【特集】有沢正一(岩井コスモ証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―
世界的な物価高や金利の先高観などを背景に、世界の資本・金融市場の動きが不安定さを増している。9月の米雇用統計は労働需給がなお緩んでいないことを示し、米連邦準備理事会(FRB)が積極的な金融引き締めを続けるとの見方が強まっている。ロシアのウクライナ侵攻の終息はなお見通せず、米国の中間選挙など重要イベントも控えて予断を許さない状況は続く。
厳しい政治経済の環境の中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第7回は岩井コスモ証券の有沢正一・投資調査部・部長に話を聞いた。
●有沢正一(ありさわしょういち)
1989年岩井証券入社、2003年よりイワイ・リサーチセンター長、2012年5月より岩井コスモ証券、2017年1月より現職。日本証券アナリスト検定会員。株式投資の対象となる企業調査の傍ら、マーケット視線で経済や社会の動きを分析、解説。YouTubeやウェビナーなどでも個人投資家向けの市場解説を行う。
ストックボイスTV「北浜のいぶし銀」、サンテレビ「キャッチ+」出演。
――日米の株式相場が不安定な動きを続けています。半年後の日米株価の予測を教えてください。
有沢:日経平均株価は3万1000円程度、ダウ工業株30種平均は3万2000ドル程度と予測しています。
――足元では米国の大幅な利上げ観測が続いており、株価が低迷しています。足元の水準と比べて大幅な上昇を予測する理由を教えてください。
有沢:確かに足もとの株式相場は不安定な動きになっていますが、来年初めころから、米利上げの到達点(ターミナルレート)がぼんやり見えてくるでしょう。米国では昨年10月ころからインフレ率がかなり高くなっていますから、前年の高水準の実績との比較による「ベース効果」で、前年比の物価上昇率がだんだん下がってくると考えています。利上げによって、米連邦住宅金融庁(FHFA)が27日発表した7月の全米住宅価格指数は前月比で0.6%低下するなど、住宅関連指標はすでに低迷し始めています。11月の中間選挙が終われば、米政権もインフレ抑制へのアピールを過度にする必要もなくなります。
米利上げへの過度の警戒感の後退は、株式市場にとって大きな買い材料になります。日本経済は欧米諸国と違い、まだ新型コロナウイルスの感染拡大の悪影響から本格回復していませんから、今後は個人消費の回復も期待できます。コロナ禍で打撃を受けた航空、陸運、小売り、サービスなどの業績が大幅に回復する可能性が高いといえるでしょう。日経平均株価の予想PER(株価収益率)は10月11日時点で12倍台にすぎず、割安な水準です。米利上げをはじめとした海外の不透明要因が取り除かれれば、PERで14倍程度まで買われると考えられます。
米国株も日本株と同じような状況ですが、企業業績がFRBによる急速な利上げの悪影響を受けるリスクがあります。米国はすでにコロナ禍からの経済の本格回復期を迎えており、これからより強くなるとは考えづらい状況です。このため、日本ほどの株価回復は見込みづらいと予測しています。
――米国の大幅な利上げを受けて、市場関係者の間では、来年からの景気後退を予測する声も増えてきましたが、景気そのものについてはいかがでしょうか。
有沢:米国は2008年のリーマン・ショックのころとは違い、家計のバランスシートが格段に健全になっています。かつては借金して消費や住宅投資をしていた時期もありましたが、現在はそうではありません。ここ数年の株高を背景とした資産効果も大きく、個人消費が底割れするような状況ではありません。労働市場も需給がひっ迫しており、職を失うような雇用環境でもありませんから、景気が大幅に後退するということは考えづらいと思います。
――注目している日米の個別銘柄やセクターを教えてください。
有沢:日本株では、航空、旅行代理店、ホテル、デパートをはじめとする小売店などインバウンド(訪日外国人)関連です。個別株では、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス (PPIH)<7532> [東証P]に注目しています。また、旅客荷物の預かり業務などを請け負っている鴻池運輸 <9025> [東証P]も株価上昇を見込める銘柄だと考えています。コロナ禍で業務が激減していた反動で大幅な増収増益が見込める上、構造改革も進めており、業務効率化が進んでいるからです。
米国株ではグーグル親会社のアルファベット<GOOG>、アップル<AAPL>、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)<META>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト<MSFT>のIT大手5社(GAFAM)に注目しています。足もとでは金利の先高観が強く、相対的に株式の魅力が低下しますから、PER(株価収益率)の高いGAFAMには不利な状況でした。こうした経済環境は金利の先高観が後退すれば大きく変化します。豊富な資金力に加えて、優秀な人材が集まるGAFAMには買いが入りやすくなるでしょう。
図2 インバウンド消費の回復余地は大きい
――このところ低迷している日本株の下値のメドを教えてください。また、日本株が当面の底値をつけるのはいつごろになるでしょうか。
有沢:日経平均株価は12月初めころに2万5500円程度の底値をつけると見ています。利上げの最終地点が見えず、最も不透明感が強まるためです。
――岸田政権の政策がらみで、有沢さんが注目しているセクターはどこでしょうか。
有沢:岸田文雄首相は原発再稼働に含みをもたせており、政府は次世代原発の開発・建設を検討しています。このため、三菱重工業 <7011> [東証P]や日立製作所 <6501> [東証P]、日本製鋼所 <5631> [東証P]といった関連銘柄に買いが入る可能性があります。また、自民党は防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比で2%以上の水準に増やす目標を掲げています。これを受けて、NEC <6701> [東証P]や富士通 <6702> [東証P]など防衛庁の納入実績が上位で、防衛システム受注が考えられる銘柄にも注目が集まるでしょう。
――米中間選挙通過後の想定される米国株のシナリオは?
有沢:中間選挙の結果が企業業績や米国経済に与える影響は大きくないとみています。現在の米国経済は民主党が主導しているという状況ではありません。中間選挙の結果がどうあれ、イベント通過の安心感が出ることと、選挙対策のために過度の利上げでインフレを抑え込む必要がなくなるでしょう。このため、中間選挙後の株式市場では買いが入りやすくなると見られます。
――政府・日銀は約24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に踏み切りましたが、円相場はなお弱い状況です。半年後の動向をどうみますか。
有沢:1ドル=140円近辺で落ち着いた動きが期待できそうです。半年先には米国利上げの終着点が見えてくることや、次期日銀総裁のもとで緩和政策変更への思惑も高まることで、為替は徐々に円高方向に向かうと考えています。安心して円を売り込んでいた投機筋の動きは鈍るでしょう。さらにサプライチェーン(供給網)の健全化による生産回復で日本企業の輸出が増えることや、インバウンド需要の拡大も期待できます。厚みを増す実需の円買いが円の下値を支えるでしょう。
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
株探ニュース
厳しい政治経済の環境の中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第7回は岩井コスモ証券の有沢正一・投資調査部・部長に話を聞いた。
●有沢正一(ありさわしょういち)
1989年岩井証券入社、2003年よりイワイ・リサーチセンター長、2012年5月より岩井コスモ証券、2017年1月より現職。日本証券アナリスト検定会員。株式投資の対象となる企業調査の傍ら、マーケット視線で経済や社会の動きを分析、解説。YouTubeやウェビナーなどでも個人投資家向けの市場解説を行う。
ストックボイスTV「北浜のいぶし銀」、サンテレビ「キャッチ+」出演。
有沢正一氏の予測 4つのポイント | |
(1) | 半年後の日経平均株価は3万1000円程度 |
(2) | 半年後のダウ工業株30種平均は3万2000ドル程度 |
(3) | 日本株では鴻池運輸などインバウンド関連、三菱重工など原子力発電所関連などに注目 |
(4) | 米国株では米利上げの到達点が見えてくることからIT大手のGAFAMに注目 |
――日米の株式相場が不安定な動きを続けています。半年後の日米株価の予測を教えてください。
有沢:日経平均株価は3万1000円程度、ダウ工業株30種平均は3万2000ドル程度と予測しています。
――足元では米国の大幅な利上げ観測が続いており、株価が低迷しています。足元の水準と比べて大幅な上昇を予測する理由を教えてください。
有沢:確かに足もとの株式相場は不安定な動きになっていますが、来年初めころから、米利上げの到達点(ターミナルレート)がぼんやり見えてくるでしょう。米国では昨年10月ころからインフレ率がかなり高くなっていますから、前年の高水準の実績との比較による「ベース効果」で、前年比の物価上昇率がだんだん下がってくると考えています。利上げによって、米連邦住宅金融庁(FHFA)が27日発表した7月の全米住宅価格指数は前月比で0.6%低下するなど、住宅関連指標はすでに低迷し始めています。11月の中間選挙が終われば、米政権もインフレ抑制へのアピールを過度にする必要もなくなります。
米利上げへの過度の警戒感の後退は、株式市場にとって大きな買い材料になります。日本経済は欧米諸国と違い、まだ新型コロナウイルスの感染拡大の悪影響から本格回復していませんから、今後は個人消費の回復も期待できます。コロナ禍で打撃を受けた航空、陸運、小売り、サービスなどの業績が大幅に回復する可能性が高いといえるでしょう。日経平均株価の予想PER(株価収益率)は10月11日時点で12倍台にすぎず、割安な水準です。米利上げをはじめとした海外の不透明要因が取り除かれれば、PERで14倍程度まで買われると考えられます。
米国株も日本株と同じような状況ですが、企業業績がFRBによる急速な利上げの悪影響を受けるリスクがあります。米国はすでにコロナ禍からの経済の本格回復期を迎えており、これからより強くなるとは考えづらい状況です。このため、日本ほどの株価回復は見込みづらいと予測しています。
――米国の大幅な利上げを受けて、市場関係者の間では、来年からの景気後退を予測する声も増えてきましたが、景気そのものについてはいかがでしょうか。
有沢:米国は2008年のリーマン・ショックのころとは違い、家計のバランスシートが格段に健全になっています。かつては借金して消費や住宅投資をしていた時期もありましたが、現在はそうではありません。ここ数年の株高を背景とした資産効果も大きく、個人消費が底割れするような状況ではありません。労働市場も需給がひっ迫しており、職を失うような雇用環境でもありませんから、景気が大幅に後退するということは考えづらいと思います。
――注目している日米の個別銘柄やセクターを教えてください。
有沢:日本株では、航空、旅行代理店、ホテル、デパートをはじめとする小売店などインバウンド(訪日外国人)関連です。個別株では、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス (PPIH)<7532> [東証P]に注目しています。また、旅客荷物の預かり業務などを請け負っている鴻池運輸 <9025> [東証P]も株価上昇を見込める銘柄だと考えています。コロナ禍で業務が激減していた反動で大幅な増収増益が見込める上、構造改革も進めており、業務効率化が進んでいるからです。
米国株ではグーグル親会社のアルファベット<GOOG>、アップル<AAPL>、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)<META>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、マイクロソフト<MSFT>のIT大手5社(GAFAM)に注目しています。足もとでは金利の先高観が強く、相対的に株式の魅力が低下しますから、PER(株価収益率)の高いGAFAMには不利な状況でした。こうした経済環境は金利の先高観が後退すれば大きく変化します。豊富な資金力に加えて、優秀な人材が集まるGAFAMには買いが入りやすくなるでしょう。
図2 インバウンド消費の回復余地は大きい
――このところ低迷している日本株の下値のメドを教えてください。また、日本株が当面の底値をつけるのはいつごろになるでしょうか。
有沢:日経平均株価は12月初めころに2万5500円程度の底値をつけると見ています。利上げの最終地点が見えず、最も不透明感が強まるためです。
――岸田政権の政策がらみで、有沢さんが注目しているセクターはどこでしょうか。
有沢:岸田文雄首相は原発再稼働に含みをもたせており、政府は次世代原発の開発・建設を検討しています。このため、三菱重工業 <7011> [東証P]や日立製作所 <6501> [東証P]、日本製鋼所 <5631> [東証P]といった関連銘柄に買いが入る可能性があります。また、自民党は防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比で2%以上の水準に増やす目標を掲げています。これを受けて、NEC <6701> [東証P]や富士通 <6702> [東証P]など防衛庁の納入実績が上位で、防衛システム受注が考えられる銘柄にも注目が集まるでしょう。
――米中間選挙通過後の想定される米国株のシナリオは?
有沢:中間選挙の結果が企業業績や米国経済に与える影響は大きくないとみています。現在の米国経済は民主党が主導しているという状況ではありません。中間選挙の結果がどうあれ、イベント通過の安心感が出ることと、選挙対策のために過度の利上げでインフレを抑え込む必要がなくなるでしょう。このため、中間選挙後の株式市場では買いが入りやすくなると見られます。
――政府・日銀は約24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に踏み切りましたが、円相場はなお弱い状況です。半年後の動向をどうみますか。
有沢:1ドル=140円近辺で落ち着いた動きが期待できそうです。半年先には米国利上げの終着点が見えてくることや、次期日銀総裁のもとで緩和政策変更への思惑も高まることで、為替は徐々に円高方向に向かうと考えています。安心して円を売り込んでいた投機筋の動きは鈍るでしょう。さらにサプライチェーン(供給網)の健全化による生産回復で日本企業の輸出が増えることや、インバウンド需要の拡大も期待できます。厚みを増す実需の円買いが円の下値を支えるでしょう。
◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証一部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。5月に著書「BtoB広報 最強の攻略術」(すばる舎)を出版。
株探ニュース