【特集】IPO市場にトレンド変化、2つの“メガ要因”が長期基調変える <株探トップ特集>
日本のIPO市場が大きな転換点を迎えている。この要因には、世界的なインフレ懸念で株高構図に変調を来したことに加え、日本の「IPO改革」が本格化したことがある。
―値決め見直しや上場日程柔軟化などの改革進行、金利上昇懸念も上値抑制―
世界的なインフレ懸念が台頭するなか、株式市場に大きな変動が出始めている。米国市場でNYダウやナスダック指数が下落を続け、東京市場も軟調展開が続く。とりわけ、影響が顕著なのがIPO市場だ。成長企業が多いIPO銘柄はグロース株の調整が進むとともに、新規上場銘柄数が減少しているほか、上場時の株価パフォーマンスも冴えない。更に、東京市場ではIPO市場の改革の動きも始まり、今後の価格形成への影響も注目されている。
●年初からの新規上場企業数は3割強減、公開価格割れも多発
個人投資家の関心が高いIPO市場に変調がみえる。6月の新規上場企業は12社と昨年の22社からほぼ半減。7月も4社と同じく昨年の9社から大幅減となった。7月までの累計の新規上場企業は41社と昨年比3割強減となり、昨年に記録した125社のIPO超えに、赤信号が灯った。とりわけ、気になるのは初値が公開価格を下回る銘柄も増えていることだ。6月は5社が公開価格を割り込んで誕生しており、4割の確率で公開価格割れが発生した。
●世界的なインフレ懸念がIPOの逆風に
もちろん、6月IPOにも初のVTuber関連銘柄として話題を集めたANYCOLOR <5032> [東証G]や、初値は公開価格を下回ったがセカンダリー(流通)市場に移ってからは見直し買いで株価が急伸したマイクロ波化学 <9227> [東証G]などのような例もある。
ただ、初値から大きく値を飛ばしたこれまでのIPOとは地合いが異なっている。この公開価格割れの要因には、新規上場の発表から上場日まで約1ヵ月の期間があり、その間に全体相場が下落基調となると、上場発表時の想定発行価格に割高感が生まれやすくなることが挙げられる。これまでのように全体相場が上昇基調にある時は、上場発表日に公表された想定発行価格には割安感が強まり、初値は急騰した。しかし、いまの弱含みの地合いではその上場企業に強い買い人気がないと、割高感から初値割れが発生しやすい状況が生まれている。「世界的なインフレ懸念の高まりによる株式相場の波乱は当分続く」(市場関係者)とみられるだけに、IPO市場の人気は全体相場の動向に一段と左右されることになりそうだ。IPO市場を巡る基調トレンドの第1の要因は、この「世界的なインフレ懸念の台頭による株高構図の変調」が挙げられる。
●スタートアップ育成にIPO改革が本格化へ
そして、IPO市場を巡る基調変化の第2の要因が「IPO改革」の動きだ。政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)には、「新しい資本主義」の目玉としてスタートアップ(新規創業)への投資が掲げられた。そのスタートアップ育成に向け、新規上場の際に十分な資金調達を行うことを可能にするための「IPOプロセス」の見直しを進めることがうたわれた。
実際、日本証券業協会は6月に1回目の規則改正を実施。「発行会社への公開価格等の納得感のある説明」などに関する改正が行われ、7月から施行された。また、この11月にも2回目の見直しが行われる見通しであり、「仮条件の範囲外での公開価格設定」や「上場日程の期間短縮・柔軟化」などの実施が見込まれている。
具体的な改正の内容としては、主幹事証券会社は想定発行価格、仮条件、または公開価格の提案に際して、その根拠を発行会社へ説明することが、まず規則化された。また、人気のあるIPO案件では公開価格が仮条件の上限で決まることが一般化しているが、今後はこれを仮条件の上限を超えた価格も設定できるようにすることが検討されているようだ。更に上場日程に関しては、上場承認日から実際の上場日まで現在、約1ヵ月かかる期間を21日前後に短縮することなども目指されている模様だ。
このIPO改革は、市場に大きな変化を及ぼしそうだ。日本のIPOは小粒な上場が多いが、これからは機関投資家などが参入しやすいように、より大型のIPOを多くすることが志向されるとみられる。特に、公開価格が適正価格よりも割安に設定されているという批判も強まっている。このため、これまでに比べ、スタートアップなどの上場企業に向けた透明感のある価格設定が求められるようになる。
●ファンダメンタルズ重視へ投資手法の見直しも
こうした環境下、IPO改革の流れなどを考慮すれば、大型案件などを中心に初値は大きく値が飛ばなくなることが常態化することも想定される。ただ、この流れは日本のIPO市場を改革していく第一歩だとも捉えられる。米国のIPO市場では公開価格や上場日の柔軟な設定が行われており、グーグルの親会社のアルファベット<GOOG>やメタ・プラットフォームズ<META>(旧フェイスブック)など、多くのスタートアップ企業が世界的企業へと飛躍した。日本のIPO投資もより上場企業のファンダメンタルズを評価する基本的な投資スタイルを重視し、セカンダリー市場での投資を見直すべき時期を迎えつつあるのかもしれない。
■7月IPOの予定
上場日 コード・上場市場 企業名 主幹事
7月8日 <9556>・東G INTLOOP 東海東京
7月28日 <5035>・東G HOUSEI みずほ
7月28日 <5034>・東G unerry SMBC日興
7月29日 <9557>・東G エアークローゼット みずほ
(注)東Gは東証グロース
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