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【市況】植草一秀の「金融変動水先案内」 -三元連立方程式-

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

第60回 三元連立方程式

●日本株価の伸び悩み

 NYダウは5月10日に高値をつけ、初めて3万5000ドルの大台に乗せました。昨年2月から3月にコロナショックで38.5%の暴落を演じたのち、1年2カ月にわたって株価上昇を続けました。そのNYダウが5月10日以降は上値が重くなっています。コロナ暴落による下落幅に対する株価反発幅の比率は149%です。

 日経平均株価は昨年のコロナショックで32.1%暴落。その後、今年の2月までの1年間、株価上昇を続けました。下落幅に対する株価反発幅の比率は185%です。以前にも記述しましたが、コロナ暴落後の各国株価の反発率はコロナ被害の大小と政策対応の良し悪しに依存して決まっているように思われます。株価反発率が圧倒的に高いのが東アジア地域ですが、実際に東アジアが最もコロナ被害の少ない地域になっています。遺伝子要因、免疫要因、食生活要因などが指摘されています。いわゆる「ファクターX」です。

 東アジアの株価反発率は台湾が250%、中国が226%、韓国が218%になっています。日本の185%はこれらと比較すると低くなっています。日本ではバブル期以来の過剰流動性が供給されるとともに、2020年度には3次にわたる補正予算で73兆円もの「真水」が経済に注入されました。日本の経済対策の規模は世界トップレベルです。それにもかかわらず、株価反発率は他の東アジア諸国・地域を下回っています。

●日本の混迷

 米国の経済政策対応も世界トップレベルですが、米国のコロナ被害規模は日本と比較になりません。人口100万人当たりのコロナ死者数は日本が110人ですが米国は1845人。18倍の水準です。それでもNYダウが149%の反発を示したのは、米国経済政策の巨大さを物語っています。米国と同規模のコロナ被害に見舞われた英国の株価反発率は81%にとどまっています。経済政策対応の規模の大小が株価反発率に強い影響を与えています。

 このなかで、日本の株価が本年2月以降に高値を更新していないことが注目されます。他国では現時点まで株価は上昇基調を維持しています。台湾加権指数は最高値を付けた4月29日から5月17日までの間に14%の株価急落を演じました。ところが、徹底的な感染対策を講じた結果、6月3日までに下落幅の84%を取り戻しました。感染症対策の基本は「検査と隔離」です。基本に忠実な台湾がコロナ対応に見事に成功している事実は重大です。

 この逆が日本と言わねばなりません。日本では当初から現在に至るまで、「徹底検査」を放棄してきました。感染者を特定できないので感染拡大を止めることができないのです。また、感染が収束していないのにGo Toトラベルなどの感染拡大策を政府が推進しました。この結果、緊急事態宣言と感染拡大政策の間での右往左往が繰り返されて、いつまでもコロナによる経済停滞が残存してしまっています。

●警戒要因が残存

 世界の株価は大きな転換点を迎え始めている可能性があります。それ以前に、日本の株価が現在の低迷を抜け出せるのかどうか。大変気になるところです。日本株価の変動要因として3つの事項を提示することができます。コロナ、五輪、米金融政策です。この3つの事項が複雑に絡み合って今後の株価変動が形成されると考えられます。

 三元連立方程式を解かなければなりません。各国でワクチン接種が進展し、コロナ収束の期待が広がっています。しかし、ワクチンで本当にコロナ収束を実現できるかどうかについては、拙速な判断を控える必要があります。ワクチンの有効性がどの程度の期間期待できるのか。ワクチンの有効性が低い変異株の流行が生じないか。この点を見極める必要があるからです。

 また、新型コロナワクチンはmRNA型、ウイルスベクター型のいずれも新種のワクチンであり、長期的な弊害を指摘する専門家もいます。このため、かなりの比率でワクチン接種を忌避する人が存在することも考えられます。とりわけ、日本では、過去の薬害やワクチン被害の影響で、ワクチン忌避者の比率が高くなることも想定されています。

 菅内閣がワクチン接種を加速させようとしていますが、今年の秋の段階で集団免疫の獲得を期待できる状況にはありません。今年の夏から来年の春にかけて、コロナ感染がどのような状況を示すのかについて、慎重な見極めが必要です。

●大きな仮説の重要性

 菅首相は東京五輪開催を強行する構えを示しています。5万人を超す外国人が入国すれば変異株が持ち込まれる可能性は非常に高いでしょう。有観客で開催されればGo Toに類似した状況が創出されることになります。五輪を開催して国民に行動抑制を求めるのは無理でしょう。新型コロナの新規陽性者数は4~5カ月ごとにピークを形成してきました。第4波のピークが5月12日でしたので、9月から10月に次の感染ピークが到来する可能性があります。

 東アジア人の免疫能力をすり抜ける変異株、ワクチンの有効性が低い変異株の登場が指摘されています。まだまだ楽観が許されないのが日本のコロナ事情です。

 週明けの6月15-16日に米国でFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれます。FRBは2023年末までゼロ金利政策を維持する方針を示していますが、昨年12月と比較すると本年3月のFOMCでは、早期利上げ提唱者が増加しました。5月の米国消費者物価指数は食料・エネルギーを除くコアで前年比3.8%の高い伸びを示しました。1991年以来の高水準です。FRBの政策運営にどのような変化が生じるのか。細心の注意を払う必要があります。

 コロナが収束に向かうと経済活動の環境が激変することになります。この点も株式市場に大きな影響を与えます。コロナ、五輪、米金融政策の三元連立方程式の解を得るのは容易ではありません。

(2021年6月11日記/次回は6月26日配信予定)


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