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武者陵司「株価が審判官」


―岸田ショック、植田ショック、石破ショックの意味するもの―

●3度目のショック、緊縮路線のキャンセルで市場安定化へ

 またまた日本株式は政策選択を理由とする株価ショックに襲われた。9月27日の自民党総裁選挙では、決選投票で1回目の投票で2番手であった石破氏がトップの高市氏を破って当選し、次期首相の地位を確かなものにした。

 一回目の投票では党員票でも国会議員票でも、アベノミクスの継承と高圧経済を主張する高市氏が石破氏を上回っていた。東京市場の27日(金)午後3時の後場終値は、高市氏の当選を確信して4万円目前の3万9829円まで急騰した。しかし、その直後の石破氏当選により先物市場で日経225先物が急落、シカゴ先物市場(CME)ではシカゴ日経平均先物は2400円安の3万7450円となった。月曜日の株価急落は避けられない情勢である。人はこれを「石破ショック」と言うだろう。市場は石破氏の党執行部と組閣の行方、経済政策への新たなコミットメントを固唾を呑んで見守っている。

 過去の株価ショックを振り返ってみよう。1回目は2021年9月29日の「岸田ショック」であった。金融所得課税の見直しを提起していた岸田氏が自民党総裁に就任したことにより、株価が急落した(日経平均株価は就任直前の3万0183円から1週間で2万7528円へ2600円、9%下落)。その後の金融所得課税強化の取り止めで、株価は下落前の水準に戻った。

 2回目は今年7月31日の日銀利上げと植田総裁のタカ派発言に端を発する「植田ショック」で、日経平均株価は3万9101円(7月31日)から3営業日後の3万1458円(8月5日)まで7600円、20%の暴落となった。しかし、翌週の内田副総裁による「市場が不安定な時に利上げはしない、時間は十分にある」との発言により、8日間で20%上昇しほぼ暴落前の水準に戻った。

●石破氏も市場宥和政策に転換せざるを得ず

 今回の「石破ショック」も、石破氏が岸田氏の新しい資本主義を踏襲し、拙速な利上げや財政再建路線を目指さないとの意思を明確に表明すれば、市場は安心感を取り戻すのではないだろうか。石破氏は10月中の解散総選挙をすでに提起しており、株価下落中での選挙は考えられないことから、政策の手直しは必至であろう。

 菅氏が副総裁に就任し、安倍・菅政権でアベノミクス路線の実行部隊の一翼を担った加藤勝信氏が財務大臣に内定した。選挙前に主張していた財政健全化、金融正常化という緊縮路線を棚上げすることはほぼ確かであろう。

 これで3回目となる市場の急落と政策修正の意味するところは、市場が政策の審判官に躍り出たということである。米国では「グリーンスパン・プット」「バーナンキ・プット」など、市場が急落する場面で、中央銀行が金融を緩和して市場を支えた事例が頻発したが、日本もそうした時代に入りつつある。

 日本にも株式資本主義が浸透し、株安をもたらす経済政策が容認されない時代である。特にNISA(少額投資非課税制度)により個人の資金を株式、投信などの価格変動性投資商品に誘導している今、市場の安定化が最優先の経済課題にならざるを得ない。市場の合理性により政策の可否が判定される時代に入っていく。

●岸田氏、反アベノミクスから汎アベノミクスへ

 3年前に「分配なくして成長なし」を唱え「金融所得課税の見直し」を提起しアベノミクスに対峙して登場した岸田政権は、当初の政策を換骨奪胎し、自説の「新しい資本主義」の中身を総入れ替えした。むしろ、アベノミクスの金融財政拡大路線とコーポレートガバナンス改革、市場改革を一段と深めたことで世界の投資家の信認を高め、日経平均株価の史上最高値更新を成し遂げた。この岸田政権の政策の進化は、来るべき石破政権も踏襲せざるを得ないものである。さもなければ経済失政により、石破政権は短命に終わらざるを得ない。

 このように見てくると、(1)日本株式は長期上昇トレンドの途上、(2)日本経済は短期循環の回復局面、(3)著しく割安な日本株式を持たざるリスクが日本株式の好需給を引き起こす、という基本線は、石破政権の下でも持続すると考えられる。

(2024年9月30日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン365号」を転載)

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