療が効かずに再発する可能性が高く、5年生存率も30%程度と低いことから、新たな治療法の開発が強く望まれている領域となって状況も踏まえて、同社はまず2次治療以降のAMLを適応対象として開発を進めていくことを決定し、米国で2023年より第1/2相臨床試験を開始した※。
※ 米国でも第1相を行うことになったのは、日本で実施した臨床試験でカプセル剤を用いたのに対して、米国では市販を見据えて錠剤で試験を行うことになったため。
米国での臨床試験は当初、2024年末頃に第1相パートを終え、中間成績を2025年半ばに発表する予定であったが、FDAが3年前に提唱した「プロジェクト・オプティマス※1」に則って、第1相試験の組入れ数を増やす方針に転換した※2ことにより、中間成績の発表は2025年末頃に延伸する見込みとなった。第1/2相臨床試験の予定症例数(140~170例)のうち、第1相パートは当初20例程度(週1回投与の用量漸増試験)を予定していたが、現在、週2回投与の漸増試験を追加すべくFDAとプロトコル改定の協議を進めている。2024年8月末時点で週1回投与群20例の組み入れが完了しており、週2回投与の追加組入れにより第1相パートは当初予定から半年から1年程度延伸することになるが、全体の組入れ数はほぼ変わらないため(第2相の組入れ数が減少)、全体のスケジュールについてはほぼ変わらないもようで、順調に組入れが進めば2026年末には最終結果が発表される見通しだ。
※1 FDAが、がん治療薬の開発において投与量の最適化と安全性向上を目的として、第1相段階で複数の用量・用法を検討したうえで第2相臨床試験を行うことが望ましいとの指針を示した。
※2 米国で「プロジェクト・オプティマス」に未対応だった他社の開発品が、販売承認申請しようとしたところ、FDAから差し戻されるといったケースがあり、第2相臨床試験後に販売承認を得るためには同指針に対応しておいたほうが良いとのコンサルティング会社からの助言があり、方針転換した。
第2相パートについては、米国だけでなく日本でも実施すべくPMDAと協議していくことにしている。米国では希少疾病医薬品となるオーファンドラッグ申請を2024年内に行い、第2相臨床試験の結果が良ければ販売承認申請を行う予定だ。一方、日本でも先駆的医薬品指定制度※を活用することで、第2相臨床試験後に承認申請を行うことになる。順調に進めば、2028年に日米で上市する可能性がある。
※ 治療薬の画期性や対象疾患の重篤性、対象疾患にかかるきわめて高い有効性、世界に先駆けて(または同時に)日本で早期開発・申請する意思・体制などの指定基準を満たした開発品目を先駆的医薬品として厚労省が指定し、審査や相談などを優先的に行うことで早期実用化を目指す制度(通常1年間の審査期間を6ヶ月に短縮することを目標)。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《MY》
提供:フィスコ