【特集】金は戻りを売られる、ジャクソンホールでの米金融当局者の発言が焦点に <コモディティ特集>
MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行
7月の米消費者物価指数(CPI)はインフレ鈍化が示され、利上げペース減速の見方が強まった。しかし、英CPIやユーロ圏CPI、独生産者物価指数(PPI)で高インフレが示されると、インフレ懸念が再燃し、米国債の利回りが上昇した。また、エバンス・シカゴ地区連銀総裁がインフレ率は高水準で引き続き利上げが必要であり、政策金利を年末までに3.25~3.50%、来年末までに3.75~4.00%に引き上げる可能性があると述べた。このように金融当局者のタカ派発言が続いたことでドル高に転じ、金の戻り売り圧力が強まった。
今週は25~27日にジャクソンホール会議があり、ここでの金融当局者の発言を確認したい。タカ派発言が続けば、9月の米FOMCで75bp利上げの見方が強まる可能性がある。
●ロシアの天然ガス供給減少で欧州経済の先行き懸念
7月の英CPIは前年同月比10.1%上昇と、前月の9.4%上昇から加速し1982年2月以来の高い伸びとなった。ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)改定値も同8.9%上昇。こちらも前月の8.6%から加速し過去最高を更新した。
また、独生産者物価指数(PPI)は前年同月比37.2%上昇し、1949年の統計開始以来最大の伸びとなった。ロシアのウクライナ侵攻を受けてエネルギー価格が急上昇したことが背景にある。エネルギー価格は同105%上昇した。天然ガスが163.8%、電気は125.4%上昇した。ドイツは10月1日からガス賦課金を導入するとしており、家計負担が増すことになる。
欧州連合(EU)がロシア産原油の輸入禁止措置を決定したことに加え、ロシアから欧州に天然ガスを送る主要パイプライン「ノルドストリーム1」のタービン返却を巡る対立で天然ガスの供給が減少している。ロシア国営ガスプロムはノルドストリーム1について、圧縮機の点検のため8月31日から9月2日までガス供給を停止するとしており、先行き懸念が強い。
欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事は、ユーロ圏のインフレ見通しは改善していないと述べ、来月の大幅な利上げを支持する考えを示唆した。ユーロドルはパリティ(等価)割れとなり、長期化するとの見方も出ており、ドル高が続くと、金は再び下値を試すことになりそうだ。
●SPDRゴールド残高は減少が続く
世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は、米FRBの利上げ見通しを受けて引き続き減少し、22日に987.56トン(7月末1005.87トン)となった。インフレ懸念の高まりは下支え要因だが、米国債の利回り上昇やドル高を受けて戻り場面で投資資金が流出した。
米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは8月16日時点で14万1164枚(前週14万2851枚)となり、2019年5月以来の低水準となった7月26日の9万2690枚から拡大。テクニカル面で改善したことを受けて買い戻しが進んだ。一方、買い玉の増加は小幅にとどまっており、テクニカル面で弱気に転じると利食い売りが出た。
(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース