エノモト Research Memo(7):長期ビジョン「金型の技術で未来を創る」
■中期経営計画の進捗
1.「ビジョン2030」
半導体に対して高精密化・ハイスペック化と安定した大量生産の両立など難易度の高いニーズが強まっており、エノモト<6928>に対しても同様の要請が強まっている。そこで同社は、「金型の技術で未来を創る」という長期の「ビジョン2030」を策定し、高付加価値製品でマーケットの成長を上回る利益成長を図るとともに、先端製品の研究開発や需要急拡大が見込まれる分野への対応を継続し、次世代情報通信や次世代自動車などの分野でも成長する方針とした。同社は「ビジョン2030」を3つのステップに分け、2022年3月期~2024年3月期の1stSTEPにおいて、車載向けパワー半導体など成長分野への投資、金型製作の自動化や一貫生産体制強化による収益力向上、津軽工場でのスマートファクトリーの確立、先端技術の燃料電池部品の開発を進める計画である。2025年3月期以降の2ndSTEPでは、パワー半導体用部品の生産能力の増強や次世代情報通信分野への対応、金型技術の進化による海外拠点の競争力向上、全工場のスマートファクトリー化、燃料電池部品の実用化を目指す。3rdSTEPでは2ndSTEPからのオーガニックな成長で営業利益35億円を目指すが、さらに新商品に対応した部品を開発~成長させることで利益の上積みを狙う考えである。
「ビジョン2030」は順調で、期初に中計を上方修正
2. 1stStep(現中期経営計画)の進捗
その1stStepとなる現中期経営計画では、3年間で60億円~70億円の設備投資を実行し、2024年3月期に売上高250億円、営業利益20億円、ROE8%を達成する計画としていた。車載向けパワー半導体用リードフレームとウェアラブル端末向けコネクタ用部品が好調で、初年度の2022年3月期に売上高27,250百万円、営業利益2,012百万円、ROE8.7%と中期経営計画の目標値を達成した。このため、新たにパワー半導体用リードフレームとウェアラブル端末向けコネクタ用部品の需要拡大、津軽工場増築分の貢献を見込み、同社は中期経営計画の目標数値を売上高290億円、営業利益24億円、ROE9%へと上方修正した。投資もクリップボンディングリードフレームの増強やメッキ加工の内製化、環境対応など前倒しし、中期経営計画の研究開発費は3億円~5億円に据え置いたが、設備投資額を70億円~80億円へと増額、減価償却費も2億円増額した。なお、津軽工場では将来の全工場スマートファクトリー化を目指した動きが始動したほか、メッキ加工など表面処理加工を強化するため代表取締役直轄の表面処理プロジェクト室を新設した。
山梨大学と共同開発している、先端技術の燃料電池部品となる固体高分子型燃料電池(PEFC)向け「ガス拡散層(GDL)一体型金属セパレータ」も開発が順調である。2021年7月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共通課題解決型産学官連携研究開発事業に採択され、2022年11月には山梨大学及びスズキ<7269>と連名で寄稿した論文がアメリカ電気化学会(ECS)にオープンアクセス版として掲載された。現在、数社の顧客と個別に技術を深掘りしているところであるが、新開発の流路付きGDL(GDLFC+)で大幅な高電流密度化を実現し汎用樹脂にガス流路を成形することができたほか、金属セパレータとGDLを自社生産しガスソケットと一体化することでコスト削減し、収益化に目途が立ってきた。このため、2ndStepでの量産化や2025年の燃料電池車向けのテスト開始、その後の電動車、ドローン、緊急電源、エネファームなどへの採用に向け、大きく踏み出したと言える。なかでもNEDOのプロジェクトに採択されたことは、国の予算がつくことに加え、専門家や専門機関のフォローも期待できるため、実用化に向けてステージが一段上がったという印象である。
2030年度にGHGを2012年度比33.33%削減する計画
3. 中期環境計画(SDGsへの取り組み)
同社は、SDGsへの取り組みの一環として、2030年に向けた中期環境計画も推進している。カーボンニュートラルへ向けて、再生可能エネルギーと省エネ対策により、生産プロセスにおけるGHGの排出量を2012年度(基準)の8,311t-CO2※、2020年度(直近)の8,702t-CO2から、2030年度(目標)の5,541t-CO2へと基準比で33.33%削減することを目標としている。基準からの削減は2,770t-CO2となり、内訳は、津軽工場への太陽光発電設備の導入とカーボンフリー電力の購入など再生可能エネルギーの活用で1,400t-CO2、コンプレッサーや空調設備など省エネ対策で1,370t-CO2である。なお、津軽工場の太陽光発電設備は2023年1月完成を予定しており、発電容量約1.7MW、年間発電量約200万kWhを計画している。発電量はすべて自家消費に回し、着雪対策や積雪・浸水対策、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策も施している。太陽光発電設備は本社(塩山・上野原)、フィリピン、中国に設置済みで、国内外の既存設備で既に約1.6MWの発電容量がある。なお、中期環境計画の推進などサステナビリティ経営強化のため、代表取締役直轄のサステナビリティ推進室を2022年4月に新設した。
※t-CO2(トンCO2):温室効果ガスの発生量(重量トン)を表す単位。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《NS》
提供:フィスコ