【特集】最大の消費国から石油在庫が流出、相場の不安定さ高める米政策 <コモディティ特集>
minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
●過去最大規模のSPR減少は深刻な事態
米国の石油製品需要が低調である一方、米国内の石油在庫は減少傾向にある。戦略石油備蓄(SPR)を含む原油と石油製品の在庫合計は16億7850万9000バレルまで減少し、2008年10月以来の低水準となった。ロシアがウクライナに侵攻した後の脱ロシアの動きによって、ロシア産石油の購入を見合わせる国は米国に対する依存を強めており、官民を合わせた米国の石油在庫は急速に失われている。石油製品の輸出量は4週間移動平均で日量600万バレル超と過去最高水準で推移を続けている。原油の輸出量も上向きだ。
バイデン政権は過去最大規模のSPRの取り崩しを実施し、 原油価格の抑制に取り組んでいるものの、米国内のガソリン小売価格はそれほど下がっておらず、それどころか米国内から石油が消えるという事態を招いている。原油価格の下落を前提として、バイデン政権は夏場の需要が一巡する秋頃からSPRの積み増しを計画しているが、米政府による原油在庫の吸収が始まるならば、民間在庫は急速に減少するだろう。
脱ロシアは米国内の石油在庫を減少させている。価格高騰ではなく、本来の緊急事態に備えるためのSPRを食いつぶしていることから、状況はかなり深刻である。欧州のロシア依存の解消は始まったばかりであり、欧州各国が米国にこれからも依存を強めるとすると、米国の石油在庫はさらに減少する可能性が高い。少なくとも年内のSPR積み増しは難しいのではないか。
●在庫の十分な確保がなければ相場は不安定に
相場を安定させるには在庫の十分な確保が最重要である。ただ、世界最大の石油消費国は在庫を無造作に放出し、バイデン米大統領は下がらないガソリン価格に対して不満をあらわにしている。最近の口撃対象は米石油大手だ。これまで実施してきた燃料価格の抑制策は相場を着実に不安定にしており、言葉とは裏腹に原油高を望んでいるのではないかと勘ぐってしまう。地球温暖化回避を目標とする脱炭素社会の実現には石油離れが必要であり、石油離れには原油高が最も効果的である。欧米各国が方向転換しない限り、相場は高みを目指すか。排他的な環境対策の持続可能性は乏しい。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース