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【特集】不動産テックで先導する銘柄の条件はなに?
~株探プレミアム・リポート~
登場する銘柄
フィンテックと共にここ数年、注目されている不動産テック 。しかし、その対象は広く、一般社団法人不動産テック協会によれば、2020年半ば時点で352のサービスに分類される。
その中には、AI(人工知能)やIoTなど先端技術を駆使したものから、業務のシステム化といった様々なレベルがある。百花繚乱とも玉石混交とも言える中で、不動テックを展開する注目企業はどこか? 株価や業績が好調な銘柄の中から探ってみた。
浮かび上がった人気化の条件は、業界の常識を超える取り組みだ。
AI活用で先頭を走るGAテクノ、DX推進で成功したプロパティA
業績、株式パフォーマンス、そして業界の取材から浮かび上がったのが2社。投資用中古マンション買い取り再販のGA technologies(以下GA)<3491>と、投資用マンション開発・販売のプロパティエージェント(以下プロパティA)<3464>だ。
2社の株価と業績は以下のグラフの通り。株価は東証業種別価格指数・不動産業を大きくアウトパフォームする。業績もほぼ2桁の増収増益を続けている。
■GA、プロパティA、東証業種別価格指数・不動産業のパフォーマンス比較
注:2020年3月末=100
■GAの業績推移
■プロパティAの業績推移
この両社はITが遅れている不動産業界の中では、異色の存在だ。
GA<3491>は、従業員全体の3割弱にあたる約150人のエンジニアを抱え、AIを活用したマーケティングシステムの開発に取り組む。同社は昨年8月に東京証券取引所と経済産業省が選定した「DX銘柄2020」にも選定されている。
都内の有力マンション販売会社の幹部は「人材、サービスの面でGAに優る体制を構築するのでは容易ではない」と評する。
もう1社のプロパティA<3464>は、同業の中ではデジタルトランスフォーメーション(DX)推進で際立つ。
コロナショックでリモートワークが浸透する2年前の2018年から、同社は先駆けてビデオ通話システムを使ったオンライン商談やその他ペーパーレスシステムを順次導入。固定電話も廃止した。
昨年4月の緊急事態宣言下で企業活動が停滞する中でも、同社は営業活動をオンライン上で継続して業績を伸ばした。未だFAX文化が根強く残る不動産業界で、DX推進に成功している数少ない企業の一社だ。
GAとプロパティAは今後も業績拡大し、株式市場からの評価を高めていけるのか。そのポイントをこれから見ていこう。
■GAとプロパティAの不動産テックの強みと成長策
市場規模を1.5兆円⇒13兆円に急拡大、成長ドライバーは?
まずGAはAIを駆使した投資用マンションの買取再販事業者。販売するのは不動産にとどまらず、不動産の仲介・管理会社向けにシステムも販売する。
技術志向は2013年の創業時から掲げていた。樋口龍社長は17年7月、"プレイステーションの生みの親"と言われる元ソニー・久夛良木健氏を戦略顧問に招き、ノウハウを吸収。厳しい指導の蓄積が土台になっている。久夛良木氏は現在、同社の社外取締役に就任している。
同社の最大の特徴が、AIで「仕入れ」の無駄をなくして販売精度を高めていること。投資家がほしい物件を仕入れれば販売が有利に進むため、仕入れをどう効率化するかは、買い取り再販ビジネスの肝となる。
仕入れる物件は、中古ワンルームマンション1室が基本で、仕入れ先は主に街中の不動産会社。これを同社が展開する不動産情報サイト『RENOSY(リノシ―)』を通じて、いわゆるサラリーマン投資家に販売し、利ザヤを得る。
つまり不動産会社からGAが仕入れ、それを個人に販売する「B to B to C」のビジネスモデルを展開してきた。AIの活用では、不動産広告に記載されている駅からの距離や物件スペック等の情報、物件情報に基づく成約実績などを機会学習させ、「どのような物件を今、仕入れるか」の判断を迅速にできるようにした。
在庫回転期間は平均23日、業界の通常は数カ月
販売力の高さを表す「在庫回転期間(仕入れ~販売)」は、GAは1件あたり平均で23日間。多くの不動産会社は「通常は数カ月かかる」(同業者)と言われている中で、その短さは際立っている。
販売力を高める鍵を握っているのが、先にも触れた仕入れ業務。投資家が買いたがる人気物件を仕入れれば、その後の再販も楽になる。ところが人気物件はすぐに競合企業に獲られてしまい簡単にいかない。
販売効率を高める人気物件獲得のポイントが、AIを活用した判断の高速化だ。GAでは、その判断作業の半自動化に成功。街中の不動産会社からFAXやメールで寄せられる月1万件の売却情報を、自動でテキスト化し、収益力を点数化して高い順にリスト化する。
これにより営業部門が1件1件吟味する負担が最小化され、先方との価格交渉など付加価値を高める業務に集中できるようにった。
■AIによるスコアリングのイメージ画像
出所:GAテクノロジーズ
そうして投資しやすい物件を仕入れて、『RENOSY』でサラリーマン投資家に提案する。投資家からのサイト問い合わせ件数は月2500件。サイト集客では顧客の成約データなどをIT分析してウェブ広告の集客精度を高めている。同社の広報担当は「専属のウェブマーケティングチームが、高速でPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回している」と語る。
ここまではAI活用の第1段階だ。同社は次なる成長の鍵となる第2段階に歩を進め始めたところだ。この第2段階で、AIの本領が発揮される。取り扱うデータ量が第1段階に比べて、大きく拡大するためだ。
仕入れ先を不動産会社のほかに個人にも広げ、また取り扱う物件も従来の中古のワンルームマンションのほかに、ファミリー向けの間取りも加え始めた。つまり、個人が保有するワンルームないしファミリー向け物件をGAが買い取り、それを個人に売るの「C to B to C」も展開していく。
これによってターゲットとする市場規模は「1.5兆円から13兆円に拡大する」とIR担当の渡辺聡子氏は言う。
■「仕入れ先」「仕入れ物件の間取り」「販売先」現在と今後の比較
M&Aを展開、顧客基盤を拡大する 第2段階への移行にあたり、同社はストックしてきた顧客基盤を活用する。それが既存のリノシ―会員。もう一つが2件のM&A(合併・買収)で取得した顧客層だ。
M&Aについて、1件目は2019年12月に完全子会社化したモダンスタンダード(東京都港区、松田啓介社長)で、社名と同じブランドの高級賃貸サイトを運営していた。現在は『RENOSY』に統合して運営を継続している。
もう1件は中華圏で日本の不動産を紹介する「神居秒算(しんきょびょうさん)」で2020年6月に事業買収した。いずれの会員も、不動産を所有している富裕層を一定数抱えている。
こうした基盤を、AIを用いながら取引件数を拡大させる。その原動力にしようとしているのが「所有物件の売却想定価格」。
売却想定価格を月ごとに更新
例えば昨年12月、同社はリノシ―会員に対し、所有物件の資産価値の変動をチェックできるマイページ機能を実装した。GAが販売した物件に限らず、会員自身が住んだり、または他社で購入した投資用物件も登録できたりする。AIが算出する売却想定価格は月ごとに更新される。
AI査定においては、独自に収集した中古マンション取引情報から、立地・周辺環境、建物情報、周辺相場などの物件価格の決定に影響する複数のデータを活用している。現在の主な査定対象は、一都三県の中古分譲マンションとしている。
「わざわざ価格を調べるのは手間。気軽に価格がわかれば、『いま価格が高いうちに売ろうかな』などと売却を考える機会が増える」(渡辺氏)
今後、旧「モダンスタンダード」や「神居秒算」の会員からも、何かしらの形で物件調達機会を探る。
販売先も広がる。中華圏の富裕層会員を抱える「神居秒算」では、これまでGA単体では販売ハードルが高かったファミリー向けマンションの販売を見込める。
ワンルームと比べて高単価のファミリー向け物件は、GAのメーン顧客層である20~30代のサラリーマン投資家では購入が難しかった。しかしキャッシュが豊富な中華圏の顧客を獲得したことで、GA単体の弱点を補えるようになる。前出の渡辺氏は「M&Aのシナジーがこれから本格的に見込める」とする。
子会社の賃貸効率システムのシェア急拡大に期待
GAの不動産テックにおける2つ目の注目材料が、賃貸システム外販シェアの拡大だ。不動産賃貸会社に、入居斡旋業務や物件管理業務にかかわる電子化・効率化システムを複数提供している。
売り上げ構成は全体の1割未満と小さいが、賃貸業界を含む「書面手続きの電子取引」を認める国の改正案が2月に閣議決定された。公布・施行後は、シェア拡大が一気に進む可能性がある。
電子書面サービスの競合といえば、ソフトバンク<9434>と弁護士ドットコム<6027>が共同展開するサービスなど複数あるが、GAは賃貸業界で一定の支持を得ている。
全国賃貸住宅新聞社(東京都中央区)が定期調査している「賃貸管理戸数ランキング」(20年7月)では、上位50社中、GAの事業子会社・イタンジ(東京都港区、野口真平社長)の賃貸システムを導入している社数は62%と半数超を占める。
管理業務システムと仲介業務システムの導入社数はいずれも1000社未満。国内の宅建事業者が12万以上いることを踏まえると、全体のシェアはまだ限定的な反面、大きな成長余地がある。
社長自らプログラミングスクールに通う
GAが不動産テックに邁進するのは、トップである樋口龍社長の強い意思が働いている。2013年の創業当初から「不動産をワンクリックで購入できる世界」を標榜していた樋口社長だが、その中核になるIT技術者を「思うように採用できるまで2年かかった」という。
苦労して採用しても、樋口社長と意思疎通がうまくいかない。「プログラミングを知らないがゆえに、技術者に無茶な要求をしてしまったこともあった」と同社長は振り返える。
「何か根本的に変えないと」。そこで樋口社長は自らプログラミングスクールに通って基礎を学び、技術者と最低限の意思疎通を行えるようにした。
加えて、私服通勤を可能にするなど企業風土もIT業界に合わせた。樋口社長も自らTシャツで出社するなどして、スーツ出社が当たり前だった不動産営業会社の価値観を積極的に変えて、技術者が働きやすい環境をつくった。
こうした努力や改革を進めるうちに、経験豊富な技術者を集まるようになった。19年9月にGAグループに入社した山口智也氏は、過去17年間、東証1部に上場しているシステム開発会社で受託開発・プロジェクトマネージメントに携わってきたベテラン技術者だ。
GAに移った理由について「未知なる開発領域に挑戦できる環境にワクワクした。受託開発では得られない刺激だ」と語る。
開発部門の厚みが増す中、部署内でAI研究開発を担っているのが「AIストラテジーセンター」(AISC)という専門チーム。約20人が在籍し、そこでは元理化学研究所の技術者・アーロン・ブラムソン氏など有力と思われる外国人人材が参画している。
■GAの従業員構成
注:21年10月期・第1四半期末時点
「多国籍で多様性のある環境にひかれた」。第2新卒で入社した堀恵実氏は、名古屋工業大学大学院で情報工学を専攻してきた開発人材だ。
19年1月に入社し、GAでは物件を探しているユーザーに最適な居住エリアを提案するAIエンジン『ベスト場所』の開発に携わった。人工知能学会主催の全国大会で優秀賞を獲得。すでに実用化しているという。
IT人材を中心に積極的な人材採用は人件費を膨らますこともあり、同社の売上営業利益率は3%前後と、同業の5~10%台と比べて低い水準だ。
現在は平均より劣る収益性は、将来の収益拡大にもたらす投資と捉えるかどうかで、同社の評価は変わるはずだ。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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登場する銘柄
取材/高山英聖、編集・構成/真弓重孝(株探編集部)
フィンテックと共にここ数年、注目されている不動産テック 。しかし、その対象は広く、一般社団法人不動産テック協会によれば、2020年半ば時点で352のサービスに分類される。
その中には、AI(人工知能)やIoTなど先端技術を駆使したものから、業務のシステム化といった様々なレベルがある。百花繚乱とも玉石混交とも言える中で、不動テックを展開する注目企業はどこか? 株価や業績が好調な銘柄の中から探ってみた。
浮かび上がった人気化の条件は、業界の常識を超える取り組みだ。
AI活用で先頭を走るGAテクノ、DX推進で成功したプロパティA
業績、株式パフォーマンス、そして業界の取材から浮かび上がったのが2社。投資用中古マンション買い取り再販のGA technologies(以下GA)<3491>と、投資用マンション開発・販売のプロパティエージェント(以下プロパティA)<3464>だ。
2社の株価と業績は以下のグラフの通り。株価は東証業種別価格指数・不動産業を大きくアウトパフォームする。業績もほぼ2桁の増収増益を続けている。
■GA、プロパティA、東証業種別価格指数・不動産業のパフォーマンス比較
注:2020年3月末=100
■GAの業績推移
■プロパティAの業績推移
この両社はITが遅れている不動産業界の中では、異色の存在だ。
GA<3491>は、従業員全体の3割弱にあたる約150人のエンジニアを抱え、AIを活用したマーケティングシステムの開発に取り組む。同社は昨年8月に東京証券取引所と経済産業省が選定した「DX銘柄2020」にも選定されている。
都内の有力マンション販売会社の幹部は「人材、サービスの面でGAに優る体制を構築するのでは容易ではない」と評する。
もう1社のプロパティA<3464>は、同業の中ではデジタルトランスフォーメーション(DX)推進で際立つ。
コロナショックでリモートワークが浸透する2年前の2018年から、同社は先駆けてビデオ通話システムを使ったオンライン商談やその他ペーパーレスシステムを順次導入。固定電話も廃止した。
昨年4月の緊急事態宣言下で企業活動が停滞する中でも、同社は営業活動をオンライン上で継続して業績を伸ばした。未だFAX文化が根強く残る不動産業界で、DX推進に成功している数少ない企業の一社だ。
GAとプロパティAは今後も業績拡大し、株式市場からの評価を高めていけるのか。そのポイントをこれから見ていこう。
■GAとプロパティAの不動産テックの強みと成長策
銘柄名<コード> | 業容 | 不動産テックの取り組み |
---|---|---|
GA technologies <3491> | 投資用中古 マンション販売 | ・AIを活用した不動産の買い取り再販 ・賃貸業務システムの外販 |
プロパティエージェント <3464> | 投資用マンション開発・販売 | ・「顔認証ID」技術の適用範囲の拡大 |
まずGAはAIを駆使した投資用マンションの買取再販事業者。販売するのは不動産にとどまらず、不動産の仲介・管理会社向けにシステムも販売する。
技術志向は2013年の創業時から掲げていた。樋口龍社長は17年7月、"プレイステーションの生みの親"と言われる元ソニー・久夛良木健氏を戦略顧問に招き、ノウハウを吸収。厳しい指導の蓄積が土台になっている。久夛良木氏は現在、同社の社外取締役に就任している。
同社の最大の特徴が、AIで「仕入れ」の無駄をなくして販売精度を高めていること。投資家がほしい物件を仕入れれば販売が有利に進むため、仕入れをどう効率化するかは、買い取り再販ビジネスの肝となる。
仕入れる物件は、中古ワンルームマンション1室が基本で、仕入れ先は主に街中の不動産会社。これを同社が展開する不動産情報サイト『RENOSY(リノシ―)』を通じて、いわゆるサラリーマン投資家に販売し、利ザヤを得る。
つまり不動産会社からGAが仕入れ、それを個人に販売する「B to B to C」のビジネスモデルを展開してきた。AIの活用では、不動産広告に記載されている駅からの距離や物件スペック等の情報、物件情報に基づく成約実績などを機会学習させ、「どのような物件を今、仕入れるか」の判断を迅速にできるようにした。
在庫回転期間は平均23日、業界の通常は数カ月
販売力の高さを表す「在庫回転期間(仕入れ~販売)」は、GAは1件あたり平均で23日間。多くの不動産会社は「通常は数カ月かかる」(同業者)と言われている中で、その短さは際立っている。
販売力を高める鍵を握っているのが、先にも触れた仕入れ業務。投資家が買いたがる人気物件を仕入れれば、その後の再販も楽になる。ところが人気物件はすぐに競合企業に獲られてしまい簡単にいかない。
販売効率を高める人気物件獲得のポイントが、AIを活用した判断の高速化だ。GAでは、その判断作業の半自動化に成功。街中の不動産会社からFAXやメールで寄せられる月1万件の売却情報を、自動でテキスト化し、収益力を点数化して高い順にリスト化する。
これにより営業部門が1件1件吟味する負担が最小化され、先方との価格交渉など付加価値を高める業務に集中できるようにった。
■AIによるスコアリングのイメージ画像
出所:GAテクノロジーズ
そうして投資しやすい物件を仕入れて、『RENOSY』でサラリーマン投資家に提案する。投資家からのサイト問い合わせ件数は月2500件。サイト集客では顧客の成約データなどをIT分析してウェブ広告の集客精度を高めている。同社の広報担当は「専属のウェブマーケティングチームが、高速でPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回している」と語る。
ここまではAI活用の第1段階だ。同社は次なる成長の鍵となる第2段階に歩を進め始めたところだ。この第2段階で、AIの本領が発揮される。取り扱うデータ量が第1段階に比べて、大きく拡大するためだ。
仕入れ先を不動産会社のほかに個人にも広げ、また取り扱う物件も従来の中古のワンルームマンションのほかに、ファミリー向けの間取りも加え始めた。つまり、個人が保有するワンルームないしファミリー向け物件をGAが買い取り、それを個人に売るの「C to B to C」も展開していく。
これによってターゲットとする市場規模は「1.5兆円から13兆円に拡大する」とIR担当の渡辺聡子氏は言う。
■「仕入れ先」「仕入れ物件の間取り」「販売先」現在と今後の比較
今後 | 現在 | |
---|---|---|
仕入先 | 法人 + 個人 | 法人 |
物件 | ワンルーム + ファミリー | ワンルーム |
販売先 | 個人 | 個人 |
M&Aを展開、顧客基盤を拡大する 第2段階への移行にあたり、同社はストックしてきた顧客基盤を活用する。それが既存のリノシ―会員。もう一つが2件のM&A(合併・買収)で取得した顧客層だ。
M&Aについて、1件目は2019年12月に完全子会社化したモダンスタンダード(東京都港区、松田啓介社長)で、社名と同じブランドの高級賃貸サイトを運営していた。現在は『RENOSY』に統合して運営を継続している。
もう1件は中華圏で日本の不動産を紹介する「神居秒算(しんきょびょうさん)」で2020年6月に事業買収した。いずれの会員も、不動産を所有している富裕層を一定数抱えている。
こうした基盤を、AIを用いながら取引件数を拡大させる。その原動力にしようとしているのが「所有物件の売却想定価格」。
売却想定価格を月ごとに更新
例えば昨年12月、同社はリノシ―会員に対し、所有物件の資産価値の変動をチェックできるマイページ機能を実装した。GAが販売した物件に限らず、会員自身が住んだり、または他社で購入した投資用物件も登録できたりする。AIが算出する売却想定価格は月ごとに更新される。
AI査定においては、独自に収集した中古マンション取引情報から、立地・周辺環境、建物情報、周辺相場などの物件価格の決定に影響する複数のデータを活用している。現在の主な査定対象は、一都三県の中古分譲マンションとしている。
「わざわざ価格を調べるのは手間。気軽に価格がわかれば、『いま価格が高いうちに売ろうかな』などと売却を考える機会が増える」(渡辺氏)
今後、旧「モダンスタンダード」や「神居秒算」の会員からも、何かしらの形で物件調達機会を探る。
販売先も広がる。中華圏の富裕層会員を抱える「神居秒算」では、これまでGA単体では販売ハードルが高かったファミリー向けマンションの販売を見込める。
ワンルームと比べて高単価のファミリー向け物件は、GAのメーン顧客層である20~30代のサラリーマン投資家では購入が難しかった。しかしキャッシュが豊富な中華圏の顧客を獲得したことで、GA単体の弱点を補えるようになる。前出の渡辺氏は「M&Aのシナジーがこれから本格的に見込める」とする。
子会社の賃貸効率システムのシェア急拡大に期待
GAの不動産テックにおける2つ目の注目材料が、賃貸システム外販シェアの拡大だ。不動産賃貸会社に、入居斡旋業務や物件管理業務にかかわる電子化・効率化システムを複数提供している。
売り上げ構成は全体の1割未満と小さいが、賃貸業界を含む「書面手続きの電子取引」を認める国の改正案が2月に閣議決定された。公布・施行後は、シェア拡大が一気に進む可能性がある。
電子書面サービスの競合といえば、ソフトバンク<9434>と弁護士ドットコム<6027>が共同展開するサービスなど複数あるが、GAは賃貸業界で一定の支持を得ている。
全国賃貸住宅新聞社(東京都中央区)が定期調査している「賃貸管理戸数ランキング」(20年7月)では、上位50社中、GAの事業子会社・イタンジ(東京都港区、野口真平社長)の賃貸システムを導入している社数は62%と半数超を占める。
管理業務システムと仲介業務システムの導入社数はいずれも1000社未満。国内の宅建事業者が12万以上いることを踏まえると、全体のシェアはまだ限定的な反面、大きな成長余地がある。
社長自らプログラミングスクールに通う
GAが不動産テックに邁進するのは、トップである樋口龍社長の強い意思が働いている。2013年の創業当初から「不動産をワンクリックで購入できる世界」を標榜していた樋口社長だが、その中核になるIT技術者を「思うように採用できるまで2年かかった」という。
苦労して採用しても、樋口社長と意思疎通がうまくいかない。「プログラミングを知らないがゆえに、技術者に無茶な要求をしてしまったこともあった」と同社長は振り返える。
「何か根本的に変えないと」。そこで樋口社長は自らプログラミングスクールに通って基礎を学び、技術者と最低限の意思疎通を行えるようにした。
加えて、私服通勤を可能にするなど企業風土もIT業界に合わせた。樋口社長も自らTシャツで出社するなどして、スーツ出社が当たり前だった不動産営業会社の価値観を積極的に変えて、技術者が働きやすい環境をつくった。
こうした努力や改革を進めるうちに、経験豊富な技術者を集まるようになった。19年9月にGAグループに入社した山口智也氏は、過去17年間、東証1部に上場しているシステム開発会社で受託開発・プロジェクトマネージメントに携わってきたベテラン技術者だ。
GAに移った理由について「未知なる開発領域に挑戦できる環境にワクワクした。受託開発では得られない刺激だ」と語る。
開発部門の厚みが増す中、部署内でAI研究開発を担っているのが「AIストラテジーセンター」(AISC)という専門チーム。約20人が在籍し、そこでは元理化学研究所の技術者・アーロン・ブラムソン氏など有力と思われる外国人人材が参画している。
■GAの従業員構成
注:21年10月期・第1四半期末時点
「多国籍で多様性のある環境にひかれた」。第2新卒で入社した堀恵実氏は、名古屋工業大学大学院で情報工学を専攻してきた開発人材だ。
19年1月に入社し、GAでは物件を探しているユーザーに最適な居住エリアを提案するAIエンジン『ベスト場所』の開発に携わった。人工知能学会主催の全国大会で優秀賞を獲得。すでに実用化しているという。
IT人材を中心に積極的な人材採用は人件費を膨らますこともあり、同社の売上営業利益率は3%前後と、同業の5~10%台と比べて低い水準だ。
現在は平均より劣る収益性は、将来の収益拡大にもたらす投資と捉えるかどうかで、同社の評価は変わるはずだ。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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