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「PFAS」規制強化の風雲、激変迫られる産業界で飛躍期待の銘柄群 <株探トップ特集>


―農水省は実態調査を新年度に開始、代替素材の開発が加速し検出・除去ニーズ拡大へ―

 発がん性が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)が、河川や地下水から検出されたという報告が日本各地で相次いでいる。PFASは 半導体電気自動車(EV)の部材など多くの分野で活用されている物質であり、国際的な規制強化をにらんで代替素材の開発も加速している。PFAS検知や除去に向けたニーズの拡大も見込まれており、関連企業の収益底上げに寄与しそうだ。

●「永遠の化学物質」、欧州では幅広く規制の可能性

 PFASはフッ素と炭素が結合した有機化合物の総称だ。自然界で分解されにくい「永遠の化学物質」と呼ばれており、その一部は人体への有害性が指摘されている。米軍基地がある東京・多摩地域や神奈川県、沖縄県のほか、大規模な半導体工場の稼働が目前に迫っている熊本県でも井戸水や河川から国の目標値を超えたPFASが検出され、社会問題となっている。農林水産省は今月26日、国内で流通する農畜産物に含まれるPFASの実態調査を新年度から行う方針を示した。

 世界保健機関(WHO)の研究機関は昨年12月、PFASのうち有害性が指摘される「PFOA」と「PFOS」の発がん性評価を引き上げたと公表した。1万種類以上あるとされるPFASの一部はすでに製造や輸入が禁止されている。だが、撥水・撥油性や低誘電特性など利点は多く、半導体のフォトレジストや車載電池の部材、医療機器のカテーテルなど幅広く活用されているようだ。米軍基地や空港周辺での地下水から検出されたPFASは、泡消火剤由来のものとみられている。

 海外では欧州化学品庁において、PFASへの規制を一段と強化する提案が昨年提出され、2025年にも発効するとみられている。PFASを幅広く規制対象とする内容で、提案がそのまま実行された場合は、サプライチェーンに多大な影響が及ぶと予想されている。

●三菱ケミGやDICなど新材料の開発相次ぐ

 規制強化の流れを受けて産業界は対応に迫られており、米スリーエム<MMM>は25年末までにPFASの製造を中止する方針を打ち出した。PFASを使用しない代替材料の開発も加速しており、総合化学国内首位の三菱ケミカルグループ <4188> [東証P]は昨年10月に開催された「サステナブル マテリアル展」において、PFASを使用せずに高い難燃性を実現したポリカーボネート樹脂の開発についてパネル展示を実施。部品の薄肉化が可能で、電子機器の軽量化や省スペース化につながる材料という。インキ世界首位のDIC <4631> [東証P]も、PFASを使用しないEV向け潤滑油用消泡材を開発。日本や欧米地域で拡販を進める方針だ。

 素材関連企業のうち、PFAS関連銘柄として株式市場での注目が高まりつつあるのは、日本ゼオン <4205> [東証P]だ。同社は リチウムイオン電池の電極に関し、大規模な乾燥工程が不要な「ドライ成形法」による製造技術を確立したと昨年12月に発表した。この方法で製造される電極はPFASを含まない材料で構成されるといい、脱PFASに向けた設備需要に対応する構えだ。同社のPBR(株価純資産倍率)は0.8倍前後と低水準で、株価は出遅れ感も意識されている。

 住友ベークライト <4203> [東証P]は半導体封止材で世界トップシェアであり、株価水準を大きく切り上げているが、PFAS関連でも需要拡大の恩恵を受けそうだ。同社が手掛けるPFAS不使用の絶縁用難燃ポリカーボネートシートは、電動車においてインバーターやリチウムイオン電池、モーター周辺など高電圧装置用途での採用が増加しているという。PFAS規制の対応に向け開発中の撥液性PCO(環状オレフィン樹脂)は、半導体や医療・食品業界向けを含め幅広い用途での展開も想定されている。

 消火剤でも代替品の商機拡大が見込まれている。能美防災 <6744> [東証P]が今年2月に発表した泡消火剤は、成分の全面的な見直しを行い、PFASを含まずに高い発泡性能と消火性能を両立させることに成功した。セコム <9735> [東証P]と親子上場の関係にあることでも知られる能美防災は、200日移動平均線が右肩上がりのトレンドを続けている。来期の業績拡大シナリオがより鮮明となれば、株価水準を一段と切り上げそうだ。

●室町ケミカルや応用地質など要マーク

 PFASを除去し、浄化するための技術も活躍の場を広げる公算が大きい。例えば清水建設 <1803> [東証P]は、水処理技術により水中のPFASを微細な気泡に付着させて回収する技術を開発。沖縄県内での浄化実証試験で、国の暫定指針値の12倍を超えるPFAS汚染水を40分で1リットルあたり1ナノグラム以下の濃度まで処理することを実現した。

 クレハ <4023> [東証P]は22年5月、米国のグループ会社が、スタートアップ企業のクラロステクノロジーズ(ミネソタ州)と共同開発契約を結んだと発表。PFASを吸着し、フッ素や二酸化炭素など副生成物に変換する無害化プロセスの開発を進める同社との戦略的パートナーシップのもと、ビジネスポートフォリオの拡大を目指す方針を示している。クレハは中国でのフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)製造設備の増強計画の中止と、業務用食品包装材部門での熱収縮多層フィルム事業の撤退に伴う費用の計上で24年3月期は業績の計画下振れを余儀なくされた。PBRは0.7倍前後で、25日移動平均線を下回る株価には割安感も強まっている。

 医薬品原薬の製造・販売を手掛ける室町ケミカル <4885> [東証S]は、PFAS除去イオン交換樹脂の開発を進めている。企業の生産現場で発生するPFASの除去試験を開始する予定で、結果を見極めたうえで拡販を狙う構えだ。すでに自治体からも河川や地下水の浄化に関する引き合いが増えているという。株価は今月に高値を形成後、伸び悩んではいるが、25日移動平均線と75日移動平均線がゴールデンクロスを形成しており、中期的なトレンド転換に期待が膨らむ。

 応用地質 <9755> [東証P]は地下水汚染の修復サービスを展開。フィールド調査をもとに地下水とPFASの挙動を予測・評価し、効果的な対策プログラムを提供する。環境調査・分析のいであ <9768> [東証S]も水質分析を手掛けており、PFAS問題への対応に向けた企業や自治体の対策需要の恩恵を受けそうだ。両社ともPBRは1倍を下回っており、いであの配当利回りは3.8%前後とまずまずの水準だ。

 島津製作所 <7701> [東証P]をはじめとする分析・測定装置メーカーも、PFAS対策の流れは製品やソリューションのニーズ拡大につながる可能性が高い。分析装置を展開するジーエルサイエンス <7705> [東証S]は、子会社で半導体製造装置向け部材を手掛けるテクノクオーツ <5217> [東証S]と、共同持ち株会社の設立による経営統合を予定している。半導体領域の成長とともに、PFASに関連する分析装置の特需への期待が膨らめば、株価の反騰攻勢を一段と強めそうだ。

 このほか、日東精工 <5957> [東証P]グループの日東精工アナリテックは、PFAS類の分析に向けた高速スクリーニングが可能な装置を製品群に持つ。産業用ボイラー大手の三浦工業 <6005> [東証P]もPFASに関する分析サービスを手掛けている。非鉄商社のアルコニックス <3036> [東証P]が取り扱う欧州のウォーターロジック社の浄水器「Classe」はPFASの除去が可能といい、ホテルやレストランに向けた訴求活動を展開している。バルブ大手のキッツ <6498> [東証P]の子会社であるキッツマイクロフィルターの卓上型浄水器「GOQURIA(ゴクリア)」も、除去機能を持つ製品として拡販が期待されそうだ。


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