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【特集】金相場の最高値更新はドル離れを象徴、ドル需要の減退は原油価格を押し上げるか? <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 来年のトランプ米新政権の始動は、原油を中心とするエネルギー市場に多くの手がかりを提供するだろう。そのなかでブラジル、ロシア、インド、中国などのBRICS諸国を中心としたドル離れもエネルギー市場における話題の一つである。ドル離れはドル相場の不安定化やドル安につながり、ドル建てで取引されるコモディティ価格を押し上げる可能性がある。世界の原油取引の指標であるブレント原油ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)はドル建てで売買されている。

●トランプ次期大統領の持つ“ドル離れ”への危機感

 今年3月の米CNBCのインタビューでトランプ氏は、「私が必要としている通貨は1つで、それはドルだ。私は人々がドルを手放すことを望んでいない。それが私の気持ちだ。私は伝統主義者で、ドルにこだわりたい。私の大統領時代からそうだった。ドルを通貨として選択させる。私は、各国がドルを放棄するのを嫌う。もしこのスタンダードを失えば、革命戦争に敗れるようなものだ。戦争に負けたのと同じような打撃を米国に与えることになる。それを許すわけにはいかない。今、あまりにも多くの国がドルから離れようとしている」と述べ、脱ドル化には断固として反対であるとの認識を示している。ドル離れによってなにが引き起こされるのか。ドルの支配的な地位によって成立してきた米国債市場が危機にさらされていることは、トランプ次期大統領の発言に如実に現れていると思われる。

 バイデン政権のもと、膨張する米連邦政府の公的債務残高は35兆ドルの大台を突破し、過去最高水準の更新が続いた。巨額の貿易赤字を背景とするドルの供給や、ドルが米国債市場に還流するシステムに依存して成長してきた米経済の終わりを警戒するなら、BRICS諸国のようにドルや米国債の保有を見直すのが当然である。そうならないためにドルをより魅力的な通貨にするには、政策金利を高水準に維持するというのが選択肢の一つである。世界中の高金利通貨の推移が安定しているかといえば現実は異なるが、まだ覇権国である米国が高水準の政策金利を維持しようとするなら、安定感が得られる可能性がある。ただ、米経済は堅調であり、トランプ米大統領がドル離れをけん制し、あえてドル高政策を追求する必要はないかもしれない。来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げが想定されているが、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和を急ぐ理由はあまり見当たらない。

●史上最大の大相場の到来? 金と米国債を注視

 世界最大の経済大国が政策金利をあえて維持してまでドル高政策を推進しなければならない理由は見当たらず、非現実的でおとぎ話のような掴みどころのなさを感じるかもしれないが、次期米大統領の危機感を表す最もわかりやすい現象は金(ゴールド)に対する選好である。現物資産の代表格である金相場はドル建てだけでなく、ユーロ、ポンド、円、豪ドル、カナダドル建てで過去最高値を更新し続けている。端的に言えば、紙幣の増発もあるが、世界的に通貨に対する信頼が失われており、金の価格は相対的に上昇を続けている。米国の場合、ドルが世界的に潤沢に流通するなかで、余剰なドルが米国に還流し、米国債市場を支えて債務の拡大を屋台骨とした経済成長が可能となっているため、ドルが金相場に流入し続け、米国債を支える力が弱まっていることはリスクでしかない。

 上昇を続ける金相場は、相対的にドル安が進行している証である。来年も金相場は上値を目指しそうであり、ドル離れが深刻化している象徴となるだろう。なお、今年の中央銀行のゴールド買いの上位5ヵ国は、インド、トルコ、ポーランド、中国、アゼルバイジャンとなっている。金相場を押し上げているのはBRICS諸国と言っても過言ではなく、トランプ次期大統領がBRICSを100%関税で脅すのも無理はない。

 外国為替市場を眺める限り、ドルの値動きは安定している。従来通りであり、ドル離れがドル相場を圧迫している様子は見られない。ただ、ドルを忌避している国が自分の首を締めるように銀行にドル売り注文を出すことはなくモノやサービスと交換しているなら、あるいはドルを貸付に回しているなら、現時点でドル離れはドル相場の値動きから判断しにくい。ドル離れは金相場の上昇のほか、米国債市場の推移に現れやすいだろう。ドル需要が弱含んでいるならば米国債市場の軟化、つまり米利回り上昇がドル離れを表す指標として利用可能だと思われる。米国債利回りの上昇とともに、ドルが売られるような予兆が来年にも現れるとしたら、史上最大の大相場の到来を意識すべきである。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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