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【特集】核戦争危機か!? ロシア軍の原発攻撃が暗示する株暴落の予兆 <株探トップ特集>

ロシアによる欧州最大規模であるザポロジエ原発への攻撃は株式市場にも衝撃を与えた。見えてきたウクライナ問題の結末とは?

―世界的な地政学リスクに発展、3次大戦回避でもハイパーインフレへの警戒感くすぶる―

 週末4日の東京株式市場は大幅反落、日経平均株価は一時800円を超える急落で2万6000円台を大きく割り込む波乱展開となった。きょうは前日の欧米株市場が軟調だったことで、朝方から主力株を中心に売り優勢で始まったが、寄り後早々にロシア軍がウクライナにある欧州最大の原子力発電所を砲撃しているとAP通信が報じ、先物主導で一気に下げが加速する格好となった。日経平均はその後に下げ渋ったものの、終値は591円安の2万5985円と昨年来安値に近い水準で着地した。

●原発への砲撃報道で凍りつく市場

 日本時間の4日午前、ウクライナ南東部にあるザポロジエ原子力発電所でロシア軍の砲撃を受けて火災が発生したと伝わった。この報道を受け、株式市場では売り一色の展開となり、日経平均は一時前日比803円安の2万5774円まで急速に水準を切り下げる場面があった。ウクライナ国内には15基の原子炉が存在するが、そのうちザポロジエには6基あり、欧州で最大級の発電能力を有している。ここがロシア軍の砲撃を受けたとなれば、今回の有事は、ウクライナ問題の領域を超えて世界的な地政学リスクへと発展する。

 原発を砲撃と伝わった当初は、プーチン露大統領がついに越えてはいけない一線、“ルビコン川を渡ってしまった”という思惑がマーケットに広がり、狼狽的な売りが噴出した。だが、その後に火災が起きたのは原子炉ではなく原発の研修施設ということが判明し、下げを主導したアルゴリズム売買の買い戻しによって日経平均は下げ渋り、2万6000円台にいったんは戻す展開となった。国際原子力機関(IAEA)はウクライナ当局からの報告として「敷地内の放射線量に変化はない」ことをツイッターで明らかにし、これによりマーケットの過度な不安心理は後退。時間を経てIAEAは「主要設備に影響はない」とも伝え、下値を売り込む動きは一巡した。

●ハイパーインフレと食糧危機の懸念も

 しかし、危機的な状況にあることに変わりはなく、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、仮に原子炉が爆発すれば、その被害は甚大でチェルノブイリ原発事故の10倍規模になると警告、ロシアに直ちに攻撃をやめるように訴えた。その後、ロイター通信が火災は鎮火したことを伝えたが、日経平均の戻り足は限定的なものにとどまった。

 万が一、今後原子炉が破壊されるようなことがあった場合、小麦をはじめウクライナ周辺を産地とする農産物は出荷できなくなり、穀物価格は更に騰勢を強めることは必至となる。市場関係者からは「ハイパーインフレが避けられない状況となり、国によっては飢餓が発生する。株式市場はいうまでもなく暴落。食糧やエネルギーに絡む一部の銘柄には投資資金が向かうかもしれないが、主力株をはじめマーケット全体がかつてないリスクオフの波に晒されることになる」(ネット証券マーケットアナリスト)という声が聞かれた。

●ギリギリを攻めて心理を揺さぶる戦術

 今回のロシアの動きは、何としてもウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に取られたくない(加盟させたくない)という強い意志が働いている。攻撃は波状的で熾烈だが、今回の原発施設への砲撃などは確信犯的に行われているものの、ギリギリで急所を外しているのが、プーチン大統領の手口である。きょうの原発施設砲撃に先立って、前日にはロシアのラブロフ外相が、「(第3次大戦が起これば)、それは核戦争以外にない」と述べるなど、巧妙に伏線が張られている。

 国際決済ネットワークSWIFTからのロシア金融機関排除についても、最大手のズベルバンクは対象外となっている。ここを外してしまうとロシア産の石油・ガスの決済が不能となり、エネルギー価格の高騰が更に加速するため、欧州で発言力の強いドイツなどが難色を示したことが背景にある。ただ世論的に、次の対ロシア制裁でズベルバンクを排除する方向も検討せざるを得ないムードが漂う。そうしたなか、市場関係者によると「(ズベルバンクを排除する際には)当然ながらドイツは原発再稼働で急場を凌ぐことを考えるが、今回のロシア軍の原発施設への攻撃は、そのドイツに対する無言の圧力ともなっている。プーチン大統領のやっていることは衝動的に見えて緻密に計算されている」(中堅証券ストラテジスト)と指摘する。

●サウジや中国などの思惑を取り込む

 原油価格 の高騰にも歯止めがかからない。生保系エコノミストによると「OPECプラスで存在感を際立たせるロシアは、サウジアラビアとの関係が密接で原油の増産を阻止する動きにある。それを拠りどころに投機マネーも原油先物に流れ込んでおり、エネルギーコスト上昇はそう簡単に止まらないだろう」との見解を示す。ロシアはしたたかで、米国を敵視し台湾を傘下に収めたい中国の野心も利用している。プーチン大統領はNATOを相手に無謀な行動に出ているようだが、容易に負けない戦略的な布石を打っているのだ。

 では、果たして今回のウクライナ問題の結末はどうなるのか。これについては、「状況的に考えれば、ウクライナはロシアに取り込まれる形になるだろう。圧倒的な戦力差があり、裏側で西側諸国がウクライナに武器援助をしているとしても、キエフ陥落は時間の問題である」(前出の生保系エコノミスト)という。

●軍事攻撃不能のNATO、揺らぐ安保の概念

 では、世論に促されて、もし、NATOがロシアに直接的な軍事攻撃を仕掛ければどうであろうか。これについては意見が分かれるところだが、前出のネット証券マーケットアナリストは「プーチン大統領は核ミサイルのボタンを押す心づもり、というより、そこまで行ったら押すしかなくなると思う」という見方を示す。しかしながら、「それが分かっているからバイデン米大統領も踏み込めないはずだ。一度は亡命提案を断ったゼレンスキー大統領を何とか亡命させる形に持って行き、ウクライナをロシアに渡すという線が現実的と思う。ウクライナは現時点でNATOには加盟していないので、かろうじてこの選択肢は肯定される」(同)としている。

 ただしその場合、国際的に“核を保有しなければ”自らの力で国家を守ることはできないというコンセンサスが急速に醸成されることになる。国家安全保障の認識は大きく揺らぐことになり、差し当たって中国が台湾有事に動き出す可能性がある。今回のロシアのウクライナ侵攻は日本にとっても決して対岸の火事ではない。

 そして、株式市場も当面は予測不能というよりない。「プーチン大統領の一挙手一投足を的確に予測できるような超能力でもあれば別だが、それができない以上は丁半博打に近い」(同)とする。ウクライナ情勢の混沌が続く限り、株価も先物絡みで乱高下するが、そうしている間に徐々に水準が切り下がっていくというケースも考えられる。ここは安易に買い場であるとは言えない。参戦するなら短期スタンスと割り切るよりないところだ。

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