Iスペース Research Memo(8):割安なEV/EBITDA倍率も再評価される可能性
■同業他社比較
アフィリエイト運営会社の大手はインタースペース<2122>のほかファンコミュニケーションズ、アドウェイズ、バリューコマース、リンクシェア・ジャパン(株)(楽天グループ<4755>の子会社)、レントラックスの5社が挙げられる。売上高の規模はその他の事業も展開しているため各社ばらつきがあるものの、同社も含めた6社合計のアフィリエイトサービスにおける業界シェアは約6割、うち同社は1割弱のシェアと見られる。2023年度の業績については各社とも苦戦しており、競合含めて業績の下方修正を発表済みで、減益見通しとなっている。
同業他社の特徴について見ると、ファンコミュニケーションズは2023年9月時点で「A8.net」のパートナーサイト数が約335万サイト、稼働広告主ID数が3,420件と、パートナーサイト数では業界最大規模となっている。中小企業向け広告ビジネスを長く提供しており、EC分野を中心に幅広い広告案件を揃えていることが特徴だ。「A8.net」は堅調に推移しているものの、スマートフォン向け広告サービス「nend」の縮小で業績はここ数年苦戦が続いている。2023年12月期も「nend」の広告主の出稿停止が影響して、期初計画の増益予想から一転、減益予想に下方修正した。
アドウェイズは、アドプラットフォーム事業(アドネットワーク広告配信サービス、アフィリエイト広告サービス)とエージェンシー事業(国内外における広告代理店)を展開している。モバイル向け比率が7割弱(対国内広告売上高)と高く、ゲームや電子コミック系に強みを持つ。ここ数年は機械学習によるスマートフォン向けアドネットワーク広告配信サービス「UNICORN」の伸長により業績を伸ばしてきたが、2023年12月期はゲーム・電子コミック系の広告出稿減少に加え「UNICORN」の停滞もあり、増益予想から減益予想へと下方修正した。
バリューコマースは、マーケティングソリューションズ事業(アフィリエイトサービス)とECソリューションズ事業を展開している。マーケティングソリューションズ事業の業種別売上構成比は金融分野が3割と最も高く、そのほか幅広い業種をバランスよく手掛けているのが特徴だ。パートナーサイト数は2023年9月末で78万サイト、広告主数(ID数)は726件となっている。2023年12月期業績は金融分野の広告主の出稿方針変更と広告予算の抑制に加えて、オンラインモールのストア向けCRMツールがモールのキャンペーン施策方針変更の影響を受け大幅に減少したことで2ケタ減収減益となる見通し。
レントラックスは、成果報酬型広告サービス事業と中古建設機械マーケットプレイス関連事業を主に展開している。成果報酬型広告サービス事業の業種別売上構成比(2023年3月期実績)は、金融が39%と最も高く、次いで不動産が9%、自動車買取業界が6%となっている。2024年3月期は増収増益を見込んでいたが、ドル高と金利上昇の影響を受け、中古建設機械マーケットプレイス関連事業の売上が当初想定を下回っているほか、成果報酬型広告サービス事業も既存顧客の広告予算が縮小されたことなどから減収減益に下方修正を発表した。
株価指標について見ると、同社の株価(2023年11月24日終値)は2024年9月期の予想PERで18.9倍と他4社が11~27倍の水準で評価されているなか、平均水準での評価となっている。ただ、EV/EBITDAは0.5倍と大手5社のなかで唯一、1倍を下回る評価となっている。EV/EBITDAとは企業を買収する場合に、買収コスト(時価総額+有利子負債-現金及び預金)を期間収益(営業利益+償却費)の何年分で回収できるかを簡易的に指標化したものであり、倍率が低いほど買収コストを短期間で回収できることを意味する(=時価総額が過小に評価)。これらの株価指標が低いということは、株式市場での成長期待が低いことの裏返しであるとも言える。
とはいえ、同社の業績は成長事業への先行投資の効果が顕在化する2025年9月期以降は2ケタ増益基調に戻る見通しであり、現在の株価はこうした成長シナリオがまったく織り込まれていない水準にあるとも言える。ストック型ビジネスや海外事業、比較・検討型メディアが順調に成長し中期業績目標が達成される蓋然性が高まってくれば、株式市場での評価も変わってくるものと考えている。2024年9月期はこうした成長基盤を構築するための投資期間となり、積極投資を行う成長事業の動向が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《SI》
提供:フィスコ