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株主還元を強化し10年連続増配へ、今後の鍵にM&A
10年上昇企業~「ライト工業」最終回
前回記事「営業利益の10年平均成長率は約20%、総合ランク2位の土木会社」を読む
「10年上昇企業」の株主還元ランキングでトップのライト工業<1926>。2023年3月期も増配予想で、実現となれば10期連続となる。
しかしそんな同社も、前2022年3月期の第4四半期(4Q)に減収減益、今23年3月期の1Qに2桁減益と業績が落ち込んだ。そうした不調を感じ取ったかのように同社株の22年の年間騰落率は、▲4.4%と連続上昇記録が途絶えてしまった。
業績の不調は一過性のものなのか、構造的なものなのか。2回シリーズの最終回は、同社が今後安定的に収益を伸ばし、株主還元を拡大していけるかのポイントを見ていこう。
■『株探プレミアム』で確認できるライト工業の四半期業績の長期の成長性推移
不調の要因は、自社で管理不能な一過性のもの
前期4Qと今期1Qで減益となったのは、自社では管理不能な要因によるもので、同社の認識では一過性というものだ。
前期4Qのケースでは、大雪などの天候不順が工事の遅れにつながった。今期1Qでは、複数の大型工事において発注側の都合で工事の進捗がなかったことが大きく影響した。その他にも、予期せぬ形で現場の追加調査を実施せざるをえない状況となり、一部の工事を中断したことが足を引っ張った。
同社は今期2Q以降に中断した工事を再開させ、売上高、営業利益ともに回復傾向にある。同社の阿久津和浩社長も「今期も受注は堅調」とする。
同社の年間受注高と期末受注残高の推移を見ても、前期にこれまでの基調が大きく変わっている兆しが見えないことを踏まえると、前期末から今期初めの不振は一過性の要因と見られる。
■年間受注高の推移
出所:ライト工業のIR資料
では今後の成長はどう見ているのか。
前回触れた主力の「斜面・のり面」「基礎・地盤改良」事業の基盤強化とともに、阿久津社長は3つの事業の強化が必要と見ている。
3つとは補修・補強、建築、海外で、それぞれの事業の成長のポイントと課題・対策は以下の通りになる。
■「補修・補強」「建築」「海外」の成長のポイントと課題と対策
注:M&Aは合併・買収
強化1 補修・補強~公共インフラの老朽化対策に商機
まず「補修・補強」については、主に老朽化した橋梁やトンネル工事の受注拡大を狙う。同社は40~50年前から災害による事故を抑制するために、橋梁では耐震・落橋、トンネルでは漏水・崩壊を防ぐための工事を行ってきた。
半世紀ほど事業を展開しているが、補修や補強に注力するようになったのは直近5年ほどで、「業界内で後発」(阿久津社長)という状況。前期の売り上げは約80億円と、全売上高の7%程度にとどまる。
ただし、売り上げ規模は10期前から約3倍に拡大している。近年はNEXCO西日本(西日本高速道路)やNEXCO中日本(中日本高速道路)などから大型橋梁の補修工事を複数件受注し実績を積み上げている。
■同社が補修・補強した橋梁(左)、トンネルの画像
提供:ライト工業
阿久津社長は「公共工事の中でも、老朽化対策の予算の比率が高まっていく」と言う。気候変動による災害の多発や公共インフラの老朽化が進むからだ。
国土交通省によれば、インフラの補修・補強工事が必要になるのは、建設後50年が目安になる。その50年を超える橋梁・トンネルの割合は、今後20年で急速に増えていく見通しだ。
橋梁は、全国73万カ所に存在するうち2020年時点は30%の割合だが、2040年には75%に引き上がる。またトンネルも国内1万1000本のうち22%から53%へと2倍以上の水準に上昇する。
そうした背景から、国交省所管のインフラの維持管理・更新に必要とされる額は、18年時点の推計で18年度の5兆2000億円から20年代後半、30年代には6兆円規模に膨らむとされる(下のグラフ)。この中には橋梁やトンネルの老朽化対策に必要な金額も含まれる。
補修・補強関連の支出はすでに増加傾向にある。国交省の「道路統計年報」によれば、19年度決算に計上した道路事業費のうち、橋梁・トンネルの補修・修繕にかかわる項目は11%と、5期前に比べて約2%ポイント増加している。金額ベースでも約7600億円と、同+34%となっている。
■国交省所管の公共インフラの維持管理・更新費の推計
出所:国交省
需要の高まりに備えて同社が重視するのが、受注獲得の競争力を上げることだ。
補修・補強工事は、主力の「斜面・のり面」「基礎・地盤改良」ほど要求される技術水準が高くない分、参入企業が多いとされる。競合は、業界大手のショーボンドホールディングス<1414>から、地場の土木会社まで多岐にわたる。
入札時に訴求力を高めるポイントとなるのが、経験豊富な技術者を増やすことだ。その工事にかかわる技術者に、熟練工が多いほど「実績豊富」として評価が高まりやすいからだ。
技術者を育成するため、同社は既存事業の人材を一部の経験豊富な技術者が指導しながら現場で経験を積ませている。各工程におけるノウハウも蓄積できれば、施工効率も引き上げていくことができる。
熟練人材の確保や技術力の強化で地場ゼネコンのM&Aなどを検討
人材面の解決策としては、M&A(合併・買収)も積極的に検討している。
同社は、これまでも建築事業を担う小野良組(宮城県気仙沼市)や斜面・のり面など主力事業を支えるサンヨー緑化産業(広島市)をM&Aでグループに取り込み、事業拡大につなげてきた実績がある。
阿久津社長は「買収候補となりそうな案件がないかアンテナを張っている」と語る。理想とする候補は、競争力を持つ熟練工や他社にない技術を抱えているような地場ゼネコンになる。
強化2 建築~首都圏から地方に事業エリア拡大へ
建築事業では現在は主に、首都圏でマンションを展開している。竣工ペースは毎年10棟前後で、前期の建築売り上げは約150億円と、売上高全体の14%となっている。下の画像は、昨年竣工した都内マンションの1つだ。
同社が建築市場に参入したのは2008年4月。公共工事の予算が低迷し、建設・土木業界に逆風が吹いていたなか、当時の社長が生き残りをかけてまいた種の1つになる。
その種を開花させることになったきっかけが、参入して約半年後に発生したリーマン・ショック。世界的な信用不安の連鎖、そして需要蒸発の影響を受けて、不動産開発会社が相次いで倒産した際に、同社は経験豊富な技術者を積極的に確保する攻めに出た。
そうして確保した人材は、「危機感を人一倍持ちながら仕事に取り組んでくれたことで、事業の拡大が進んだ」(阿久津社長)
■22年6月に竣工した東京都世田谷区の5階建てマンションの外観(左)と内装
提供:ライト工業
一般財団法人建築経済研究会によると、民間住宅は22~35年までの13年間で年平均4.5%成長と予測されている。高成長とは言えないが、着実な成長が見込まれる中で、ライト工業は営業エリアの拡大と事業モデルの改善で成長を目指す。
営業エリアでは、首都圏から地方都市へと広げていく。その第1歩として、首都圏の物件で受注した顧客が地方に物件を建築する際に、受注を獲得していく。
事業モデルでは、設計部門の強化を目指す。現在は社外の設計を基に、同社が施工・リニューアル工事を担当する体制。これを設計から施工まで一気通貫で対応できるようにすることで、工期や工程の管理を工夫し、採算性の向上につなげていきたいとする。
現在は設計部門に数人の社員が在籍するものの、自社で設計業務を手掛けられる状況にない。外部から経験者を採用して、設計部門のスキルを底上げする。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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株探プレミアム編集部/真弓重孝、高山英聖
前回記事「営業利益の10年平均成長率は約20%、総合ランク2位の土木会社」を読む
「10年上昇企業」の株主還元ランキングでトップのライト工業<1926>。2023年3月期も増配予想で、実現となれば10期連続となる。
しかしそんな同社も、前2022年3月期の第4四半期(4Q)に減収減益、今23年3月期の1Qに2桁減益と業績が落ち込んだ。そうした不調を感じ取ったかのように同社株の22年の年間騰落率は、▲4.4%と連続上昇記録が途絶えてしまった。
業績の不調は一過性のものなのか、構造的なものなのか。2回シリーズの最終回は、同社が今後安定的に収益を伸ばし、株主還元を拡大していけるかのポイントを見ていこう。
■『株探プレミアム』で確認できるライト工業の四半期業績の長期の成長性推移
不調の要因は、自社で管理不能な一過性のもの
前期4Qと今期1Qで減益となったのは、自社では管理不能な要因によるもので、同社の認識では一過性というものだ。
前期4Qのケースでは、大雪などの天候不順が工事の遅れにつながった。今期1Qでは、複数の大型工事において発注側の都合で工事の進捗がなかったことが大きく影響した。その他にも、予期せぬ形で現場の追加調査を実施せざるをえない状況となり、一部の工事を中断したことが足を引っ張った。
同社は今期2Q以降に中断した工事を再開させ、売上高、営業利益ともに回復傾向にある。同社の阿久津和浩社長も「今期も受注は堅調」とする。
同社の年間受注高と期末受注残高の推移を見ても、前期にこれまでの基調が大きく変わっている兆しが見えないことを踏まえると、前期末から今期初めの不振は一過性の要因と見られる。
■年間受注高の推移
出所:ライト工業のIR資料
では今後の成長はどう見ているのか。
前回触れた主力の「斜面・のり面」「基礎・地盤改良」事業の基盤強化とともに、阿久津社長は3つの事業の強化が必要と見ている。
3つとは補修・補強、建築、海外で、それぞれの事業の成長のポイントと課題・対策は以下の通りになる。
■「補修・補強」「建築」「海外」の成長のポイントと課題と対策
事業分野 | 事業対象 | 成長のポイント | 課題と対策 |
補修・補強 | 橋梁 トンネル | 老朽化対策 の需要拡大 | ・受注獲得の競争力強化 ・技術者の育成 ・M&A |
建築 | 集合住宅 | 首都圏以外の新築需要 の取り込み | ・設計部門の強化 ・社内外の専門人材の育成 ・M&A |
海外 | 斜面・のり面 基礎・地盤改良 | 米国およびベトナム での需要拡大 | ・技術継承、体制拡充 ・現地技術者の育成 ・M&A |
強化1 補修・補強~公共インフラの老朽化対策に商機
まず「補修・補強」については、主に老朽化した橋梁やトンネル工事の受注拡大を狙う。同社は40~50年前から災害による事故を抑制するために、橋梁では耐震・落橋、トンネルでは漏水・崩壊を防ぐための工事を行ってきた。
半世紀ほど事業を展開しているが、補修や補強に注力するようになったのは直近5年ほどで、「業界内で後発」(阿久津社長)という状況。前期の売り上げは約80億円と、全売上高の7%程度にとどまる。
ただし、売り上げ規模は10期前から約3倍に拡大している。近年はNEXCO西日本(西日本高速道路)やNEXCO中日本(中日本高速道路)などから大型橋梁の補修工事を複数件受注し実績を積み上げている。
■同社が補修・補強した橋梁(左)、トンネルの画像
提供:ライト工業
阿久津社長は「公共工事の中でも、老朽化対策の予算の比率が高まっていく」と言う。気候変動による災害の多発や公共インフラの老朽化が進むからだ。
国土交通省によれば、インフラの補修・補強工事が必要になるのは、建設後50年が目安になる。その50年を超える橋梁・トンネルの割合は、今後20年で急速に増えていく見通しだ。
橋梁は、全国73万カ所に存在するうち2020年時点は30%の割合だが、2040年には75%に引き上がる。またトンネルも国内1万1000本のうち22%から53%へと2倍以上の水準に上昇する。
そうした背景から、国交省所管のインフラの維持管理・更新に必要とされる額は、18年時点の推計で18年度の5兆2000億円から20年代後半、30年代には6兆円規模に膨らむとされる(下のグラフ)。この中には橋梁やトンネルの老朽化対策に必要な金額も含まれる。
補修・補強関連の支出はすでに増加傾向にある。国交省の「道路統計年報」によれば、19年度決算に計上した道路事業費のうち、橋梁・トンネルの補修・修繕にかかわる項目は11%と、5期前に比べて約2%ポイント増加している。金額ベースでも約7600億円と、同+34%となっている。
■国交省所管の公共インフラの維持管理・更新費の推計
出所:国交省
需要の高まりに備えて同社が重視するのが、受注獲得の競争力を上げることだ。
補修・補強工事は、主力の「斜面・のり面」「基礎・地盤改良」ほど要求される技術水準が高くない分、参入企業が多いとされる。競合は、業界大手のショーボンドホールディングス<1414>から、地場の土木会社まで多岐にわたる。
入札時に訴求力を高めるポイントとなるのが、経験豊富な技術者を増やすことだ。その工事にかかわる技術者に、熟練工が多いほど「実績豊富」として評価が高まりやすいからだ。
技術者を育成するため、同社は既存事業の人材を一部の経験豊富な技術者が指導しながら現場で経験を積ませている。各工程におけるノウハウも蓄積できれば、施工効率も引き上げていくことができる。
熟練人材の確保や技術力の強化で地場ゼネコンのM&Aなどを検討
人材面の解決策としては、M&A(合併・買収)も積極的に検討している。
同社は、これまでも建築事業を担う小野良組(宮城県気仙沼市)や斜面・のり面など主力事業を支えるサンヨー緑化産業(広島市)をM&Aでグループに取り込み、事業拡大につなげてきた実績がある。
阿久津社長は「買収候補となりそうな案件がないかアンテナを張っている」と語る。理想とする候補は、競争力を持つ熟練工や他社にない技術を抱えているような地場ゼネコンになる。
強化2 建築~首都圏から地方に事業エリア拡大へ
建築事業では現在は主に、首都圏でマンションを展開している。竣工ペースは毎年10棟前後で、前期の建築売り上げは約150億円と、売上高全体の14%となっている。下の画像は、昨年竣工した都内マンションの1つだ。
同社が建築市場に参入したのは2008年4月。公共工事の予算が低迷し、建設・土木業界に逆風が吹いていたなか、当時の社長が生き残りをかけてまいた種の1つになる。
その種を開花させることになったきっかけが、参入して約半年後に発生したリーマン・ショック。世界的な信用不安の連鎖、そして需要蒸発の影響を受けて、不動産開発会社が相次いで倒産した際に、同社は経験豊富な技術者を積極的に確保する攻めに出た。
そうして確保した人材は、「危機感を人一倍持ちながら仕事に取り組んでくれたことで、事業の拡大が進んだ」(阿久津社長)
■22年6月に竣工した東京都世田谷区の5階建てマンションの外観(左)と内装
提供:ライト工業
一般財団法人建築経済研究会によると、民間住宅は22~35年までの13年間で年平均4.5%成長と予測されている。高成長とは言えないが、着実な成長が見込まれる中で、ライト工業は営業エリアの拡大と事業モデルの改善で成長を目指す。
営業エリアでは、首都圏から地方都市へと広げていく。その第1歩として、首都圏の物件で受注した顧客が地方に物件を建築する際に、受注を獲得していく。
事業モデルでは、設計部門の強化を目指す。現在は社外の設計を基に、同社が施工・リニューアル工事を担当する体制。これを設計から施工まで一気通貫で対応できるようにすることで、工期や工程の管理を工夫し、採算性の向上につなげていきたいとする。
現在は設計部門に数人の社員が在籍するものの、自社で設計業務を手掛けられる状況にない。外部から経験者を採用して、設計部門のスキルを底上げする。
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