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【特集】米石油取引の要所の在庫を注視、「タンク・ボトム」は青天井の入り口<コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司

先週の米エネルギー情報局(EIA)週報で受け渡し地である米オクラホマ州クッシングの原油在庫は2195万8000バレルまで減少し、昨年7月以来の低水準となった。複数のパイプラインが入り乱れ、貯蔵タンクが集中しているクッシングで、最低限の操業に必要な在庫水準は一般に「タンク・ボトム」と言われ、その水準は2000万バレル付近とみられている。石油取引の要所であるクッシングでタンク・ボトム以上に原油在庫を取り崩すことは困難であり、直近では2014年に1800万バレル程度までクッシングの原油在庫が減少しているものの、それ以降は2000万バレルの節目を下回っていない。

●米製油所の稼働率低下で需給引き締まりは続く

昨年6月、クッシングの原油在庫が2126万1000バレルまで減少したが、当時のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は1バレル=70ドル付近で低迷しており、タンク・ボトムが意識されて相場が強含むような展開ではなかった。日量100万バレルの米戦略石油備蓄(SPR)の大規模放出が行われていたほか、中国では終わりの見えないゼロコロナ政策が継続しており、米金融引き締めによる需要下振れ懸念も相まって、当時の相場は重かった。

 昨年とは対照的に、今年の需給はタイトである。中国や主要国の景気不安はあるものの、石油需要が堅調に推移する一方、石油輸出国機構(OPEC)プラスは自主的な減産も含めて日量400万バレル超の生産調整を実施しているほか、ロシアは輸出を制限している。また、SPRの放出は終わり、現在は穏やかな積み増しが行われている。季節的に米国の製油所稼働率は低下しており、米国内の原油需要は緩む可能性が高いが、需給の引き締まりが続くと想定するのが妥当である。

●マイナス価格に続く歴史的瞬間が訪れるのか

2020年4月、コロナショックに見舞われた石油市場では需要が蒸発した。都市封鎖(ロックダウン)、外出禁止など闇雲な感染対策によって人々の動きが停止したことが背景である。ニューヨーク市場では売り手と買い手のバランスが崩壊し、売りが殺到するとWTI先物は史上初のマイナス40.32ドルを記録した。マイナス価格は、売り手が代金を支払わないと原油を引き取ってもらえないという異常事態である。当時は予約分の空きを除いてクッシングのタンクが満たされていたため、行き場のない原油は叩き売られるしかなかった。

現在はこの逆の現象が発生しようとしている。クッシングのタンクに原油が残されていないわけではないが、受け渡し可能な原油が払底に向かっており、現物が必要な買い手は売り手が現れるまで気配値を引き上げるしかない。一方、現物を確保できない売り手は、気配値がいくら魅力的な水準まで切り上がろうとも飛びつくわけにはいかない。

市場関係者の推定で、タンク・ボトムの水準は2000万バレル付近とみられているものの、実際のところは不明である。ただ、米週間石油在庫統計でクッシングの原油在庫の取り崩しが続くなら、相場の値動きがタンク・ボトムの水準を知らせることになるだろう。マイナス価格に続き、歴史に刻まれる瞬間が訪れるのだろうか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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