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【特集】想定外の原油減産をサウジが示唆、先物と現物市場の乖離に不満募らす <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 来週5日に石油輸出国機構(OPEC)プラスの閣僚会合が行われる。アルガイスOPEC事務局長に続き、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相が減産を示唆したことから、会合を控えて思惑含みである。

 前回8月3日の閣僚会合では日量10万バレルの生産目標の拡大が合意に至った。バイデン米大統領がサウジを訪問し、増産を要請したことからサウジが仕切るOPECプラスはこれに応えたが、増産合意から間を置かずに減産の可能性が浮上したことには素直に驚く。減産は産油国のコンセンサスとなっていくのだろうか。

●増産合意直後の“減産”、背景は

 サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、先物市場の流動性の低下とボラティリティーの上昇によって、先物市場と現物市場に乖離が生じている指摘した。クリーン・エネルギー社会の実現に向けた投資が拡大する一方、化石燃料市場への投資が後退し先物市場における出来高や取組高が減少していることが流動性低下の一因だと思われる。市場参加者の目減りで値動きの振れが大きくなっているなか、世界的な景気懸念の高まりが原油先物を圧迫し、軟調な先物市場とタイトな現物市場に差違が発生していることにサウジは不満のようだ。

 長期的に原油市場のボラティリティーは上向きだろう。西側とロシアの対立を背景にロシア産石油の価格制限が検討されていることや、脱炭素社会に向けた取り組みで化石燃料の需要が減少する見通しであること、脱石油で経済が不安定になる産油国が増える可能性が高いことが、先物市場をさらに不安定にするだろう。OPECプラスの目的である石油市場の安定は損なわれつつある。サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は有害なボラティリティーが市場の基本的な機能を妨げているとの認識も示した。

●原油安を阻止したいサウジ、疑心暗鬼の市場

 サウジが減産を示唆したタイミングからすると、ニューヨーク市場のウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は1バレル=85ドル付近、ブレント原油で同90ドル付近がサウジの許容する下限として連想されたのではないか。OPECプラスが目指す価格安定にとって、ある程度の高値を維持することが必要のようだ。

 サウジの指摘する有害なボラティリティーとは何か判断しづらいが、上流から下流に至る投資不足は石油市場に変動率の無用な高まりをもたらしている。原油安によって産油国の歳入が減少するならば、政治・経済が不安定化し生産が混乱するリスク、つまり相場急騰リスクを高める原因となることから、原油安を阻止する必要があるのではないか。高値圏での価格安定が必須となったということだろうか。

 ただ、現状の価格帯で本当に減産を検討するのか、疑心暗鬼な市場参加者は多いのではないか。9月までの生産目標を引き上げて、一定期間据え置くこともなく、減産を検討するというのは展開が早すぎて理解が追いつかない。そもそもOPECプラスは全体として生産目標を達成できておらず、サウジのいうところの“減産”が形骸化している生産目標の引き下げを指すのか不明である。OPECプラスが何を目指しているかよくわからないが、産油国会合を控えて、各国の発言に注目したい。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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