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【市況】明日の株式相場に向けて=黒田日銀総裁がカギを握る相場に

日経平均 <日足> 「株探」多機能チャートより
 きょう(9日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比12円高の2万8246円と小幅続伸。前日の欧州株市場が軒並み軟調な展開だったほか、米国株市場でも主要株価3指数が揃って3日ぶりに反落。この状況でバトンを渡されては、東京市場もさすがにきょうのところは上昇一服となるのが自然な流れだったが、しぶとく買いが続き、終始2万8000円台前半で売り物をこなした。

 急激に進む円安が株価下支え材料として機能しているという見方もあるが、「実際はそれほど(円売り・株買いで)リンクされている感触もない」(中堅証券マーケットアナリスト)という。その証拠に、きょうは後場取引時間中に為替が急速に円高方向に押し戻される場面が複数回あったが、その間に日経平均株価は若干伸び悩む程度で反応は薄く、前場の終値を上回る水準で頑強な推移を続けた。終盤は手仕舞い売りで値を消したが、プラス圏を維持した状態で大引けを迎えている。しかし、何か自然体ではない“頑張った買い注文”が入っていた感は否めない。個別株は利食い急ぎの動きも観測され、値上がり銘柄数を値下がりが200近く上回った。6月に入って日本株優位論が広がっているが、あすのメジャーSQ算出を前に、2万8000円大台ラインに積み上がるコールの売りを焼き尽くす狙いも垣間見える。ファンダメンタルズ面で日本株を一貫して買い進む根拠は今のところ希薄である。

 前日にOECDが発表した経済見通しでは今年の世界の実質経済成長率を3.0%とし、これは前回12月時点の予想である4.5%から1.5%の大幅下方修正となった。ちなみに日本は1.7%成長の予測で前回予想から半減している。成長率の低さ、下方修正の幅ともに日本が際立っている点は気になる。

 一方で、今年のインフレ率についてはOECD加盟38カ国で8.5%と予測、前回予想から4.3%の大幅引き上げである。ロシアのウクライナ侵攻に伴う、エネルギー価格や食料価格高騰による影響が反映されているが、本質的には新型コロナウイルス対策として推し進めた超金融緩和策が産み落とした過剰流動性の仕業といってよい。物価上昇が止まらないなかでの経済失速という、ベクトルの向きが反対方向に開き続けている現状は、1970年代半ばのスタグフレーションを想起させる。市場では「現時点で(スタグフレーション突入の)可能性は低い」とする声が聞かれたが、そもそもそれ以前にインフレは一時的という見解が示され、サプライチェーン問題が緩和すれば、金融引き締めを急がなくてもインフレは“自然治癒する”というシナリオが闊歩していたのではなかったか。

 日本円は対ドルでも対ユーロでも過激に売り込まれ、株式市場からみれば「良い円安」となってはいるものの、果たしてこのまま円安が続くことに岸田首相は気が気ではないはずだ。本来、このまま行けば7月の参院選は楽勝が予想され、2025年までの黄金の3年間を岸田首相は掌中に収めることができる。ただし、日本にもインフレの影が忍び寄っていることは間違いない。バイデン政権の急速な支持率低下の元凶となったのは紛れもなくインフレの高進であり、それを目の当たりにしているだけに国民のインフレに対する不安心理を逆撫ですることだけは絶対に避けたい。

 市場では「黒田日銀総裁が“家計の値上げ許容度も高まっている”と発言したことの釈明に追われたが、これは現政権からのクレームが強烈だったことが背景にある。党内部では解任説すら流れたようだ」(ネット証券マーケットアナリスト)とする。来年の4月を待たずに、万が一黒田総裁が職を退いた場合、外国為替市場では加速度的にアンワインドの円高が進むことは想像に難くない。また、かつてのパウエルFRB議長やブレイナード理事のように、黒田総裁が筋金入りのハト派から宗旨替えの動きをみせたとしても、狼狽的に円が買い戻される局面に遭遇しそうだ。急速な円安に危機感が生じなかったのは、株式市場がその間に上値追いを続けていたからだ。では、この行き過ぎた振り子が戻る時、株式市場はどういう評価を下すのか。黒田総裁に再びスポットライトが当たっている。

 あすは、株価指数先物・オプション6月物の特別清算指数(メジャーSQ)算出日。このほか、5月の企業物価指数が朝方取引開始前に日銀から開示される。海外では、5月の中国消費者物価指数(CPI)、5月の中国卸売物価指数(PPI)、5月の米CPI、6月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)など。(銀)

出所:MINKABU PRESS

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