【特集】クオールHD Research Memo(8):2025年3月期は過去最高業績を大幅に更新する見通し
クオールHD <日足> 「株探」多機能チャートより
■クオールホールディングス<3034>の業績動向
4. 2025年3月期の業績見通し
2025年3月期の連結業績は売上高で前期比50.0%増の270,000百万円、営業利益で同80.2%増の15,000百万円、経常利益で同64.2%増の15,200百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同16.8%増の5,700百万円と過去最高業績を大幅に更新する見通しだ。既存事業の拡大に加えて、2024年4月に子会社化した第一三共エスファの業績が上乗せされることが要因だ。第一三共エスファの業績は売上高で825億円、営業利益で70億円、当期純利益で4,800百万円を見込んでいる。のれん償却額(数億円程度)が営業利益から減算されるほか、少数株主持分利益2,350百万円(少数株主持分比率49%)が親会社株主に帰属する当期純利益から減算されることになるが、これら減算要因を考慮しても、連結業績計画は保守的な印象を受ける。子会社化して初めての年度となるため、様々なリスクを考慮して保守的に策定したものと考えられる。
なお、2025年3月期第1四半期より、事業活動の実態をより適切に表すため、報告セグメントをこれまでの保険薬局事業、医療関連事業の2区分から、薬局事業、BPO事業、製薬事業の3区分へ変更する。従来のセグメント区分では医療関連事業に含まれていた医薬品製造販売事業(藤永製薬)は、新セグメント区分では、2025年3月期第1四半期より連結子会社となった第一三共エスファとともに、製薬事業となる。
(1) 薬局事業(旧 保険薬局事業)
薬局事業の業績は売上高で前期比5%程度の増収、営業利益で同10%程度の増益を見込んでいるものと思われる。業績前提となる新規出店は、自力出店で16店舗(年商30億円)、M&Aで30?40店舗(年商65億円)を見込んでいる。2024年5月までの実績として自力出店で9店舗、M&Aで18店舗(山梨県に初進出)を取得したほか、同年7月に首都圏で8店舗の取得が決まっており、計画に対して順調に進んでいる。
売上高の前提となる処方箋応需枚数は既存店の増加や新規出店・M&Aの効果もあって前期比数%の増加を見込んでおり、処方箋単価についても若干の上昇を想定している。2024年4月の薬価改定により薬剤料単価は若干低下するものと見られるが、同年6月から施行される調剤報酬改定における点数加算につながる取り組みによって調剤技術料単価を引き上げていく。利益に直結する技術料単価の上昇によって利益率も上昇するものと予想される。薬剤師の賃上げを4?5%実施したが、今回の調剤報酬改定により調剤基本料が前年度比3点引き上げられており、この点数増分で吸収できる見込みだ。
今回の調剤報酬改定では、医療従事者の賃上げに対応する形で調剤基本料が引き上げられたほか、医療DX推進体制整備加算(マイナンバーカード利用実績や電子処方箋応需体制の整備等)4点が新設された。また、新興感染症対策や災害発生時の医薬品供給等、医療機関との連携体制整備に係る連携強化加算についても、従来の2点から5点に引き上げられた。逆に地域支援体制加算は7点引き下げられており、在宅調剤等、地域のかかりつけ薬局としての機能をさらに強化することが求められ、要件項目についても新規項目が追加されるなど、細分化されている。地域支援体制加算の引き下げの影響については、同社においては2024年3月期の0点店舗の比率が45.7%と高かったことからダメージは少なく、今後0点店舗を減らしていくことやその他の加算点アップによるプラス効果のほうが上回ると同社では見ている。なお、地域支援体制加算の0点店舗の比率については、人員の配置を見直すことで2025年3月までに25%に引き下げることを目標としている。
医療DXへの取り組みについては、電子処方箋に対応している店舗数が2024年4月末時点で310店舗となっており、2025年3月までに全店導入を予定している。また、健康保険証の代替としてのマイナンバーカード利用率についても全国でトップクラスとなっている。そのほか、AI-OCRの導入で処方箋入力作業の自動化による薬剤師の生産性向上に取り組んでいるほか、自動精算機の導入で会計の待ち時間短縮を図るなど、顧客サービスの向上にも取り組んでいる。さらに、LINE公式アカウントによる事前処方箋送信&オンライン服薬指導サービス等も行っており、2024年4月末時点で会員登録数は28万人を超えている。同サービスのリピート率は高く、顧客の囲い込みにつながる取り組みとして今後も注力していく。
2024年4月の調剤報酬額の前年同月比伸び率は6.0%増、処方箋応需枚数が同6.8%増と順調な滑り出しとなっており、処方箋単価もほぼ下げ止まったと見られ、4月の薬価改定の影響もほとんどなかったと見られる。今後は6月に施行される調剤報酬改定の影響が処方箋単価にどのように影響してくるかが注目ポイントとなる。
(2) BPO事業(旧 医療関連事業)
BPO事業については、2025年3月期より医薬品製造販売事業を除いた形で開示する。CSO事業については需要の強いオンコロジー分野を中心にCMRの採用・育成を強化していくことで増収増益を目指す。CMR数については2025年3月期末で750名と1.2倍に増強することを目標としている。一方、医療系人材紹介派遣事業についてはドラッグストア向けを中心に足元も引き合いが旺盛なようで、2025年3月期も2ケタ増収増益が続く見通しだ。
(3) 製薬事業(旧 医薬品製造販売事業)
製薬事業のうち、藤永製薬については2025年3月期も売上高は前期比横ばいの見通しだが、利益面では円安が継続するなかで輸入原材料のコスト高により減益が続くと見ている。ただ、売上規模が10数億円と大きくないので全体の業績に与える影響は軽微と見られる。
一方、第一三共エスファの業績見通しについては、売上高は前期比14%増の825億円、営業利益は同9%増の70億円を見込んでいる。なお、2024年3月期の業績については売上高が同8%減の723億円、営業利益が同50%減の64億円と大幅減益となっており、同社が想定していた水準を下回る結果となっている。売上高については予定していた新製品2品目の上市が2025年3月期にずれ込んだことによるもので、利益面では原価率の上昇に加えて販管費も子会社化に向けた各種コスト(システム統合費用、事業所開設費用等)が想定よりも増加したことが主因となっている。
2025年3月期については薬価引き下げの影響があるものの、期ズレした2品目以外にも数品目の新製品の発売を予定していると見られ、2ケタ増収を見込んでいる。また、原価率の改善施策として製品ごとの価格政策の見直しや国内の生産委託先との交渉、卸政策や流通経費の見直しに取り組んでいるほか、販管費についてもすべての経費をゼロベースから見直すことで収益性の向上に取り組む。2025年3月期は薬価改定の影響もあって利益率が低下するが、これら取り組みの効果により2026年3月期以降は収益性も向上するものと予想される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
《HN》
提供:フィスコ