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【特集】ガソリン需要期に向け止まらぬ原油高、対イランで譲歩迫られるかバイデン政権 <コモディティ特集>

minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司
 2月に入り、ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は2014年10月以来の高値を連日で更新した。脱炭素社会を目指す主要国が石油依存度を引き下げようとしているなかで、石油産業への投資が後退していることが生産を萎縮させており、供給不足が長期化するリスクがある。新たな社会へと向かうためのトランジション・コスト(変遷費用)がすでに原油相場に上乗せされている。

 イラクの国営石油販売会社(SOMO)によると、1月の生産量は前月比で日量6万3000バレル減の同416万バレルと、石油輸出国機構(OPEC)プラスの生産枠である同428万バレルを下回った。イラクはOPECプラスの中核的な産油国だが、リビアやナイジェリア、ベネズエラといった小規模な産油国と同様に設備投資が不足しつつあるのではないか。イラクの減産の背景には備蓄施設の不足のほか、悪天候や輸出関連施設の点検作業があり、一概に設備投資の問題であるとは言えないが、中核的な産油国も新規投資に慎重になっている可能性が高い。

●原油高抑制のためイランに歩み寄る米国

 イラン核合意に米国が近く復帰し、イラン制裁が解除されるようならば、同国の生産量が日量150万バレル近く上向く余地がある。イラン最高指導者のハメネイ師は、米国が対イラン制裁を解除する条件で米国との直接対話を認めている。欧州勢を交えたこれまでの間接協議ではらちが明かなかったが、直接協議が始まると先行きが見通しやすくなる。バイデン米政権が対イラン制裁の一部免除を復活させたことも前進の兆しである。これにより欧州やロシアなどの企業がイラン国内で核燃料の搬出業務を行い、核不拡散に第三者を関与させることが可能となった。大きな一歩ではないものの、双方に小幅ながらも着実な歩み寄りがみられる。近々さらに動きがあるだろう。

 インフレ高進による市民の不満が高まっているため、米国は原油高を早急に抑制しなければならない。できることならば、バイデン政権はガソリン需要が高まる春先までには決着をつけたいのではないか。ガソリン高が続けば、中間選挙で民主党はさらに不利となる。増産しているようで増産できていない石油輸出国機構(OPEC)プラスに頼るよりも、イランに増産させたほうがエネルギー高を食い止めるために有効である。消費国による石油備蓄の協調放出など、演出じみた政策はもう不要だ。

●バイデン政権は妥協以外に選択肢がない

 米国によるとイラン核合意再建は最終局面にある。核開発を加速させているイランを米国は放置できず、中東情勢の緊迫化を考慮すれば無理矢理従わせるわけにもいかない。米国は武力行使を意識させつつも、イランと対話によって新たな合意を結ぶしかない。イランを中心とした中東情勢の緊迫感が高まれば原油相場が急騰することは避けられず、そうなった場合はコロナ後の景気回復が台無しとなる。イランは原油高に守られていることをおそらく認識しており、米国に譲歩する可能性は低い。イランが交渉で下手に出ることはないだろう。バイデン政権は妥協するしか選択肢がないのではないか。対イラン制裁を解除することで、米国はイスラエルから間違いなくひんしゅくを買う。ただ、政治的な判断からいつまでも逃げ回ることはできないと思われる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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