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【特集】デリバティブを奏でる男たち【28】 ブレバン・ハワード(後編)


◆アベノミクスに賭ける

アラン・ハワードが共同で創業者したグローバル・マクロ系の英国ヘッジファンド、ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントは、稼ぎ頭のクリストファー・チャールズ・ロコス(BrevanのR)が退社した翌年の2013年、日本で大きな賭けに出ました。それは当時就任したばかりの安倍晋三首相が先導したアベノミクスの「大胆な金融政策」に乗じて、「円売り・日本株買い」のポジションを膨らませたことです。

 このポジションは同年5月中旬までは順調に評価益を膨らませていきましたが、同月にテーパータントラム(量的緩和の縮小を意味するテーパリングと、かんしゃくを意味するテンパータントラムを組み合わせた造語)、あるいはバーナンキ・ショックとも呼ばれる市場の混乱が発生しました。当時のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言がきっかけとなり、量的緩和が縮小された後に巻き戻されることで株価は大きく下落するとの懸念が台頭。ブレバン・ハワードは運用成績が暗転し、その後3カ月はマイナスに転じたと言われています。

【タイトル】
出所:日足、各種報道

 しかし、ブレバン・ハワードは同年11月に再び賭けに出ます。今度は金融引き締めに向かいつつあるFRBと大胆な金融緩和を継続する欧州中央銀行(ECB)や日銀など、異なる金融政策の方向を意識してドル買い・ユーロ売りやドル買い・円売りなどのポジションを高めたほか、またしても先物やオプションを通じて日本株買いに挑みます。もっとも、このときの日本株買いについてはやや懐疑的だったらしく、運用資金を提供していた日本の企業年金担当者に「日本経済の実態」をヒアリングしていたといわれます。

◆試練の時代

 ブレバン・ハワードが賭けに出た背景には、大口投資家の撤退もあったと考えられます。2013年に英国の地方自治体の年金を運用するロンドン年金基金局(LPFA 、London Pensions Fund Authority)は、ブレバン・ハワードから投資資金を引き揚げることにしました。その理由は、ブレバン・ハワードが取引ポジションの詳細な内訳を提供しなかったためでした。しかし、そのようなことをすれば他の市場参加者から狙い撃ちされる可能性が高まり、パフォーマンスが悪くなってしまうため、ブレバン・ハワードが提供を拒否したのは当然だったのかもしれません。

 かような無理難題をLPFAが言い出したのは、当時の英国政府が高いファンド手数料とファンド・マネージャーの高い報酬を問題視していたからであり、さかのぼってみれば前編で指摘したように、高い税金と規制の強化を嫌がって英国から脱出したファンドに対する嫌がらせだった可能性が考えられます。ただ、LPFA撤退の影響は大きく、2014年には運用成績が初めてマイナスとなったことも災いして、その後も運用資産の流出が続きました。
 
 ブレバン・ハワードは、運用成績の悪化について運用資産が大きくなりすぎたため、お金を稼ぐ機会を見つけるのが難しくなったことも背景にあると考えていたので、ある程度の運用資産の流出は悪くない話です。しかし、あまりに流出が大きくなるのも問題で、これを食い止めるためブレバン・ハワードは2016年に管理手数料0%のマルチ戦略ファンドを立ち上げたほどでした。

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◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。



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