【特集】富士紡HD Research Memo(1):研磨材事業と化学工業品事業が拡大見通し。2025年3月期は大幅増収増益予想
■要約
富士紡ホールディングス<3104>は1896年に設立し、研磨材事業と化学工業品事業を主力事業、生活衣料(B.V.D.など)事業を準主力事業として展開している。同社は日本の繊維産業とともに栄えてきたが、現在では大きく業態転換が行われ、祖業の繊維・紡績業は事業全体の2割以下となり、この3つが中核3大事業である。売上構成比は研磨材約4割、化学工業品約3割、生活衣料約2割で、その他事業の中の化成品(樹脂金型)事業を“第4の柱”とすべく育成を図っている。
1. 2025年3月期第2四半期の業績概要
2025年3月期第2四半期の連結業績は、売上高が前期比23.2%増の21,060百万円、営業利益が同226.1%増の2,992百万円、経常利益が同143.4%増の3,071百万円、親会社株主に帰属する中間純利益が同133.6%増の2,095百万円となった。また期初計画比では、売上高で2.7%増、営業利益で24.7%増、経常利益で22.8%増、親会社株主に帰属する中間純利益で30.9%増と、売上高・利益とも期初計画を上回った。
生成AIなどの先端半導体がけん引役となり半導体需要は回復局面に転じ、2025年3月期第2四半期は研磨材事業も急速に回復・拡大し、同時に化学工業品事業も緩やかな回復基調となり、中期経営計画期間中では最高の上期業績(売上高)を達成した。
2. 2025年3月期の業績見通し
2025年3月期の業績は、売上高が43,700百万円(前期比7,592百万円増)、営業利益が6,000百万円(同3,182百万円増)、経常利益が6,200百万円(同2,924百万円増)、親会社株主に帰属する当期純利益が4,100百万円(同1,983百万円増)と大幅な増収増益を見込んでいる。特に、中核事業である研磨材事業は売上高18,400百万円(前期比37.1%増)、営業利益4,200百万円(同286.4%増、営業利益率22.8%)と好業績を予想している。これは、世界的な生成AIブームを背景に、ロジック系半導体の需要が急激に高まっているためである。同社の研磨材(ソフトパッド)は、ロジック半導体製造プロセスにおいて高いシェアを占めており、生成AIやIoT分野で使用されるロジック半導体の高成長が、同社の受注拡大をけん引している。
なお、2025年3月期の業績予想は、期初計画から2度の上方修正を繰り返して作られた修正計画であるが、下期の半導体需要の上振れ次第では、この修正計画をさらに上回ることも考えられる。
3. 研磨材事業の成長戦略
研磨材では、主力市場であるCMP用途市場がロジック半導体の高成長とシンクロして伸びている。生産面では、2020年に大分工場を竣工、その後も継続的な設備増強を実施してきた。生産能力には余裕があり、研磨材の受注が急増しても当面は十分に対応できるようだ。
新分野として、SiCウエハー用途市場は自動車のEV化が進展するなか、将来的には再生可能エネルギー(太陽光風力発電など)も含め大規模市場(CMP用途に次ぐ“第2の柱”)になると期待されている。
また、「半導体の微細化、積層化」でさらに高まる品質要望に対しても、製造・販売・技術開発が一体となってきめ細やかな対応を進めている。そして、半導体以外の分野における研磨材の新たな可能性についても模索しており、最終的には総合研磨材メーカーとして、グローバルニッチナンバーワンを目指している。
4. 成長投資の実施
同社は中期経営計画「増強21-25」において、計画期間5年間の後半2年間を「成長投資の拡大」ステージと位置付け、最先端半導体における顧客ニーズ(微細化、積層化など)への対応、並びに新たな事業の芽を育てるため、研究開発投資(2025年3月期1,697百万円予定)を推進している。また、主力事業(研磨材、化学工業品)のさらなる拡大のための設備投資(2025年3月期6,220百万円予定)を実行している。なお、M&Aについては適切な案件がないため、成長投資250億円?300億円は研磨材や化学工業品領域で成長が見込めるオーガニックグロース領域に振り向ける予定である。
■Key Points
・研磨材・化学工業品の受注回復・拡大で、2025年3月期は大幅な増収増益を予想
・半導体需要拡大に向け、研磨材は研究開発並びに設備投資はアクセルを緩めず最優先で取り組む
・中期経営計画の後半2年間を「成長投資の拡大」と位置付け、積極的な成長投資・研究開発投資を実行
・同社初の「統合報告書」を発行(2024年9月30日)、同社の強みや成長戦略、サステナビリティ経営の取り組み等を紹介
■会社概要
研磨材事業と化学工業品事業を主力とし、4本柱で事業展開
1. 会社沿革
(1) 創業から成長期:繊維・紡績業の発展と多角化時代
1896年に富士紡績株式会社として設立された老舗企業である。富士山の豊富な水を動力源に紡績業をスタートし、静岡県小山町で紡績工場が操業を開始した。戦前・戦後と次々と紡績工場を操業させ、繊維・紡績事業を拡大していった。1939年には、現在の化学工業品事業の拠点である柳井化学工業(株)が設立され、化学分野へ進出した。また、1976年には、米国B.V.D.とライセンス契約を締結し生活衣料事業の礎が形成され、現在のプレゼンスあるビジネスに発展した。
(2) 苦境期:10期連続無配
繊維・紡績産業は1970年代から1990年代に起きたオイルショック、バブル経済の崩壊、日米貿易摩擦などで国際競争力を大きく失い、国内生産は空洞化し、国内の繊維・紡績産業は斜陽の一途を辿った。同社の繊維・紡績事業も国内工場を次々と閉鎖し、中国やタイへシフトしていった。不採算品や高コスト体質で経営は苦しく、1997年度から10期連続無配状態が続き、経営危機に直面することとなった(2007年度に復配(2円配当)となる)。
(3) 転換期:事業構造改革
経営危機が続くなか、2006年に中野光雄氏が社長に就任すると、事業構造改革を断行した。繊維事業の構造改革と非繊維分野での成長事業(研磨材、化学工業品)の育成を同時に行い、短期間での事業の入れ替えに成功すると、結果的に持続成長・高収益体質の事業ポートフォリオを再構築した。中野氏は現・中期経営計画「増強21-25」の原点とも言える中期経営計画「変身06-10」を打ち出し、長期戦略に基づき「突破11-13」「邁進14-16」「加速17-20」「増強21-25」と矢継ぎ早に実行してきた。
2022年6月29日付で経営トップ(社長)が交代となった。中野氏から井上雅偉氏へバトンタッチし、経営体制の若返りを図った。井上社長は、構造改革に加えて現・中期経営計画「増強21-25」の策定と推進、設備投資の意思決定などを中野前社長と二人三脚で進めてきたので、経営の舵取りもスムーズに引き継がれている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
《HN》
提供:フィスコ