【特集】生成AIを使ったら儲かった4つの攻め技
AI活用で勝ちを呼ぶ7人の技・総集編-第1回
株探編集部が今春に実施した「個人投資家大調査」(2025)で尋ねたところ、利用している人は16%にとどまった(有効回答2550)。未利用の84%にその理由を質問すると、
「使い方をイメージできない」(40.6%)
「回答の信頼性に不安」(23.3%)
――が上位に挙がった(回答は2つまで)。では、AI活用で成果を上げているケースを紹介すれば、これらの疑問や不安を解消する一助になる。そう考えた「株探・投資家取材班」は、7人のケースを先の10月~11月に紹介した。
今回の記事は7人の総集編になる。取材を担当した編集部デスクMと記者Tが、2回に分けて成功のツボを振り返った。改めて分かったことは、AIの活用で成功を手にするには、「AIを活用する以前の基本動作を身に着けることが肝要」ということだった。
それらはどのようなものなのか、これから見ていこう。
AI活用法には「攻め」「守り」の2パターンあり
デスクM(以下M): 7人の取材内容を振り返ると、投資におけるAI活用パターンはどのように整理できるかな?
記者T(以下T): 大きく2つに分類できます。1つは自分が狙った情報を素早く入手する攻めの活用、もう1つが自分の見方に見落としがないかを検証する守りの活用です。
M: シリーズ初回の今回は、攻めの活用に該当する投資家を振り返っていこう。
T: 該当するのは4人になります。それぞれの具体的な活用シーン、AIを使って調べた内容を一覧化したのが下の表です。表の右側には、実際に取引につながった銘柄を記載しています。
■攻めの活用における投資家ごとの活用シーン、AIを使って調べた内容、成功した銘柄名
| No. | ハンドルネーム 活用シーン | AIを使って調べた内容 | 銘柄名 <コード> | |
| 1 | ![]() | surf777さん 「短期的なモメンタムを見極めたい」 | 注目ニュースが業績に与える影響 | インフォメテ <281A> |
| 2 | ![]() | Tomozoさん 「本当に割安なのかを確かめたい」 | シナリオ別に算出した企業価値 | スターツ出版 <7849> |
| 3 | ![]() | ハイテク大好きさん 「事業拡大のポテンシャルを把握したい」 | グローバルで勝ち目のある領域 | トリドリ <9337> |
| 4 | ![]() | RENEさん 「安心して持てる高配当株を発掘したい」 | 業界動向とリスク要因の小さい銘柄 | プロロジスR <3283> |
M: こうして表を見ると、AIを使いこなしている人は漫然と利用しているのではなく、はっきりと目的を持ち、独自の視点でAIに指示を出していることが分かるよね。
4人の成功例を、ひとりずつ振り返っていこう。
攻めの活用1 「株価の短期的なモメンタムを見極めたい」
T: 最初の成功例は、株価の短期的なモメンタム(騰勢)の見極めにAIを活用するsurf777さん(参考記事)の勝ち技になります。
surfさんは、デイトレードやスイングトレードから得る利益で生活費を賄っている50歳代の兼業投資家になります。
イラスト:福島由恵兼業投資家。2004年に投資を開始し、約20年間で500万円の元本から累積で1億円以上のリターンを生み出した。現在の株式運用額は4400万円になる。初心者時代は小型株を対象にした“雰囲気売買”で失敗も多かったが、生活費を稼ぐため2015年に本腰を入れて投資に向き合う。この頃から適時開示情報をこまめに見て、「どの材料が出たら株価が伸びるか」を研究するようになる。次第に短期モメンタム投資のスタイルが確立する。
M: その日の材料を見て「株価を動意づかせるインパクトがある」と判断したら、夜間PTS(私設取引システム)から参戦して短期の値上がりを狙うスタイルだよね。そこでカギになるのが、株価モメンタムの読み方というわけだ。
T: surfさんがAIを使う最大の目的が、モメンタムの持続性の見極めです。「このニュースは株価へのインパクトが大きいはずだ」。これまではモメンタムが生まれるかの判断は、経験を積むに連れて精度が上がってきたそうです。
ただし、生じたモメンタムがどれくらいの期間、具体的には何営業日続くのかの見極めは「非常に難しい」というのが自身にとっての課題でした。
M: 以前取材した億り人は、「業績を読むことはできても、株価は読めない」と話していた。その点で、株価のモメンタムの“賞味期間”を見極めようとするsurfさんの取り組みは、チャレンジング。とはいえ「挑戦なしには道は拓けない」。
T: 挑戦して成果を勝ち取った取引が、エネルギーに関するデータをAIで解析するインフォメティス<281A>です。
注目したきっかけは、同社が2025年6月27日に出したリリースです。材料は、家庭や施設内の消費電力を家電別にリアルタイムに推定する同社の技術が、国際標準規格に正式採用されたことです。
本人は「将来の業績拡大を期待した買いが入る」と見てトレードを始めたのですが、1~2営業日で手仕舞うか、3営業日まで引っ張るかで迷ったそうです。
M: この材料に伴うモメンタムを見極める際に、どのようなプロンプトをAIに出したのか。
T: 国際標準規格になったことが、今後の同社の業績や時価総額にどの程度インパクトを与える可能性があるのかを定量分析させたのです。
その際に「強気」「中立」「弱気」の3つのシナリオで提示するように指示しました。AIの回答では、弱気シナリオでも想定以上にインパクトが大きいことが判明しました。これを見て本人は、取引を3営業日まで延長しリターンを上積みました(下のチャート)。
■インフォメティスの日足チャート(2025年6~7月)

注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、同値は「グレー」
M: surfさんはイベント・カタリストの短期売買を主軸にするスタイルだ。この手法では株価モメンタムを読むのはテクニカル分析を活用していると考えがちだ。しかし、surfさんはファンダメンタルズ分析に力を入れている。
AIの活用も、ファンダメンタルズをベースにした理論株価を参考にしている。自分の投資スタイルが決まっていれば、AIに何を指示するかも自分の中では明確になる。
「AIの使い方がイメージできない」という人は、自分の投資スタイルを整理することで使い道が思い浮かぶかもしれない。
攻めの活用2 「本当に割安なのかを確かめたい」
M: 次の成功例が「株価水準が本当に割安か」を確かめるTomozoさん(参考記事)。割安成長株を狙う兼業投資家で、この取り組みは割安成長株もしくは収益バリュー株を狙う人には参考になるね。
T: Tomozoさんは、これまで予想PER(株価収益率)の水準が競合と比較して、割安か否かを判断していました。しかし、経験を重ねるうちに「これだけでは不十分」と感じて、プロの世界に浸透する企業価値評価をAIに算定させる一手間を加えました。
具体的にはDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法で企業価値を算定し、そこから理論株価を出します。理論株価が足元の株価より高ければ、「今は割安」という判断になるわけです。
印象的だったのは、AIに計算を丸投げしないこと。フリーCFの成長率など計算に使う数値は、AIに質問しながら現実的な水準に設定しました。Tomozoさんは現在、中小企業診断士の資格を持つ企業コンサルタントをされていることから、業務で培ったスキルを投資で生かしているといえます。
その方法で今年4月に投資をした銘柄がスターツ出版<7849>。当時の株価水準は理論株価の3分の1から2分の1の水準であることが分かり、割安と判断する材料として参考にしました。
■企業価値評価の主な構成要素
| 企業価値 | 主要要素 | 構成要素等 |
| 事業価値 | フリーCF | 営業CF、投資CF |
| フリーCFの期待成長率 | 予測期間の成長率、TVの永久成長率 | |
| 割引率(WACC) | 株主資本コスト、負債コスト | |
| その他の資産 | 現預金、遊休地など | ―― |
注:WACCの株主資本コストは、CAPM(資本資産評価モデル)を用いた場合、
「リスクフリーレート+ベータ×市場リスクプレミアム」。
M: マイクロソフトの表計算ソフト「Excel」を使えば、今は個人投資家でも企業価値の計算はできる。だが、AIを使えば複数のシナリオに分けた企業価値分析を、短時間で行ってくれるので利便性や効率性は格段に高まる。
最初のsurfさんの例もそうだけど、AIを使えば、個人でもプロと同じ視点で銘柄分析ができることがわかるね。
イラスト:福島由恵中小企業診断士としてコンサルティング業を営む兼業投資家。2018年の独立開業を機に「収入の柱を増やしたい」と考え投資を始めた。19年に超小型株への“雰囲気買い”で痛手を負い、以後は中小企業診断士として培ってきた定量・定性分析を投資に応用するスタイルへ転換した。これまで投じてきた元本600万円から4500万円のトータルリターンを生み出すことに成功している。
攻めの活用3 「事業拡大のポテンシャルを把握したい」
T: 3人目の成功例は「事業拡大のポテンシャルを把握」です。
超小型グロース株を長期保有するハイテク大好きさんのケースで(参考記事)、主軸とするスタイルは「事業がどこまで伸び得るか」を見て、成長余地の大きさを見極めるスタイルです。
M: ハイテクさんは証券会社や外資系の投資銀行に勤務経験がある人だね。
T: 生き馬の目を抜くような厳しい世界を知っているだけに、個人投資家の立場でプロ集団と互角に渡り合うのは難しいと考え、彼らの目が届かない時価総額が100億円以下の銘柄を投資対象にしています。
M: 時価総額が小さいと短期間でテンバガーになる可能性が高い、というのも狙う理由だね。今回、AI分析で成功している例が、インフルエンサーと企業をつなぐマッチングサイトを運営するトリドリ<9337>だった。
T: ハイテクさんがAIで分析するポイントが、定性情報を対象としている点です。理由の1つは、プロの定量分析能力を熟知していることがあります。
M: 先の2人のケースでAIを使えば、プロ並みの企業価値分析の結果を個人が享受できるようになったさまを紹介したけど、それでもハイテクさんはプロとガチンコ勝負することを極力避けている点にユニークさがある。
T: プロに限らず定量分析に使う数字は公開情報なので、「他の投資家より一歩先んじることは難しい」という考えもあるようです。
M: トリドリの例では、IR資料に言及されていないけど、今後の成長に大きく影響しそうな定性情報をAIでリサーチさせていた点が印象的だった。
T: ハイテクさんは、AIの回答はあくまでも傍証に過ぎないと割り切っています。
そのうえで、自身の投資スタイルの中核に置くグロースに関連する情報や、業績や株価モメンタムに影響を与えるリスク情報に注目している点に、プロとして積み重ねてきた経験が垣間見られました。
イラスト:福島由恵兼業投資家。2020年に本格的に投資を開始し、主に超小型グロース株への集中投資で元本2000万円から4000万円のトータルリターンを生み出した。その武器は、30年以上にわたる証券業界でのキャリア。とりわけIPOの引き受け業務の経験が長いことから、新興企業の分析に強みを持つ。証券会社時代は社内規定で売買が制限されていたが、2020年に現職の保険会社に転じてからは自由度が高まり、投資を存分に楽しんでいる。
攻めの活用4 「安心して持てる高配当株を発掘したい」
M: 4人目の成功例は「安心して持てる高配当株を発掘したい」場合だね。
T: 事例は、高配当銘柄を探していたRENEさんのケースです(参考記事)。高い配当利回りに加えて、配当の安定性も重視し、その両方を満たす銘柄をAIで絞り込みました。
注目したのは、分配金(配当)利回りが高い銘柄が多い国内REIT(不動産投資信託)です。RENEさんは株式投資の経験が長く、4億円の運用資産を築いてきました。
それだけの経験と成果を積み重ねても、REITに関しては「ズブの素人」という自覚があり、自分に足りない部分はAIの助けを借りることにしたのです。
M: 能力や知識の低い人ほど、自分を過大評価する認知バイアスの「ダニング=クルーガー効果」というのがある。
REITに対する接し方を見ると、RENEさんはそうしたバイアスから程遠いところにいる人だからこそ、4億円プレーヤーになることができたといえるね。REITでは、AIをどのように活用したのか。
T: キーワードは「森」と「木」です。
「森」は国内REIT全体や関連市場の動向を整理し、注視材料を押さえました。次の「木」は個別REITの選別で、今の「森」の環境の中でこれからの成長が期待できる「木」を選びました。
M: 今の「森」は金利上昇の環境で、REITにとっては調達コストの上昇という向かい風が吹く。そうした環境でも、安定して分配金を生み出す条件をAIに調べさせ、条件に合致する銘柄を複数挙げさせた。その中から白羽の矢を立てたのが、物流REITの日本プロロジスリート<3283>だった。
T: 自分が詳しくない業界の銘柄を探すとき、まずAIで全体像を押さえ、注視材料を踏まえて個別銘柄を絞り込む。このアプローチは銘柄選びの基本中の基本ともいえ、特に初心者や初級者の投資家には参考になるAIの活用法でしょう。
M: 攻めの活用の振り返りはここまで。次回、自分の投資判断に見落としがないかを検証する守りの活用について見ていこう。
イラスト:福島由恵大手製薬会社を早期退職し、現在は医療関連企業の経営にかかわる兼業投資家。日本株やアメ株、中国・香港株を対象に、グローバル市場で事業展開する企業の株を長期保有する戦略で、4億円のトータルリターンを築き上げた。現在は成長重視から安定重視へと舵を切り、日本の高配当銘柄やインデックス型投資信託の比重を高めている。趣味は海外旅行で、これまで130カ国に訪問している。
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