【特集】ヘリオス Research Memo(2):細胞医薬品・再生医療等製品の研究・開発・製造を進めるバイオベンチャー
ヘリオス <日足> 「株探」多機能チャートより
■ヘリオス<4593>の会社概要
1. 会社沿革
ヘリオスは、“「生きる」を増やす。爆発的に。”をミッションに、先進国における主な死因や新たな治療薬が望まれる領域(ARDS:呼吸器領域、脳梗塞:脳神経領域、固形がん:腫瘍領域)において、細胞医薬品・再生医療等製品の研究・開発・製造を行うバイオベンチャーである。元眼科医でもある現 代表執行役社長の鍵本忠尚(かぎもと ただひさ)氏によって2011年に設立された。
2013年にiPSアカデミアジャパン(株)や(独)理化学研究所(現 (国研)理化学研究所)と特許実施許諾契約を締結し、根治療法がない加齢黄斑変性を対象としたiPSC由来のRPE細胞製品を用いた治療法の開発をスタートした。同年12月には大日本住友製薬(現 住友ファーマ<4506>)と国内における共同開発契約を締結し、2014年には合弁で製造及び販売促進を行う(株)サイレジェン(出資比率50%)を新設した。また、鍵本氏が2005年に設立したアキュメン(株)で開発に成功し、欧州向けに販売を開始していた眼科手術補助剤「BBG250」の事業を2013年に同社が譲受した(同事業は2017年にデ・ウエスタン・セラピテクス研究所<4576>に譲渡)。
2016年には、アサシスが脳梗塞急性期を適応疾患として米国で開発を進めていた体性幹細胞製品※MultiStemに着目し、国内での開発・販売を行うためのライセンス契約を締結して第2/3相臨床試験を開始した(開発コードHLCM051)。また、同年に米国のバイオテクノロジー企業であるUniversal Cells, Inc.と遺伝子編集技術を用いて免疫拒絶反応を抑えた多能性細胞製品にかかる共同開発契約を締結した。
※ 幹細胞は、体の中に存在し、複数の細胞に分化したり、過剰な炎症を抑えたりすることで、組織や臓器を長期にわたって維持するために重要な細胞。
2019年には、HLCM051の開発に経営リソースを集中するため、住友ファーマとの国内における共同開発体制を見直した。具体的には、開発主体を同社から住友ファーマに変更し、住友ファーマにて治験を実施することとし、開発費の負担軽減を図った。開発方針の変更に伴い、開発の進捗に応じて住友ファーマから同社に支払われるマイルストーンの総額も16億円(うち7億円は受領済み)から10億円に変更となった。
2021年には米国にSaisei Ventures LLCなど再生医療分野のファンド子会社を設立し、2023年にはHLCM051の開発を主体的に推進する(株)プロセルキュア及び、遺伝子編集技術による他家iPS細胞由来のeNK細胞を用いたがん免疫療法の研究開発を推進する(株)eNK Therapeuticsを子会社として新設した。
なお、2024年1月にアサシスが経営破綻したことに伴い、MultiStem及び関連する資産について、同年4月に同社が取得したことを発表した。また、同年4月に総合医療グループのAND medical groupと、同社の保有する技術及び培養上清の活用を目的とした共同研究契約を締結し、同年6月にはアルフレッサ(株)との間で、同社が取り扱う製品等の流通・販売に関する業務提携基本契約及び16億円の普通社債買取契約※を締結するなど、アライアンス戦略を進めている。
※ 2024年6月に2本の普通社債(各8億円、利率2%)を発行。償還期日は2027年6月28日及び2030年6月28日。
細胞医薬品の研究開発で必要なすべての工程と製造設備を自社で有することが強み
2. 事業体制とグループ会社
現在の事業体制を分野別に整理すると、アサシスから取得した骨髄由来の体性幹細胞HLCM051を用いたARDS、脳梗塞急性期及び外傷を対象とした細胞医薬品の開発事業と、iPSC由来のeNK細胞を用いた新たながん免疫療法の開発事業に加えて、HLCM051培養時に生成される上清液やUDC(Universal Donnor Cel※1)、iPS細胞株などの製造販売、及びアサシスから取得した細胞医薬品の自動冷凍解凍在庫管理システムSIFUTM(Secure Integrated Freezer Unit※2)(以下、SIFU)のライセンス販売を行う医療材料事業の3つの事業を展開している。
※1 遺伝子編集技術を用いて免疫拒絶反応(白血球型抗原(HLA)不適合による拒絶)を抑えた他家iPS細胞のことで、移植する患者のHLA型に関わらず移植が可能。他家iPS細胞から拒絶反応を引き起こす複数のHLA遺伝子を除去し、免疫抑制関連遺伝子及び自殺遺伝子(細胞死を誘導することができ、異常を引き起こした細胞を排除することが可能)を導入することで安全性を大幅に高めた。次世代がん免疫療法や眼科領域、臓器原基等に活用することを目指しており、自社開発及びアカデミア等との連携を推進している。
※2 細胞医薬品は液体窒素を用いてマイナス130℃以下の環境で凍結保存し、使用時に融解するが、液体窒素は爆発リスクのある危険物に指定されており、輸送や保管時の安全性を保つためのコストがかかる。SIFUはマイナス150℃?180℃の環境をつくるための特殊な冷却装置で、アサシスが開発し、装置の製造は外部委託している。同冷却装置を動作させるための電源が必要となるものの、輸送・保管時の取り扱いは簡便になるといったメリットがある。また、同社は神戸研究所にてPh.D.を持つ多数の研究者と細胞培養を行える設備等を保有しており、細胞医薬品の探索的研究から遺伝子組換え実験、動物実験、プロセス開発研究、分析業務まで研究開発に必要となるすべての工程を自社で実施できることが強みとなっている。2024年4月にはアサシスから細胞医薬品を大量かつ安定的な品質で製造可能な3次元培養技術も取得し、同研究所に導入している。今後、細胞医薬品の開発が順調に進めば、培養設備の能力増強投資を行い、自社製造によって事業を拡大する方針だ。
2024年6月末時点のグループ会社は同社及び連結子会社7社、持分法適用共同支配企業1社で構成されており、連結従業員数は59名となっている。従業員数については開発パイプラインの見直しに伴い、2021年12月末の116名をピークに半分の水準までスリム化したが、今後は現在の水準を維持しながら収益化を目指す。また、2021年に設立したSaisei Bioventures, L.P.(以下、Saiseiファンド)には、SMBC日興証券(株)やみずほキャピタル(株)、(株)産業革新投資機構をはじめとする複数の国内大手金融機関等が出資者として参画しており、再生医療分野における次世代治療薬や基盤技術の研究開発を行うバイオテックベンチャー数社に投資を行っている。
アサシスから実質的全資産を取得
3. アサシスの実質的全資産獲得について
2024年1月にアサシスが経営破綻※したことに伴い、同社は同年4月にMultiStem及びIPも含めた関連資産を取得した。今回の資産取得によって、MultiStem(HLCM051)に関するアサシスへのマイルストーンや販売ロイヤリティの支払義務が消滅し、将来の支払負担が大幅に軽減されることになったほか、400件以上の特許を含む知的財産も取得し、グローバルで開発が行えるようになり、HLCM051の開発に成功した場合には、その価値は従来よりも格段に向上することになる。
※ 脳梗塞を対象に欧米で実施していた第3相試験の中間解析結果において、主要評価項目において統計学的有意差が得られなかったことで資金調達が困難となったほか、マネジメント体制に問題があったことも経営破綻の一因と見られている。
主な取得資産としては、アサシスが開発を進めていたMultiStemの3つのパイプライン(脳梗塞、ARDS、外傷)の全臨床データ※のほか、MultiStem数百例分の治験薬、3次元培養装置及び製造ノウハウ、動物領域におけるライセンス契約(米国市場)、細胞医薬品を安全に輸送・保管できるSIFU技術などがある。これらは今後のHLCM051の開発や商用段階において活用できる資産となる。
※ 脳梗塞は第3相試験、ARDSは第2/3相試験、外傷は第2相試験段階までの臨床データを取得、今後の開発に生かすことができる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《HN》
提供:フィスコ