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【特集】物言う株主が2度目の登場、最初は「親子上場」の解消、では2度目は?

10年上昇企業~「ダイワボウホールディングス」最終回

登場する銘柄
ダイワボHD<3107>、大塚商会<4768>

株探プレミアム編集部/真弓重孝、高山英聖

第1回「『10年上昇・5倍株』のIT関連銘柄も、PERは10倍程度のわけ」を読む
第2回「ギガスク特需2000億円、『20年以上在庫ロスなし』の強さゆえの前期不振」を読む

2月8日、ダイワボウホールディングス<3107>は2023年3月期の売上高と営業利益を共に上方修正した。修正後の前期比伸び率は、いずれも+15%前後と足元の業況は堅調だが、その背後では今、ある株主からこう問いかけられている。

その事業は、企業価値の長期的な向上に資するものなのか――。

問いかけの主は、シンガポールを拠点に日本株に特化したバリュー投資を行う3D・インベストメント・パートナーズ。東芝<6502>や富士ソフト<9749>で株主提案を行っている物言う株主で、ダイワボウには「3D・オポチュニティ・マスター・ファンド」の名称で株主になっている。

同ファンドは20年3月末に大株主として登場し、22年9月末時点では290万株を保有する第5位の大株主となっている。彼らはなぜ、ダイワボウ株の大量保有を始めたのか。その理由を尋ねるため、株探プレミアム編集部は3Dファンドに取材を申し入れた。しかし、「メディアへの取材等を受け付けていない」との返答だった。

では、ダイワボウの経営陣は、どのように受け止めているのか。同社の過去の取り組みを振り返ると、物言う株主の主張を踏まえながら、企業価値向上に取り組む姿勢も見えてくる。

■『株探プレミアム』で確認できるダイワボウの業績修正の長期履歴
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2007年にエフィッシモの登場で、3つに分かれていた上場会社が統合

実は、ダイワボウにとって物言う株主が大株主となったのは、今回が2度目になる。1度目は、旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネジメントだった。

彼らは、前回に焦点を当てたITインフラ流通事業を担うダイワボウ情報システム(DIS)の株式を2008年春時点で40%を超えるまで保有割合を上げ、筆頭株主となった。DISは当時、東証1部に上場していた。

エフィッシモの狙いは、大和紡績をルーツとする会社がいわゆる親子上場の形態になっているのは、ガバナンスが効かず企業価値の向上にマイナスになることを問題視したためとされている。その後に起きた同社の再編劇が物語る。

再編劇の第1幕は08年~09年。当時は、DISの株を24%ほど保有する東証1部上場の大和紡績が、08年にTOB(株式公開買い付け)でエフィッシモの保有分を引き取る形で子会社化した。翌09年春にDISは上場を廃止し、その後2社は経営統合して社名はダイワボウホールディングスに変わった。

第2幕は11年。産業機械事業を手掛け、同じく東証1部に上場していたオーエム製作所とダイワボウHDとが統合、現在の持ち株会社に3つの中核事業会社がぶらさがる体制となった。

■親子上場状態から3社統合した経緯
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注:オーエム製作所の設立当初の社名は大和機械工業で1960年から現社名。
「TOB」は株式公開買い付け、「東1」は東証1部、「東2」は同2部の略


これらの再編過程では、大和紡績ないしDISの株価が動意づいた局面も見られている。

最初の大和紡績とDISの統合時には、鳥インフルエンザや新型インフルエンザが流行し、大和紡績が対応マスクを発売したことなどが短期的に材料視されて株価が急騰した可能性もあるが、統合効果を期待した反応とも取れる動きも見られている。

■DISを統合する時のダイワボウの株価動向(2008年~09年)
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注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」。以下同


■オーエム製作所を統合する時のダイワボウの株価動向(2010年~11年)
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2度目は非中核事業のテコ入れ、さらには分離・整理も

では、2度目の今回は、何が問題視されているのか。編集部は、非中核事業である「繊維」と「産業機械」のテコ入れ、場合によってはグループからの切り離しや整理などを求めているとの想定で西村幸浩社長に質問した。

というのも、20年4月に社長就任してから西村氏率いるダイワボウは、2つの事業の中でも祖業の繊維事業の改革を矢継ぎ早に行っているからだ(下の表)。

■西村社長就任後の繊維事業の見直しの状況
年月内容
2020年4月各部門の事業子会社を吸収合併、大和紡績を中核事業会社化
21年3月香港子会社の解散、海外事務所の閉鎖
21年5月非繊維部門のホテル業終了
21年9月非繊維部門のエンジニアリング業の規模縮小
21年10月衣料製品部門の子会社間合併
22年3月衣料製品部門子会社の株式譲渡
22年6月産業資材部門子会社の株式譲渡
出所:同社IR資料

さらに21年5月に発表した「中期経営計画」(22年3月期~24年3月期)には、「繊維事業・産業機械事業における管理体制の見直しと収益力強化」を掲げ、また「キャッシュフローの適正配分による資本効率の向上」も課題に挙げた。

最初の「管理体制の見直し」は、繊維事業で起きた不祥事対応の意味もある。20年9月に製品・テキスタイル事業を行うダイワボウノイ(当時)が6年間にわたり循環取引によって総額で64億円を超える売上高の水増しを行っていた事態が明るみに出た。西村社長はその責任を取り、役員報酬を2カ月50%相当の減額とする処分を受けている。

実は循環取引では、ITインフラ流通事業の中核会社であるDISでも、2014年12月から15年にかけてネットワンシステムズ<7518>が関与した循環取引に組み込まれ、20年春にそれに関する報道がされている。ただし、ダイワボウノイの循環取引問題を調査した特別調査委員会は、「DIS には循環取引を許容する風土がないと認定できる」との判断を下している。

こうした不祥事対策もあるが、繊維と産業機械事業の管理体制を見直すのには、収益力強化とキャッシュフローの適正配分が必要となっている。2つの事業の収益環境や経営資源の配分実績を見れば明らかになる。

1人当たり営業利益、繊維は50万円、産業機械は140万円

セグメント別の売上高と営業利益の業績は、シリーズ初回の記事で触れたように、
産業機械は10年平均および5年平均のいずれもマイナス成長、
繊維は、10年平均ではプラスも、5年平均ではマイナス成長

――となっている。

■セグメント別の売上高と営業利益の年平均成長率
セグメント10年5年
売上高営業利益売上高営業利益
ITインフラ流通5.2%14.7%5.2%19.3%
繊維0.4%10.1%▲2.8%▲11.4%
産業機械▲0.2%▲4.2%▲0.2%▲2.6%
出所:QUICK・ファクトセット、有価証券報告書

従業員1人あたりの売上高と営業利益では、収益源のITインフラ流通の売上高は3.3億円、営業利益は1040万円となっているが、繊維と産業機械は売上高が1桁小さい1000万円台、営業利益は100万円台ないし10万円台の水準にとどまる。

10期前との水準を比較すると、ITインフラ流通は営業利益を270万円から1040万円と桁を1つ増やしているのに対し、繊維は20万円から50万円と100万円未満のまま。また、産業機械は140万円で変わらない状況となっている。

■セグメント別の従業員1人あたり売上高と営業利益の変化
セグメント2013年3月期2022年3月期
売上高営業利益売上高営業利益
ITインフラ流通2.48億円270万円3.32億円1040万円
繊維0.14億円20万円0.19億円50万円
産業機械0.29億円140万円0.26億円140万円
出所:QUICK・ファクトセット、有価証券報告書

上の表が示すように、繊維と産業機械は、10期前の比較で利益創出力や生産性がITインフラ流通より停滞している。

一方で、研究開発費および設備投資の過去10期の合計額では、繊維はITインフラ流通より大きく、また産業機械もITインフラ流通の6割程度の水準となっている。

■過去10期の研究開発費と設備投資額の合計
セグメント研究開発費設備投資額
ITインフラ流通事業――約109億円
繊維約76億円約226億円
産業機械約21億円約46億円
出所:QUICK・ファクトセット、有価証券報告書

繊維が設備投資と研究開発費の合計が最も大きいセグメントになることは、24年3月期までの3年間の中期経営計画でも変わらない構図となっている。

■中期経営計画の設備投資と研究開発の累計予定額
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出所:ダイワボウIR資料

繊維はウィルスやインバウンド関連、産業機械は航空、鉄道関連を手掛ける

設備と研究開発に資金を掛けている繊維と産業機械は、どのような収益基盤となっているのか。概要を下の表にまとめた。

繊維は不織布や不織布の原料の綿といった合成繊維・レーヨン関連がセグメント売上高の約半分を占め、残りを不純物などの濾過に用いるカートリッジフィルターなどを手掛ける産業資材と、海外ブランドの衣料製品などを扱う製品・テキスタイル関連が分け合う状況となっているようだ。

不織布は、ウィルス対応したマスクや紙おむつなどに使われており、同社の不織布を採用した紙おむつは一時、中国人観光客の爆買いを誘ったという。こうした面もあることから、ダイワボウ株はマスクやインフルエンザ、インバウンド(訪日外国人)関連で注目される局面もある。

ただし、これまで見てきたように全社業績の貢献度では、不織布の売れ行きが同社株を中長期的に押し上げる材料に見られる可能性は低いのが実態だ。テーマ性で注目されても、短期の思惑買い主導と構えているのが無難だ。

■繊維事業の概要
部門売上高
構成比
主な製品概要
合繊
・レーヨン
50%不織布掃除用や、制汗シートやフェイスマスク、
おむつなど人の肌に接するものなど
綿不織布などの原料
産業資材25%カートリッジフィルター不純物の濾過。大型液晶基板洗浄用など
化学・電子・食品業界向け
建築工事用シート建築工事用シートは、作業現場やイベント会場に
設置するテントに使用される
コンベアベルトプラスチックメッシュ状で、乾燥や水洗装置などに適し、
製糸や搬送用、排水処理などに使われる
衣料製品25%衣料製品「FILA」や「Prince」などの
ブランド衣料品のライセンス生産など
注:売上構成比は概算

■繊維事業が手掛ける衣料製品(左)とレーヨン繊維(中央)と不織布の除菌シート
【タイトル】
提供:ダイワボウ

産業機械は、金属部品の加工に使う立旋盤や鉄道車両のメンテナンスに使われる鉄道車輪旋盤といった工作機械が部門売上高の過半を占め、残りが自動包装機や工作機械の部品鋳造となっている。

主力の立旋盤は、航空機やロケット、発電装置などに使われる金属部品の加工で活用されており、こうした用途を踏まえると、同社製品の技術力は一定水準のものを持っていると評価されている可能性がある。

■産業機械事業の概要
部門売上高
構成比
主な製品概要
工作機械60%立旋盤多様な金属部品を水平方向に回転するテーブルに
取り付けて切削する工作機械。
航空機エンジンやロケット、発電装置、建設機械で活用される。
オーエム製作所が手掛ける
鉄道車輪旋盤鉄道車両のメンテナンス向け。オーエム製作所が手掛ける
自動機械20%自動包装機オーエム機械が手掛け、医薬品、製菓、レトルト製品の
工場での箱詰め作業向けなどがある
その他20%工作機械の部品鋳造――
注:売上構成比は概算

■産業機械事業が手掛ける立旋盤(左)と鉄道車輪旋盤
【タイトル】
提供:ダイワボウ

繊維と産業機械は、コロナ禍の影響を受けた。繊維はマスク需要が拡大したものの、インバウンド消費の激減が響き、産業機械も外出抑制で航空や鉄道向けの需要が減少した。

今期については、繊維は行動制限の緩和や猛暑がプラス材料に働いたが原材料高や円安の影響を受けており、3Q累計時点で前年同期比▲43.6%の減益となっている。一方で、産業機械は同+70.4%の増益と回復が見られている。

産業機械は受注生産が基本で先行きの業績を計算しやすいのに対し、繊維は先行きの需要が読みにくい事業構造。産業機械は業績回復の基調を維持する可能性は高いが、繊維については不透明感が残っているという。

繊維依存脱却でボーリング場、ゴルフ場、リゾートホテル、食品、人工ゲレンデも

足元の業績は明暗が分かれる非中核事業だが、ポイントは長期的な成長力を期待できる存在になるのか。半世紀以上の歴史を持つ2つの事業の足跡からは、その難しさがうかがえる。

ボーリング場、ゴルフ練習場にゴルフ場、リゾートホテル、都市緑化、食品、人工ゲレンデ、ソフトボールや軟式野球ボール、ゴルフ練習用ボール等々――。

2001年、前身の大和紡績が創立60周年を迎えた際に編纂された「ダイワボウ60年史」のページをめくると、同社が1960年以降、繊維依存からの脱却を図るために多角化に取り組んできた歴史を振り返ることができる。

■「ダイワボウ60年史」に記載されている多角化の取り組み
【タイトル】

ダイワボウには、かつて女子プロゴルファーのレジェンド、岡本綾子さんが1970年~72年に在籍していたことがある。岡本さんは同社福井工場のソフトボール部に所属し、投打の主力選手として活躍。同部は71年に国体で優勝するなど好成績をあげている。同社がかつてソフトボールや軟式野球ボールを手掛けていたのは、こうした歴史も背景にある。

ダイワボウは今も競輪用タイヤなど、同社のイメージからは容易に想像がつかない製品を手掛けているが、多角化で挑んだ事業の多くは撤退。唯一と言っていい成功例が、ダイワボウ情報システム(DIS)となっている。

下のグラフがその様子を示している。大和紡績とオーエム製作所、DISについて、売上高とEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)、株価の長期成長率を比較している。計測期間に違いはあるが、DIS以外の2社は長期で業績および株価の成長に苦労している様子がうかがえる。

■大和紡績、オーエム製作所、ダイワボウ情報システムの業績と株価の長期平均成長率
【タイトル】

出所:QUICK・ファクトセット、以下同。
大和紡績の業績は1980年4月期~ 2008年3月期、株価は年足で1980年~ 2008年で算出
オーエム製作所の業績は1980年3月期~ 2011年3月期、株価は年足で1980年~ 2010年で算出
DISの業績は1991年3月期~ 2008年3月期。株価は年足で1991年~ 2008年で算出


西村社長がインタビューで述べた決意

こうした歴史を刻んできた繊維と産業機械事業を、ダイワボウの西村社長は今後どのように改革していく方針なのか。

※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。



 

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