富士紡HD Research Memo(6):2024年3月期は減収減益の見通しも、シリコンサイクルの本格的回復に備える
■今後の見通し
1. 2024年3月期の業績見通し
富士紡ホールディングス<3104>の2024年3月期の業績予想については、売上高が36,100百万円(前期比1,569百万円減)、営業利益が2,950百万円(同1,922百万円減)、経常利益が3,350百万円(同1,691百万円減)、親会社株主に帰属する当期純利益が2,200百万円(同1,199百万円減)と、期初計画を修正していない。
同社は、期初からの「シリコンサイクルの調整局面は2023年第2四半期(7~9月)で底を打ち、下期から緩やかに回復する」とういう見通しを変更していない。半導体業界内では2022年12月時点で、「2023年第1四半期(4~6月)で調整局面は底を打ち、第2四半期(7~9月)から回復する」という見立てもあったようだが、2023年1月時点では、「調整局面の底打ちは第2四半期(7~9月)にずれ込み、回復は10月以降になる」が大方の見方だ。このような見通しから、研磨材事業の2024年3月期の営業利益は950百万円と予想しているが、大部分は下期計上である。
2024年3月期は、シリコンサイクルの「調整局面」の回復遅れと原燃料価格高騰による営業利益の大幅減益を予想しているが、同社では収益改善策として、1) 全社ベースの徹底したコスト削減、2) DX推進による生産性の向上、3) 原燃料価格高騰に伴う価格転嫁の実施、4) 次の半導体需要の回復期に向けた優先度の高い研究開発や設備投資の絞り込み、などに取り組む予定である。
2. セグメント別業績見通し
(1) 研磨材事業
売上高12,800百万円(前期比15.1%減)、営業利益950百万円(同66.4%減)を予想している。研磨材事業の主力市場であるCMP用途市場は2023年6~7月期に半導体市場が底入れし、下期より上向き傾向である。特に、同社の研磨材(ソフトパッド)はロジック半導体分野での使用比率が高く、生成AIやIoT分野で使用されるロジック半導体が高成長で推移することから、受注回復の牽引役となる模様である。また、半導体需給サイクルではCMP工程に比べてシリコンウエハー工程は5ヶ月程遅れると言われているため、シリコンウエハー用途の回復は下期後半(2024年1~3月期)になる見込みである。一方で、新用途市場として、「SiCウエハー」と「半導体の微細化と積層化」に大きな期待が寄せられている。SiCウエハー(パワー半導体)市場は、自動車のEV化が進展するなか、2024年3月期の受注額は数億円程度が見込まれ、将来的には再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電など)も含め大規模市場(CMP用途に次ぐ“第2の柱”)になると期待されている。この分野の研究開発はアクセルを緩めず優先的に取り組んでいる。また、メモリー半導体分野においては積層化が進むと微細化技術が必要となり、同社のソフトパッドの出番となる。既にNANDフラッシュメモリ分野ではソフトパッドが使われ始めている。
(2) 化学工業品事業
売上高13,000百万円(前期比5.1%増)、営業利益1,000百万円(同2.9%減)を予想している。主力の機能性材料や医・農薬中間体の受託生産は2024年3月期も好調が持続すると予想されるが、電子材料(通信や半導体向け)は半導体市場の不況の影響で上期は低調であり、回復は来年度以降の見通しである。また、原材料・エネルギー価格高騰による製品コスト上昇部分については、2023年4月から価格転嫁を進めてきたが、本格的な収益改善効果は下期に現れると見ている。さらに、機能性材料は中長期的には受注拡大が見込まれることから、国内2工場(柳井工場、武生工場)の連携強化を一層進め、新プラント設備に向けた付帯設備関連の投資に着手する。
(3) 生活衣料事業
売上高7,000百万円(前期比3.8%減)、営業利益900百万円(同1.2%増)を予想している。円安に向けたコスト上昇に対応した適正な価格設定、高収益の定番商品の絞り込みに加え、SNSなどを活用したダイレクトマーケティングにより、Eコマース型ビジネスモデルへの転換を進めている。
(4) その他(化成品)事業
売上高3,300百万円(前期比12.2%増)、営業利益100百万円(同18.7%減)を予想している。医療機器向けの需要拡大が見込まれ、各工場の生産能力を加速させ、中核3大事業に次ぐ、第4の柱事業として育成すべく、基盤整備を進めている。また、精密小型金型事業の子会社がグループ入りしたことで2024年3月期の売上高・営業利益とも増加の見込みである。
3. 設備投資の見通し
2024年3月期の設備投資計画は、3,859百万円(前期比4.6%減)と前期並みの投資となり、足元の急激な半導体需要減に呼応した設備投資計画の見直しと開発投資の優先順位付けにより、半導体市場の回復や次世代開発品の開発に備える。研磨材事業では、生産能力増強投資の動きは一巡し、中長期的な成長投資としての研究開発投資を強化している。開発テーマとしては、SiCウエハー向けソフトパッド研磨材の開発、次世代半導体1.4ナノ世代対応の研磨材研究やソフトパッド以外の研磨材の品揃え開発などが挙げられる。化学工業品事業では、中長期的に機能性材料の受注拡大が見込まれることから、新プラント設備に向けた付帯設備関連の投資に着手する。
台湾半導体集積拠点に研究開発センターの創設、研磨材事業の成長投資の実行
半導体市場は、5G・6Gによる通信の高速化・大容量化、生成AI・メタバース・IoTの普及等に伴って、2030年には、現状比約2倍の100兆円規模への市場成長と高性能化が見込まれている。微細化が進展する半導体デバイスのCMP用途での研磨材事業拡大に向けて、最先端の半導体関連企業群が集積する台湾に、2026年秋に最新鋭の研究開発センターを創設する。施設内に研磨装置・評価機器等を設置することで、顧客とほぼ同等のCMPプロセスの環境を実現して顧客ニーズにきめ細かく対応し、高性能・高品質の研磨材製品開発を推進する。投資総額は約57億円を見込んでいる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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提供:フィスコ