【特集】動き出す究極のエネルギー、脱炭素戦略の切り札「水素関連株」に再脚光 <株探トップ特集>
IPCCは9日に公表した報告書で、温暖化が進めば熱波や豪雨の頻度や強さが増すとして、温室効果ガスの排出を一段と削減するよう警鐘を鳴らした。こうしたなか、注目度が高まっているのが究極のクリーンエネルギーである水素だ。
―カーボンニュートラルの切り札として高まる注目度、商機捉える企業に注目―
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は9日、産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇幅が2021~40年の間に1.5度を超える可能性が高いとする報告書を公表した。温暖化が進めば熱波や豪雨といった極端現象の頻度や強さが増すとして、温室効果ガスの排出を一段と削減するよう警鐘を鳴らしており、 脱炭素対応は待ったなし。そこで究極のクリーンエネルギーである「水素」関連銘柄に再びスポットを当ててみた。
●コスト低減と需要創出がカギ
菅義偉首相は20年10月に「50年カーボンニュートラル」を宣言したが、これを達成するためには火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにしていくという火力政策の抜本的な転換を進める必要があり、そこで注目されているのが水素だ。水素を燃料とした発電は燃焼時にCO2を排出しないうえ、ガスタービンなどの既存発電設備の多くをそのまま活用できることから電源の脱炭素化を進めるうえで有力な選択肢のひとつとなるだけでなく、運輸部門や電化が困難な産業部門などの脱炭素化も可能にする。こうしたことから、各国で水素活用に向けた研究開発が活発化しており、技術課題の克服やインフラ整備、コストの低減を行い、分野ごとに具体的な社会実装を見据えた取り組みが進んでいる。
水素が日常生活や産業活動で普遍的に利用される「水素社会」の実現に向けて必要不可欠となるのが、水素の供給コストの低減と多様な分野での需要創出だ。そのために、経済産業省が7月21日に公表した新しいエネルギー基本計画の原案では、現在一般的な水素ステーションで100円/Nm3で販売されている供給コストを30年に30円/Nm3、50年に20円/Nm3以下に低減すると同時に、現在約200万トン/年と推計される水素供給量を30年に最大300万トン/年、50年には2000万トン/年程度まで拡大する目標が明記されている。水素を長期的に安定して大量に供給するには、海外で製造された安価な水素の活用と国内の資源を利用した水素の製造基盤の確立を進めていくことが重要で、水素サプライチェーン構築に取り組む企業のビジネス機会が広がりそうだ。
●サプライチェーン構築へ着々
千代田化工建設 <6366> [東証2]、トヨタ自動車 <7203> 、住友商事 <8053> 、三井住友フィナンシャルグループ <8316> 傘下の三井住友銀行、日本総合研究所(東京都品川区)の5社は今月6日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から、「中部圏における海外輸入水素の受入配送事業に関する実現可能性調査」を受託したことを明らかにした。同調査は大規模な水素サプライチェーン構築に向けた検討を具体化させることが目的で、海外からの水素輸入を前提とした大規模受入・配送事業の経済性を検証し、事業化に必要なファイナンス、技術、制度面における課題を整理するという。
ENEOSホールディングス <5020> は今月2日、再生可能エネルギー専門の発電事業者である豪ネオエンと日豪間のCO2フリー水素サプライチェーン構築に向けた協業検討を開始したと発表。協業検討は南オーストラリア州で実施し、ネオエンが再生可能エネ電力の安定供給及び水素を製造する水電解槽について、ENEOSは水素の貯蔵・輸送形態のひとつであるMCH(メチルシクロヘキサン)の効率的な製造及び日本への海上輸送について検討を行うとしている。また、7月にはCO2フリー水素サプライチェーン構築に向けて実施する「東京湾岸エリアにおける水素利活用調査事業」及び「むつ小川原地区における水素地産地消モデル調査事業」が、NEDOの「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発/水素製造・利活用ポテンシャル調査」の委託先として採択されている。
丸紅 <8002> 、岩谷産業 <8088> 、デロイト トーマツ コンサルティング(東京都千代田区)、日鉄パイプライン&エンジニアリング(東京都品川区)は7月、「関西圏の臨海エリアにおける水素供給モデルに関する調査」を開始すると発表した。これはNEDOから受託したもので、丸紅・岩谷産・デロイト トーマツが事務局として参画する「神戸・関西圏水素利活用協議会」と連携し、大林組 <1802> 、ENEOS、川崎重工業 <7012> 、関西電力 <9503> の協力のもと、関西圏の水素受入基地の候補地比較を行うとともに、受入基地での揚荷・貯蔵、受入基地から需要地への輸送手段(水素ガス高圧パイプライン、液化水素ローリー)の調査と事業性を含めた供給モデルの検討を行い、今年度中に調査結果をまとめる予定だ。
石油資源開発 <1662> とジェイ エフ イー ホールディングス <5411> 傘下のJFEエンジニアリングは6月から、CO2や水素・ アンモニアといった新たなエネルギー輸送と供給に関する技術課題について検討を開始。主にCO2の分離・回収やパイプラインをはじめとするCO2の輸送について、将来の社会実装・事業化を見据えた課題の洗い出しを行い、必要となる技術検討などを実施するほか、既存ガスパイプライン活用を含む水素の輸送や、発電燃料としての水素やアンモニアの供給に関する技術課題についても共同技術検討を進めるとしている。
●日理化、那須鉄などにも注目
クリーンエネルギーである水素への企業の関心は高く、直近では荏原 <6361> がコーポレートプロジェクト(CP)制度適用の第1弾として社長直轄の「CP水素関連事業プロジェクト」を発足させた。プロジェクトチームは、水素関連事業に関するリサーチ・検証を行うマーケティング戦略ユニットと、製品開発を行う技術開発ユニットで構成されており、脱炭素社会へ向けた流れのなかで、今後、市場の拡大が急速に見込まれる水素関連需要に対応する構えだ。
エア・ウォーター <4088> と戸田工業 <4100> は7月、NEDOの委託事業の公募に対して、「メタン直接改質法による鉄系触媒を用いた高効率水素製造システムの研究開発」を提案し、採択されたと発表した。この研究開発で構築する高効率水素製造システムは、既存産業水素サプライチェーンの早期クリーン化を目標として、現存する都市ガスインフラを最大限に活用した安価なCO2フリー水素の提供を実現するもの。21~22年度に工業用として一般的に利用される純度99.99%以上の水素を安定的に製造可能にするとともに、副生成物として高導電性を持つ多層カーボンナノチューブが得られる高効率水素製造システムの完成を目指すとしている。
このほか、金属複合水素透過膜の製造技術を持つ山王 <3441> [JQ]、水素を化学品に添加する「水素化技術」事業を展開している新日本理化 <4406> 、水素分離膜モジュールを手掛ける日本精線 <5659> 、三菱化工機 <6331> などと水素を取り込む性質の合金(水素吸蔵合金)を用いた水素ガス高圧化の実証に成功している那須電機鉄工 <5922> [東証2]、燃料電池用高圧水素ガスコンプレッサーを取り扱う加地テック <6391> [東証2]、木村化工機 <6378> などと低濃度アンモニア水から高純度水素を製造することに成功している澤藤電機 <6901> 、水素計測用の圧力計・圧力センサーなどを取り扱う長野計器 <7715> などにも注目したい。
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