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【特集】原油相場を圧迫するガザ停戦期待は幻影か?<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 ブリンケン米国務長官によると、イスラエルとイスラム組織ハマスのガザ停戦・人質解放協議は終盤に入っている。同国務長官は現在の交渉が「おそらく最良かつ最後のチャンスとなるかもしれない」、「停戦プロセスから逸脱するような行動を誰にも取らせないようにする時でもある」と述べた。イスラエルは米国などの停戦案を受け入れるもよう。

 一方、イスラム組織ハマスは、イスラエルのガザ地区からの完全撤退や、恒久的な停戦を当初から要求しているが、米国など仲介国が提案した停戦案にはこれが含まれておらず拒否した。今回の停戦案について詳細は不明だが、イスラエルはパレスチナ人の監視を続けようとしているようだ。ガザ地区の要所である、ネツァリム回廊、ラファ検問所、フィラデルフィア回廊の扱いも引き続き争点となっている。ハマスは18日に公表した声明文でネタニヤフ首相が「戦争を長引かせる目的で条件と要求を出している」と非難しており、少なくとも協議が合意に近づいているようには見えない。

●停戦案の合意がなければ原油相場が暴騰するリスク

 国際的な原油取引の指標となるブレント原油ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)はガザ停戦観測を背景に上値が重い。今月、WTI先物は2月以来の安値を更新した後に一時的に戻したが、再び売りに押されている。ただ、ガザ停戦期待はバイデン政権の認識をほぼそのまま報道する一部の主流メディアが作り出した幻影である。ハマスが停戦案に合意しなければ、イランやイスラム組織ヒズボラがイスラエルに報復攻撃を実施し、イスラエルが応戦する見通しだ。そうなれば中東情勢が更に緊迫化し、原油相場が暴騰するリスクがある。これを回避するために米国はハマスに停戦案を飲ませるしかない。

 米軍は艦隊の大部分を地中海や中東の海域に集中させている。米政府としては軍事力頼みの外交や、メディアが作り上げた雰囲気で難局を切り抜けようとしている印象が強い。米大統領選を控えて、民主党としては余計な混乱を避けたいのだろう。冒頭で取り上げたブリンケン米国務長官の発言はただただ高圧的で、暴力的である。停戦願望が圧力に変化したかのようだ。イスラエルがシリアのイラン大使館を空爆した後のイランの報復攻撃は抑制が効いていたが、次はより強烈である可能性が高く、米国が軍事大国イランとの対峙を回避するためにはガザ停戦しかない。

●停戦協議は時間稼ぎと判断されればイランや武装組織に動きも

ただ、米国はイスラエルの主張を擁護するばかりである。ハマスの要求は棚晒しにされているだけにしか見えない。イスラエルが自衛と称するガザでの戦闘を開始してから300日超が経過し、正確な死者数など調べようもないほどの惨状が広がっているが、この事態を受け入れたうえでハマスにイスラエル寄りの停戦合意を許容するよう迫る米国は誰がどう見てもまともではない。米国はエジプトやカタールとともに停戦を仲介しているものの、米国が停戦を本当に目指しているのか非常に疑問である。停戦協議がガザを完全に滅ぼすための時間稼ぎであるとハマスが判断するならば、イランや武装組織に動きがあるだろう。ジェノサイド(集団殺害)の存在すら認めていない米国が停戦仲介者としてイスラエルの時間稼ぎに加担しているなら、中東の怒りを鎮める手段はなさそうだ。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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