狙うは親子上場、「割安・上場子会社」に先回り投資で5億円超え
約20年間で100万円を、5億4000万円に増やした兼業投資家。資産拡大の原動力が、M&A(合併・買収)やTOB(株式公開買い付け)に着目したイベント・カタリスト投資。株式投資を始めたのは中学生のとき。同級生の間で大手証券会社提供の仮想株式投資ゲームが流行、また当時、村上ファンドが世間を賑わしたこともきっかけになった。親から援助を受けて、証券口座を開くと、不祥事を起こした三菱自動車に投資し、リターンを生んだ。新卒入社したメガバンクでは、大企業の資本戦略を支援する業務などに従事し、現在は家業の不動産会社の経営に関わる。趣味はゴルフ、サウナ、食べ歩き。
ここ最近、ホットなカタリスト(株価変動のきっかけ)となっているのが、"親子上場の解消"だ。
親会社の影響力が強い子会社が上場すると、子会社の一般株主と親会社の間に利益相反が起こったり、また子会社がもたらす価値の一部を親会社が享受できず親会社の株主が不利益を被ったりするリスクが生じる。
日本特有の上場形態とされ、コーポレートガバンナンスや企業価値向上の観点から、アクティビストなどが問題視してきた。
しかし、ここにきて東京証券取引所や金融庁、そして経済産業省が、こうした特殊な関係を問題視する列に加わり始めた(下の図)。
当局側が、子会社(原則、議決権株式の過半数を保有)、さらには持ち分適用会社(原則で同20%以上50%未満を保有)も含む"異形のダブル上場"に対して、問題意識を高めていることに、「国策に売りなし」と、注目する個人投資家も増えている。
■親子上場解消を促す政策の動き
注:東証は東京証券取引所、経産省は経済産業省の略。また企業内容等の開示に関する内閣府令は、改正案
65%の急騰前に、アルプス物流に先回り投資
この異形のダブル上場解消イベントで、最近株価が急騰した1社が総合物流会社のアルプス物流<9055>だ。同社の筆頭株主が電子部品大手のアルプスアルパイン<6770>。出資比率は50%近く、アルプス物流はアルプスアルの持ち分法適用会社となっている。
そのアルプス物流に対して、米投資ファンドKKR傘下のロジスティードが、5月9日に1株5774円でTOB(株式公開買い付け)を発表。すると、アルプス物流株は買い付け価格にサヤ寄せする形で急騰した。
発表前日の8日に観測記事が出て株価が動意づいていたことから、7日終値の3400円を起点にすると、TOBの発表で株価は65%ほど切り上がり、足元もこの水準で張り付いている。
■TOB実施前後の資本関係
注:アルプス物流のIR資料をもとに『株探』編集部が作成、小数点以下は四捨五入
この「ただいま株価沸騰中」のアルプス物流に先回り投資をしていたのが、今回紹介するマック・チェリーさん(ハンドルネーム)だ。同社株に1万5000株を投資していたところ、一連の上昇で含み益は5000万円程度に膨らみ、足元ではその半分を利確している。
マック・チェリーさんは、親子上場の解消イベントを主軸にする戦略などで、100万円の元手を一度も元本を追加せずに540倍の5億4000万円に増やす成功を収めてきた。
メーンターゲットは上場子会社だが、アルプス物流のような上場する持ち分法適用会社などもターゲットとしている。上場する子会社や持ち分法適用会社は、特殊な上場形態によって、投資家から本来の企業価値より割安に評価されている可能性が高い。それがダブル上場の解消に伴うTOB(株式公開買い付け)によって、株価水準が修正される期待値が高まるためだ。
マック・チェリーさんがアルプス物流に先回り投資をできたポイントはどこにあるのか。親子上場の解消に着目したきっかけや、これまで利益を稼いだ取引には、どのようなものがあるのか。さらに、この手法以外の勝ち技のラインアップはあるのか。これらを3回にわけて見ていく。
1回目は、主力とする"親子上場の解消"狙いについて触れる。なお、記事では、親子上場の対象を上場子会社以外に持ち分法適用会社など一定の資本関係を持つ上場グループ会社も含めて親子上場と呼び、厳密な親子上場と区別して"親子上場"ないし"親子上場の解消"、また"上場子会社"などと記載していく。
■マック・チェリーさんの金融資産の推移
TOBの約2カ月前に先回り
マック・チェリーさんがアルプス物流株の取得を本格化させたのは、今年2月末。報道で、アルプスアルがアルプス物流の株式の売却準備を進めていることがわかり、「これはイケる」と判断した。
この報道で動意づいた同社株は2月報道の翌営業日に2000円から2500円程度に上昇。このタイミングでマック・チェリーさんは1万株以上を購入した。足元の株価の半分以下の水準で、仕込んだ格好だ。
■アルプス物流の日足チャート(2024年1月末~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同
アルプス物流に見た2つのメリット
数ある"上場子会社"の中でアルプス物流を選んだ理由は主に2つある。
1つは、同社株の当時の時価総額が1000億円未満だったこと。時価総額が大きいと、さまざまなしがらみから株式を非公開化するハードルが高くなるとマック・チェリーさんは見ている。
もう1つは、当時のアルプス物流株はPBR(株価純資産倍率)1倍割れだったことだ。親子上場の解消で上場子会社がTOBされる場合、仮に買い取り額が企業の解散価値と同等のPBR1倍水準という低水準になってしまっても、リターンを上げられるようにするためだ。
アルプス物流に注目したきっかけは約4年前
実は、マック・チェリーさんがアルプス物流株を保有し始めたのは、2020年末になる。
その時点では、打診買いの一環だった。少額でもポートフォリオに組み込めば、同社に関連するニュースや材料を見逃さないようになるためだ。
こうして3年以上もウォッチしてきたからこそ、先に触れた今年2月のニュースで1万株以上の買いを仕掛ける勝負ができたことになる。
このマック・チェリーさんが虎視眈々とアルプス物流株が動意づくのを待つことにしたのは、同社とは直接に関係しない材料も目を引いたことがある。
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