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営業利益の10年平均成長率は約20%、総合ランク2位の土木会社
10年上昇企業~「ライト工業」第1回
「10年上昇企業」を紹介するシリーズで、3番目に登場するのがライト工業<1926>だ。成熟産業の土木を主力とする同社だが、10年上昇企業の総合ランキングでは2位につけている。
このランキングは「株価」「成長性」「収益性」「株主還元」の4つの分野でのモメンタムを重視した評価から算出している。
ライト工業の場合、「株価」ランキングは6位にとどまったものの、「収益性」と「株主還元」では1位、そして「成長」でも3位と、ファンダメンタルズ面での指標で高い順位になっている。
■10年上昇企業の総合ランキング(1~3位)
■収益性と株主還元のランキング(トップ3)
ファンダメンタルズで高順位となっている要因の1つに、同社が過去10期の間に営業利益を高成長させてきたことがある。
同社の売上高は過去10年平均で4%成長と、国内の建設投資額の同3.7%と同水準だが、営業利益の平均成長率は同19.4%にのぼる。これは、日特建設<1929>や不動テトラ<1813>などの競合他社と比べて、6~11%ポイント上回っている。
売上高を大きく上回る勢いで営業利益を伸ばしてきた経営の秘訣を、ライト工業の阿久津和浩社長へのインタビューをもとに2回シリーズで紹介する。
初回は、収益性を高めてきたポイントについて触れる。
■阿久津和浩社長
特殊土木工事のリーディングカンパニー
ライト工業が主力とする事業は、災害や事故に備えた公共インフラ工事だ。主力とする事業は、
山や盛土の斜面で発生する落石、斜面の崩壊などを抑止する「斜面・のり面工事」、
そして空港・港湾・道路の液状化対策や耐震対策などを行う「基礎・地盤改良工事」
――の2つになる。
これらで売上高全体の7割を占め、前期の売上高は、「斜面・のり面」が373億円、「基礎・地盤改良」が386億円になる。同社がメディアやアナリスト向けに配布した決算資料によれば、部門ごとの売上高は業界トップの規模となっている。
■斜面工事(左)、のり面工事(中央)、地盤改良工事の様子
提供:ライト工業
主な競合企業は、日特建設<1929>、不動テトラ<1813>、日本基礎技術<1914>。これら3社の売上高営業利益率の推移を比較すると、ライト工業がトップを走り、2位との差を広げている(下の折れ線グラフ)。
■ライト工業と日特、不動テトラ、日基技の売上高営業利益率の推移
注:「株探」のデータをもとに作成
競合より収益性が高いのは、生産性の高さに表れている。
各社の従業員1人当たり売上高を3年おきに比較した下のグラフ。2010年3月期の同社は、不動テトラや日特建より低かったが、13年3月期からトップを走っている。
■従業員1人当たり売上高の推移
出所:各社IR資料
原動力は、技術へのこだわり
「技術を磨き続けて業界をリードしている」と阿久津社長が自負するように、同社が収益性そして生産性を向上させている要因の1つが、技術へのこだわりになる。
新たな建機や工法を開発し活用することで、省力化や工期短縮などが可能になる。工事が効率化すれば、その分こなせる受注案件も増え、増収も期待できる。
今が旬の技術の1つに、ドリルで斜面に細長い穴をあける作業を省力化する「リモートスカイドリル」がある(下の画像)。従来3人を必要とした業務が1人でこなせるようになっている。
これまで斜面を削孔するのに、ドリルを持ち上げるマシンを操作する作業員、ドリルそのものを操作する作業員、施工状況をモニタリングする作業員と計3人を必要とした。だがリモートスカイドリルでは、各種装置の機能を無線リモコンに集約させることで1人が全ての業務を兼務できるようになった。
■リモートスカイドリルの削孔状況(左)と施工管理状況
提供:ライト工業
同社は足元で約160の独自工法を保有している。その中で採用頻度が高い定番工法が、硬質地盤でも均一性を保って改良できる「RAS(ラス)コラム工法」や、軟らかい地盤を固くする薬液を効率的に注入する「マックスパーム注入工法」などになる。
下の画像のように、いずれの工法も、細長いドリルを地中深くに挿入する作業を伴う。ドリルの大型化によって、以前より削孔本数を削減できるようになり、その分のコストを軽減できる。
また「RASコラム工法」では、地中で土をかき混ぜる「撹拌」部分の形状や回転方法に工夫を加えることで、これまで不向きだった粘性土の改良がスムーズになった。「マックスパーム注入工法」では、地中深くに刺した細長い柱の複数箇所から薬液を地盤に注入する手法をとっており、より広い範囲で短時間での浸透が可能だ。
■RASコラム工法(左)とマックスパーム注入工法
提供:ライト工業
上越新幹線のトンネル工事での成果が飛躍の原動力
技術本位の経営は、同社の伝統だ。戦後に鉱山の坑道や鉄道トンネルの防水工事からスタートした同社は、様々な技術・工法を開発しながら公共インフラにかかわる難工事を手掛けて現在の地位を築いている。
阿久津社長によれば、同社の技術力を知らしめる転機となったのが、1960~70年代にかけて習得・普及に努めた「ソレタンシュ工法」と呼ばれる地盤改良工法だ。軟弱地盤に薬液を注入して頑丈にするもので、地質が異なる複雑な地盤でも対応できる柔軟さが画期的だった。
同工法の名が広まることとなった事例が、1974年、歴史的難工事と言われた「上越新幹線中山トンネル高山立坑工事」での成功だ。地下約200メートルの出水を制圧したことで、注入工法の概念が一変した。
同社の社史によれば、この工事がライト工業を飛躍させる原動力になったと紹介している。
■「ライト工業株式会社のあゆみ」に記載されているソレタンシュ工法の普及までの経緯
ただ、土木業界は競争が激しく、新たな工法を開発しても1年もしないうちに類似の工法が登場するような状況。その対策として、阿久津社長は、「1つの技術が永遠に通用するとは考えずに、次から次へと新たな工法を生み出す不断の努力が欠かせない」という。
その努力が実を結びやすくするために、同社が工夫しているのが、組織の壁を超えた現場主導の開発体制になる。
開発は開発部門の専権事項のようにせず、工事部門と営業部門の現場からのアイデアを積極的に吸収する仕組みを取る。例えば営業部門が「この完成度では他社に負けてしまうから、こう変えてくれないか」などと、部門の壁にとらわれずに走りながら開発する仕組みを整えている。
さらに社員には新工法のアイデアを出すことを奨励し、案が採用されれば、その社員にインセンティブを与えてモチベーションも喚起する。
独自工法の採用率は6割まで上昇
技術力にこだわる同社だが、売上高に占める技術投資額や特許の取得件数は、同業他社と比べて、必ずしもトップクラスではない。
下のグラフは研究開発費と設備投資額の合計した技術投資額が売上高に占める割合を比較したもの。ライト工業は足元で3.2%と、日本基礎技術<1914>や不動テトラ<1813>と比べて1%ポイント以上低くなっている。
■4社の売上高に対する研究開発費+設備投資額の割合
出所:各社IR資料
また、特許の取得件数でも、過去10年間でライト工業は計112件と、不動テトラの191件に大きく離されている。
特許の取得件数は技術力の全容を示すわけではないものの、特許の取得件数や先の技術投資額の割合からは、技術にこだわる同社の姿勢は見出しにくい部分がある。
■2013~22年の特許取得件数
出所:知財ポータルサイト「IP Force」
特許や技術投資額では見えないが、同社の技術力が評価されている指標となるのが、自社開発した独自工法の採用率。同社によれば、10年前には4~5割だったのが、足元では6割まで上昇しているという。
この上昇の原動力になっているのが、同社の営業手法だ。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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株探プレミアム編集部/真弓重孝、高山英聖
「10年上昇企業」を紹介するシリーズで、3番目に登場するのがライト工業<1926>だ。成熟産業の土木を主力とする同社だが、10年上昇企業の総合ランキングでは2位につけている。
このランキングは「株価」「成長性」「収益性」「株主還元」の4つの分野でのモメンタムを重視した評価から算出している。
ライト工業の場合、「株価」ランキングは6位にとどまったものの、「収益性」と「株主還元」では1位、そして「成長」でも3位と、ファンダメンタルズ面での指標で高い順位になっている。
■10年上昇企業の総合ランキング(1~3位)
順位 | 銘柄名<コード> | 株価 | 成長 | 収益性 | 株主 還元 | 合計 |
1位 | ベネ・ワン<2412> | 1位 | 1位 | 6位 | 1位 | 9 |
2位 | ライト<1926> | 6位 | 3位 | 1位 | 1位 | 11 |
3位 | ULSグルプ<3798> | 2位 | 2位 | 5位 | 4位 | 13 |
3位 | ビーエンジ<4828> | 3位 | 4位 | 2位 | 4位 | 13 |
注1:合計は各ランキングの順位を足したもの。
注2:並びは合計の小さい順で、同じ値の場合は証券コードの小さい順。
注3:ランキングの詳細は本コラムの1回目記事を参照。銘柄名は略称。以下同
■収益性と株主還元のランキング(トップ3)
ファンダメンタルズで高順位となっている要因の1つに、同社が過去10期の間に営業利益を高成長させてきたことがある。
同社の売上高は過去10年平均で4%成長と、国内の建設投資額の同3.7%と同水準だが、営業利益の平均成長率は同19.4%にのぼる。これは、日特建設<1929>や不動テトラ<1813>などの競合他社と比べて、6~11%ポイント上回っている。
売上高を大きく上回る勢いで営業利益を伸ばしてきた経営の秘訣を、ライト工業の阿久津和浩社長へのインタビューをもとに2回シリーズで紹介する。
初回は、収益性を高めてきたポイントについて触れる。
■阿久津和浩社長
特殊土木工事のリーディングカンパニー
ライト工業が主力とする事業は、災害や事故に備えた公共インフラ工事だ。主力とする事業は、
山や盛土の斜面で発生する落石、斜面の崩壊などを抑止する「斜面・のり面工事」、
そして空港・港湾・道路の液状化対策や耐震対策などを行う「基礎・地盤改良工事」
――の2つになる。
これらで売上高全体の7割を占め、前期の売上高は、「斜面・のり面」が373億円、「基礎・地盤改良」が386億円になる。同社がメディアやアナリスト向けに配布した決算資料によれば、部門ごとの売上高は業界トップの規模となっている。
■斜面工事(左)、のり面工事(中央)、地盤改良工事の様子
提供:ライト工業
主な競合企業は、日特建設<1929>、不動テトラ<1813>、日本基礎技術<1914>。これら3社の売上高営業利益率の推移を比較すると、ライト工業がトップを走り、2位との差を広げている(下の折れ線グラフ)。
■ライト工業と日特、不動テトラ、日基技の売上高営業利益率の推移
注:「株探」のデータをもとに作成
競合より収益性が高いのは、生産性の高さに表れている。
各社の従業員1人当たり売上高を3年おきに比較した下のグラフ。2010年3月期の同社は、不動テトラや日特建より低かったが、13年3月期からトップを走っている。
■従業員1人当たり売上高の推移
出所:各社IR資料
原動力は、技術へのこだわり
「技術を磨き続けて業界をリードしている」と阿久津社長が自負するように、同社が収益性そして生産性を向上させている要因の1つが、技術へのこだわりになる。
新たな建機や工法を開発し活用することで、省力化や工期短縮などが可能になる。工事が効率化すれば、その分こなせる受注案件も増え、増収も期待できる。
今が旬の技術の1つに、ドリルで斜面に細長い穴をあける作業を省力化する「リモートスカイドリル」がある(下の画像)。従来3人を必要とした業務が1人でこなせるようになっている。
これまで斜面を削孔するのに、ドリルを持ち上げるマシンを操作する作業員、ドリルそのものを操作する作業員、施工状況をモニタリングする作業員と計3人を必要とした。だがリモートスカイドリルでは、各種装置の機能を無線リモコンに集約させることで1人が全ての業務を兼務できるようになった。
■リモートスカイドリルの削孔状況(左)と施工管理状況
提供:ライト工業
同社は足元で約160の独自工法を保有している。その中で採用頻度が高い定番工法が、硬質地盤でも均一性を保って改良できる「RAS(ラス)コラム工法」や、軟らかい地盤を固くする薬液を効率的に注入する「マックスパーム注入工法」などになる。
下の画像のように、いずれの工法も、細長いドリルを地中深くに挿入する作業を伴う。ドリルの大型化によって、以前より削孔本数を削減できるようになり、その分のコストを軽減できる。
また「RASコラム工法」では、地中で土をかき混ぜる「撹拌」部分の形状や回転方法に工夫を加えることで、これまで不向きだった粘性土の改良がスムーズになった。「マックスパーム注入工法」では、地中深くに刺した細長い柱の複数箇所から薬液を地盤に注入する手法をとっており、より広い範囲で短時間での浸透が可能だ。
■RASコラム工法(左)とマックスパーム注入工法
提供:ライト工業
上越新幹線のトンネル工事での成果が飛躍の原動力
技術本位の経営は、同社の伝統だ。戦後に鉱山の坑道や鉄道トンネルの防水工事からスタートした同社は、様々な技術・工法を開発しながら公共インフラにかかわる難工事を手掛けて現在の地位を築いている。
阿久津社長によれば、同社の技術力を知らしめる転機となったのが、1960~70年代にかけて習得・普及に努めた「ソレタンシュ工法」と呼ばれる地盤改良工法だ。軟弱地盤に薬液を注入して頑丈にするもので、地質が異なる複雑な地盤でも対応できる柔軟さが画期的だった。
同工法の名が広まることとなった事例が、1974年、歴史的難工事と言われた「上越新幹線中山トンネル高山立坑工事」での成功だ。地下約200メートルの出水を制圧したことで、注入工法の概念が一変した。
同社の社史によれば、この工事がライト工業を飛躍させる原動力になったと紹介している。
■「ライト工業株式会社のあゆみ」に記載されているソレタンシュ工法の普及までの経緯
ただ、土木業界は競争が激しく、新たな工法を開発しても1年もしないうちに類似の工法が登場するような状況。その対策として、阿久津社長は、「1つの技術が永遠に通用するとは考えずに、次から次へと新たな工法を生み出す不断の努力が欠かせない」という。
その努力が実を結びやすくするために、同社が工夫しているのが、組織の壁を超えた現場主導の開発体制になる。
開発は開発部門の専権事項のようにせず、工事部門と営業部門の現場からのアイデアを積極的に吸収する仕組みを取る。例えば営業部門が「この完成度では他社に負けてしまうから、こう変えてくれないか」などと、部門の壁にとらわれずに走りながら開発する仕組みを整えている。
さらに社員には新工法のアイデアを出すことを奨励し、案が採用されれば、その社員にインセンティブを与えてモチベーションも喚起する。
独自工法の採用率は6割まで上昇
技術力にこだわる同社だが、売上高に占める技術投資額や特許の取得件数は、同業他社と比べて、必ずしもトップクラスではない。
下のグラフは研究開発費と設備投資額の合計した技術投資額が売上高に占める割合を比較したもの。ライト工業は足元で3.2%と、日本基礎技術<1914>や不動テトラ<1813>と比べて1%ポイント以上低くなっている。
■4社の売上高に対する研究開発費+設備投資額の割合
出所:各社IR資料
また、特許の取得件数でも、過去10年間でライト工業は計112件と、不動テトラの191件に大きく離されている。
特許の取得件数は技術力の全容を示すわけではないものの、特許の取得件数や先の技術投資額の割合からは、技術にこだわる同社の姿勢は見出しにくい部分がある。
■2013~22年の特許取得件数
銘柄名 | 特許取得件数 |
ライト | 112 |
日特建 | 72 |
不動テトラ | 191 |
日基技 | 39 |
特許や技術投資額では見えないが、同社の技術力が評価されている指標となるのが、自社開発した独自工法の採用率。同社によれば、10年前には4~5割だったのが、足元では6割まで上昇しているという。
この上昇の原動力になっているのが、同社の営業手法だ。
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