【特集】原油相場は神経質な値動きに、不穏な空気流れるウクライナ・ロシア情勢 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
●原油価格の上限設定も効果は不十分、米国は水面下で停戦を模索
スイス紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)によると、1月に米国はウクライナ領土の約20%を譲り渡すことをロシアに提案し、停戦を模索したようだ。ただ、ロシア、ウクライナともにこの案を拒否したと伝わっている。
米政府はウクライナ割譲報道について正しくないと否定しているものの、これが現状の一端を示しているならば、戦争の長期化でより追い込まれているのは西側ではないか。この一年間で様々な対ロシア制裁が実施され、最近では欧州連合(EU)がロシア産の原油や石油製品の輸入を停止し、EUと主要7ヵ国はロシア産の原油と石油製品に上限価格を設定したが、ロシアの戦費が十分に削がれているようには見えない。ロシアには3月の減産を実施する余裕もある。
昨年末からウラル産原油の価格が急低下したことからすれば、石油制裁が効いているかもしれないが、ウラル産原油の取引市場はインドや中国が中心となっており、欧州で設定されているウラル産原油の価格は実際の取引価格と乖離している可能性がある。
ドイツの主力戦車レオパルト2がまもなくウクライナに配備されると、戦闘はより激しさを増すだろう。米主力戦車M1エイブラムスの供与もあって、ウクライナ紛争の行方がもしかしたら変わるとの見方もあるが、領土の奪い合いはこの紛争の焦点ではない。消耗戦を耐えきった側に軍配がおそらく上がる。
北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大がロシアをウクライナ侵攻に追いやったように、ロシアの次に西側が選択を迫るのはおそらく中国であることから、標的にならないよう中国はロシア支援をやめないだろう。イラン核開発合意の再建協議がほぼ放棄されたなかで、イランもロシアを支え続けるに違いない。世界的にロシアは孤立していない。イランだけでなく、中東はほぼロシア寄りである。ロシアが単独でNATOに対峙しているわけではなく、双方が望むならば西側と非西側の消耗戦はさらに長期化しうる。中国にとってはロシアを盾に欧米主導の世界秩序を弱体化させるチャンスでもある。
●流れる不穏な空気、値動きも神経質に
ウクライナ紛争の象徴となりうるレオパルトやエイブラムスが配備されて戦況が変わらなかった場合、世界は何を思うだろうか。武力衝突のさらなる激化を想像するのだろうか。女性や未成年を前線に送り出しているウクライナ軍に対して、遠く離れた安全地帯から米国は軍事物資の供給を続けるのだろうか。ロシアにとっても総力戦は避けなければならず、双方が落とし所を探る局面が近づいていると思われる。ウクライナ領土の割譲案が報道として出てきたことからすれば、水面下で和平協議開始に向けた動きがあるのではないか。
来週24日でウクライナ紛争開始から1年が経過するなか、20~22日にかけてバイデン米大統領がポーランドを訪問する。21日にはプーチン大統領がロシア連邦議会で演説する予定であり、ウクライナ紛争の今後を見通す手がかりがあるかもしれない。ただ、各国がロシアやベラルーシからの退避を勧告しており、不穏な空気が流れている。原油相場も神経質な値動きとなりそうだ。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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