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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 -山積するリスクのはざま-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第67回 山積するリスクのはざま

●エバーグランデのゆくえ

 前回の本コラムに次のように書きました。「中国広東省深?市に本拠を置く不動産開発会社の中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)の経営不安が深刻化しつつあります。負債の規模は30兆円を超えていることから、企業破綻した場合の影響の広がりが警戒されています。中国版リーマン・ショックになるリスクを否定できません。日本株式市場は堅調な地合いを回復しましたが『好事魔多し』といいます。恒大集団の状況に最大の注意を払う必要があることを忘れるべきでありません。」

 日本の3連休のタイミングで恒大問題がクローズアップされました。日本ではコロナ新規陽性者数が減少に転じるなかで、菅義偉首相が辞意を表明したことをきっかけに株価暴騰が生じました。日経平均株価は一気に3841円の上昇を示したのです。このタイミングで恒大問題がクローズアップされて日経平均株価は1222円反落しました。

 他方、9月21-22日には米国でFOMCが開かれました。米国のインフレ率が急上昇するなかで、これまでの金融超緩和の修正であるテーパリングがいつから、どの程度の強さで始められるのか、利上げの時期はいつになるのか、などの疑問への指針が示されることが想定されました。

 FRBは全体として、かなり明瞭に金融緩和政策修正の方向感を示したと思います。金融引き締め方向への政策明示ですから、株式市場が急落の反応を示してもおかしくはありません。ところが、9月22日のNYダウは前日比339ドル高で引けました。

●注目される習近平政権対応

 コロナ、金融政策転換、恒大懸念、さらに日本政局変動とビッグイベント山積の金融市場ですが、株式市場の基調の強さが伺われます。恒大グループは9月23日に期限を迎える社債の利払いのうち人民元建ての支払いを実施すると22日に発表しました。この発表で安心感が広がり、世界の株式市場で株価反発の流れが強まりました。

 しかし、恒大グループは23日期限のドル建て社債の利払いを30営業日以内に実施しなければ債務不履行に陥るほか、これからその他の多額の利払いの期限が相次ぐことから、不透明な状況が続く状況に変化はありません。

 恒大グループの債務残高は33兆円水準と見られ、破綻処理に移行する場合には連鎖的な影響が懸念されています。中国の習近平政権は共同富裕政策を掲げており、中国社会の格差拡大の是正に取り組む姿勢を示しています。このため、政府主導での企業救済の可能性は低いと見られます。とはいえ、金融危機を招来させれば政権のダメージも大きくなるため、政府主導での問題処理が模索されることになるでしょう。

 現時点での手放しの楽観は許されませんが、2008年から09年にかけて生じた世界規模の金融危機到来の可能性は限定的であるとの見立てが有力になっているように思います。リーマン・ショック時の金融波乱のマグニチュードが大きくなったのは派生金融商品の組成残高が膨大であったことが背景で、この点に今回のリスクとの相違があると考えられます。

●選挙情勢急変

 菅義偉首相が辞意を表明して自民党が党首を交代させることになったため、衆院総選挙情勢に大きな変化が生じています。菅内閣の支持率は3割を割り込み、重要な国政選挙、地方選挙での自公推薦候補の敗北が相次いでいました。このまま衆院総選挙に突入すれば与党議席の激減が現実化する恐れがありました。

 ところが、自民党の党首が交代し新しい内閣が発足すると内閣支持率が跳ね上がります。このタイミングで衆院総選挙が実施されることになるわけで、与党大敗の可能性が低下しています。政治状況が大きく変化しないことが長期的に日本にプラスであるかどうかについては意見が分かれるところだと思いますが、短期的には政局の混乱が回避されるとの安心感が広がる可能性は否定できません。

 立憲、共産、社民、れいわの野党4党が政策協定を締結して共闘体制を構築していますが、野党第一党の立憲民主党の野党共闘への取り組みに熱意が感じられないため、2009年総選挙に見られたような野党ブームは生じていません。自民党党首に誰が選出されるのかによって総選挙情勢は変化すると思われますが、与党大敗の可能性は低下しつつあると思われます。

 これまでの最重要問題のコロナは急激な新規陽性者数の減少が確認されています。この変化を受けて菅内閣は9月末をもって緊急事態宣言解除に進むと見られますが、発出と解除の繰り返しでは進歩がありません。年末から1月にかけて感染再拡大の懸念があり、次の感染拡大への対応策を具体的に示すことが求められています。

●パウエル議長は続投か

 米国ではFRBのパウエル議長が年明け2月に任期満了を迎えます。パウエル議長は共和党のトランプ大統領によって議長に起用された経緯を持ちます。このことから民主党のバイデン大統領が議長交代を検討してもおかしくはないのですが、可能性としてはパウエル議長が続投になる可能性が高まりつつあると見られます。

 政権とFRBの橋渡しをしているのがイエレン財務長官。イエレン女史はFRB議長を務めていたときにパウエル副議長とコンビを組んでいました。両者の関係は良好で、イエレン女史がバイデン大統領にパウエル続投を要請したとも伝えられています。

 9月22日のFOMCでは、2022年末まで利上げなしとする見通しが22年中の利上げ着手に変更されました。テーパリングと呼ばれる量的金融緩和の縮小開始は11月のFOMCで決定される方向が示されましたが、緩和縮小を半年程度で完了してしまう方向も示唆されました。

 利上げ実施もテーパリング加速も強い政策姿勢ですので株式市場が急落反応を示しても不思議ではないのです。ところが、金融市場は逆に強い政策スタンス方針の提示を受けて株高で反応しているのです。

 市場の一瞬先は闇ですので手放しの楽観を抑制しなければなりませんが、パウエルFRB議長が金融市場との対話を巧みに実現している現状はひとつの安心材料と言えそうです。9月米雇用統計の発表は10月8日に予定されています。数値によっては金融市場が大きく反応することがあり得ますので要注意になることに留意しておきたいところです。

(2021年9月24日記/次回は10月9日配信予定)


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