【特集】観光立国の要「鉄道株」、旅行支援と訪日客増勢で株価も快走 <株探トップ特集>
水際対策の大幅緩和で訪日外国人観光客が増勢となるなか、JRグループをはじめ鉄道株に強い動きが目立つ。同業界の現状と関連銘柄の動向を追った。
―経営構造改革進み業績も大底脱出を果たす、国策の追い風吹く鉄道に熱視線再び―
11日から国内観光需要の新たな喚起策として「全国旅行支援」が始まった。12月までをメドに、旅行代金の割引とクーポン券の配布で1人1泊当たり最大1万1000円を補助する。円安進行が追い風となるなか、外国人の個人旅行が再開されたこともあり、訪日外国人観光客による旺盛な消費が内需を押し上げることへの期待が膨らんでいる。
株式市場ではグローバル景気減速の顕在化で足もと全体相場が乱調となるなか、JR各社の株価は7月の安値から上昇しており、注目度が高まっている。鉄道各社は、拠点駅周辺の商業施設や不動産、 ホテルなどを多角経営していることが多く、観光資源の潜在力が高い。また、来年3月以降から運賃値上げの思惑が浮上していることに加え、経営構造改革に伴い収益体質も強化されている。ここで関連銘柄を改めて検証してみたい。
●構造改革進み業績は急回復
岸田文雄首相は訪日観光消費額について、年間5兆円超の達成を目指すとしているが、コロナ禍前2019年の訪日外国人年間旅行消費額は約4兆8000億円だった。つまり、この目標はビフォーコロナ時代の観光立国日本を取り戻すことへの強い意志を示している。海外では今夏にインフレにも負けず「リベンジ旅行」が盛り上がりを見せ、この流れは日本への旅行にも波及。航空各社は10月からの日本路線増便を相次ぎ発表し、旅行客の急増でチケット価格は上昇した。また国内では政府が12日、前日に始めたばかりの「全国旅行支援」の関連予算について、早くも「追加を検討する」ことを表明した。都道府県が各サイトや宿泊施設などに予算を配分し、一部でその額に達したため、と伝わっている。
JR東日本 <9020> [東証P]が7月に発表した23年3月期第1四半期(4-6月)営業損益は402億9700万円の黒字(前年同期552億5500万円の赤字)となり、第1四半期としては3期ぶりに全ての利益が黒字転換を果たした。同社では駅の不要設備の撤去や列車本数の削減などによる鉄道事業におけるオペレーションコスト削減を進めるほか、鉄道ネットワークを生かした「地域再発見プロジェクト」の強化などによる運輸以外の収益向上を目指す。JR西日本 <9021> [東証P]やJR東海 <9022> [東証P]も同期の営業黒字転換を実現した。
●相次ぐ運賃改定の動き
一方、各鉄道会社では運賃見直しの動きが広がっている。コロナ禍で利用者数の低迷が顕著な路線などは、テレワークなど新しい生活様式の定着によりコロナ禍前の定期券収入も見込みにくく、持続可能な収益基盤を確立するためには値上げが必須となっている。近鉄グループホールディングス <9041> [東証P]や東急 <9005> [東証P]、京浜急行電鉄 <9006> [東証P]なども、23年に鉄道運賃を引き上げるとしている。
鉄道事業者の運賃には規制が設けられており、「総括原価方式」をもとに国が上限を認可する仕組みとなっている。この「上限認可制」は航空や高速バスと比べ硬直化しているとして、時間帯により運賃に変動を持たせるオフピーク定期券の導入や、コロナ禍や自然災害時など急激な減収局面に際して簡便な手続きで臨時の運賃改定ができるよう求める声も上がっている。国交省では有識者会議を開き、運賃制度の自由度を高める必要性や交通機関の再構築に向けた新制度などの検討を始めており、今後の動向に注目が集まりそうだ。
●「観光資源」としての鉄道に再脚光
JR九州 <9142> [東証P]は、鉄道を観光資源と捉え、鉄道そのものの魅力を高めいち早く収益を回復している。同社がコロナ禍前から導入した「ななつ星in九州」などデザインを重視した「観光列車」では、動くホテルのような快適さやゆっくりと周回するツアーを提供することで新ジャンルの需要を掘り起こした。「ななつ星in九州」は15日からリニューアル車両が運行開始となったが、従来の料金から約50~60%値上げされたにもかかわらず、来年3月分まで既に完売したという。同社では4月から在来線特急列車の運賃値上げも実施しており、これも収益に寄与している。
京急は沿線に羽田空港を有するほか、品川から横浜、そして鎌倉エリア・三浦半島を結んでいることで豊富な観光資源を持つ。羽田空港第1・第2ターミナル駅で列車の入れ替えを行う引上線工事及び品川駅の拡張工事を実施しており、1時間当たり片道3本増便できる態勢となる見込み。流通事業も駅ナカを筆頭に回復色が顕著だ。
●「非鉄道」で稼ぐ富士急、阪急阪神にも存在感
テーマパーク「富士急ハイランド」を運営していることで知られる富士急行 <9010> [東証P]の回復も著しい。4月1日に「富士急行線」を「富士山麓電気鉄道」として昨年5月に設立した子会社に承継したほか、コンサートイベントなどによる特別仕様列車の運行や、修学旅行など学校関連輸送の貸切事業に取り組んでおり、23年3月期の営業利益は35億2000万円(前期比4.6倍)を見込む。
関西で圧倒的な事業地盤を有する阪急阪神ホールディングス <9042> [東証P]は、人気球団の阪神タイガースや宝塚歌劇など魅力的なエンターテインメントも提供している。同社は5月、26年3月期を最終年度とする中期計画を発表。デジタル技術の活用や魅力ある旅行商品を提供することで展開エリアの拡大を図り、営業利益1150億円(22年3月期実績392億1200万円)を目指す。
更に、持ち分法適用会社のオリエンタルランド <4661> [東証P]を有し、成田空港と上野を結ぶ路線を持つ京成電鉄 <9009> [東証P]や鉄道以外の事業が売り上げの多くを占める西武ホールディングス <9024> [東証P]などの活躍余地も広がっている。
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