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【特集】ロシア産原油の価格制限の目的は?冬場のエネルギー危機で欧州はさらに疲弊へ <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 ロシア産石油の海上輸出価格の制限に向けて、米財務省がガイダンスを公表した。これまでの制裁でロシア経済を弱体化させることには失敗しているが、西側各国はロシア制裁を継続する。ロシア産原油の価格制限は12月5日から、石油製品は来年2月5日から実施する予定である。

●ロシアは価格制限に反発、原油市場は混乱へ

 ガイダンスで示されているこの政策の目的は、「世界市場へのロシア海上石油の安定供給の維持」、「エネルギー価格の上昇圧力の抑制」、「エネルギー価格の高騰によってロシアが得る石油収入の限定」である。金融機関の発行する信用状(L/C)や、保険会社が提供するサービスを利用して、ロシア産の石油価格を一定以下に制限することを目指す。

 ただ、ロシア産石油の安定供給を維持するという目的が掲げられている時点で、内容的に意味がわからない。ロシアが価格制限に従うことが前提となっている。西側各国の望む価格で販売しろと強制しようとしても、ロシアが従うはずがない。プーチン大統領は価格制限に関与する国との供給契約を破棄すると述べており、年末の市場が混乱するのは避けられないのではないか。この価格制限の実効性は疑問であり、ロシアと経済戦争をとにかく続けたいだけのようにしか見えない。欧州など世界各地でエネルギー高を背景に大規模な反政府デモが頻発しているが、主要国はロシアではなく、むしろ世界の企業や消費者をより疲弊させている。

●インド・中国は価格制限に賛同しない

 ロシアが石油を供給しないという選択肢を持つ以上、消費国が価格制限に賛同する可能性は低い。特に大口の消費国であるインドや中国は消極的だろう。インドのエネルギー相は「インドはロシア産の石油を購入する、どこからでも買い付ける」、「消費者に対する道徳的な義務がある」と発言している。ウクライナ危機後、インドはロシアからの石油輸入を拡大しており、このつながりを断つことはなさそうだ。石油需要が伸び盛りのインドにとって、安定的な産油国は必要である。

 世界最大の原油輸入国である中国も価格制限に参加することはないだろう。中国もロシア産のエネルギーに依存しており、パイプラインの増設などさらに経済的な関係性を強化しようとしているところだ。中国がロシアと敵対するとは考えられない。ペロシ米下院議長の台湾訪問によって米中関係が悪化したことも中国が西側に与しないと思われる背景である。

●真冬のエネルギー危機、年末にかけて広がる不穏な空気

 主要7ヵ国(G7)が中心となってロシア産石油の価格制限についての協議が行われているが、当局者はこの措置の奏功をおそらく確信していない。ロシアに対する経済攻撃としてはあまりにも雑である。これまでの対ロシア制裁により、世界で最も被害を受けているのは欧州であり、価格制限によってロシアが中国、インドと距離を縮めるよう仕向けているようにさえ見える。

 日本と中国を除いてコロナ対策が終わり、経済活動の正常化とともにまともなクリスマスが帰ってくるかと思えば次は真冬のエネルギー危機である。日本に住んでいると危機を実感することはないだろうが、世界的には年末にかけて不穏な空気が広がっていくだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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