【市況】カナダとメキシコは通貨安に拍車も【フィスコ・コラム】
カナダドルとメキシコペソがドルに対し年初来安値圏に落ち込んでいます。背景にあるのは両国の緩和的な金融政策と米次期政権の関税問題で、対米関係が悪化すれば一段安の可能性があります。カナダ、メキシコ両国の政治情勢を懸念した売りにも警戒が必要です。
11月最終週のカナダドルは1.4170カナダドル台に、メキシコペソは20.82ペソにそれぞれ下落し、いずれも年初来安値を更新しました。トランプ米次期大統領が中国からの輸入品に10%、カナダやメキシコには25%の追加関税を課す方針を表明したためです。トランプ氏が自ら創設したアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が防波堤になるとの期待はもろくも崩れ去りました。
もう1つは両国中銀の緩和的な政策スタンスです。カナダ銀行(中銀)は6月から利下げサイクルに入り、10月23日には下げ幅を0.50%に拡大。さらに追加利下げの方針のためカナダドル売りが強まりました。メキシコ中銀は11月14日に3会合連続の利下げを決定。もっとも、両国ともインフレ指標は再加速が示され、今後の追加的な政策金利の引き下げを見込んだ通貨売りは抑制されていました。
米次期政権による隣国への関税強化は、成長の減速による政治情勢への影響も想定されます。メキシコ紙が実施した世論調査によると、10月に同国初の女性リーダーに就任したばかりのシャインバウム大統領は支持率70%台と、上々のスタートを切りました。ただ、薬物流入の問題を背景とした米次期政権による関税率引き上げはメキシコ経済を圧迫しかねず、人気も急降下しかねません。
一方、カナダのトルドー首相は11月29日にトランプ氏と会談した際、関税強化について言及すると、トランプ氏は「嫌ならアメリカの51番目の州になれば」と笑えないジョークで切り返したと言います。来年10月までに行われるカナダの総選挙ではすでに野党・保守党への政権交代は織り込み済みですが、次の首相が「アメリカ・ファースト」に押し切られるようだと、やはり政権運営は困難でしょう。
関税問題についてはアメリカから見た経常赤字国の上位であるドイツや日本、韓国などもアメリカの対応に身構えることになるでしょう。2025年は貿易面で主要各国の対米従属が避けられそうにないことが、ドル選好地合いを強める要因となりそうです。カナダドルとメキシコペソの軟調地合いは、その先行事例として注目されます。
(吉池 威)
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