【特集】バリュー・ローテーションの声もあるけど、ムードではグロース!? ⇒カレンダー効果とムードベータ
心理バイアスの罠にはまらない技」~第14回
マネックス証券・執行役員チーフアナリスト
東京大学卒業。英ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務しつつ、一橋大学大学院・経営管理研究科(一橋ビジネススクール)の博士課程に在籍。ロンドン証券取引所アドバイザリーグループ・メンバー。財務省財政制度等審議会委員、規制改革推進会議委員。最近の趣味は落語鑑賞と旅行、そして不動産実査で宅地建物取引士の資格も保有する。
前回記事「SNSの反響に群がるのは適者生存!? ⇒『エコー・チェンバー』現象」を読む
古い相場格言で、「節分天井、彼岸底」と言われます。
確かに今年日経平均株価が3万円をつけたのは2月15日で、その後株価は若干調整しました。そして今週は再び3万円台に戻すなど、お彼岸を前に、市場は"底"を付けつつあります。
■今年に入ってからの日経平均株価の動き
これは偶然かもしれません。しかし、このような市場の季節性については「カレンダー効果」として多くの研究が行われています。
米国では、株価は「月曜日に低く金曜日に高い」とか、「1月に高く9月や10月には安い」というデータもあります。これらの一般的な説明は、週末の方が気分が明るくなるとか、9月や10月は冬に向かう時期で気分が沈む、といったセンチメント(投資家心理)によるとするものです。
市場のムードがよくなると株価はどれくらい動くのかを示すムードベータ
このカレンダー効果と似たもので、昨年「ムードベータ」というコンセプトを示した論文が発表されました(記事最後に論文情報を掲載)。
投資でベータといえば、市場平均が「1」動いた時に個別株がどのくらい動くのか、という「マーケットベータ」はご存知の方も多いと思います。
一方の「ムードベータ」は、市場の気分の変化に対して株価がどれくらい動くのか、ということを表すものです。
先に挙げたカレンダー効果が、その時期のセンチメントの良し悪し定点観測で見るのに対し、
今回注目するムードベータは市場が強気や弱気に動く局面で、ある株式の株価がどの程度反応するかという方向性の動きをとらえたものです。
この論文によれば、主に、ムードベータは市場のムードが良くなると、「成長株」や「小型株」「若い企業の株式」の方が、他のカテゴリーの株式より上昇しやすいとしています。
通常の市場ベータと同じじゃないか、という批判もあるでしょうが、市場ベータの要因を除いても、ムードベータだけで成長株等がアウトパフォームしやすいとしています。
■ムードベータが高い株式と低い株式の概要
高い株 | 低い株 |
---|---|
グロース株 | バリュー株 |
小型株 | 大型株 |
新興企業 | 老舗企業 |
加えて今年は、コロナ禍の行動制限が徐々に解除されることから、例年以上にムードが改善しそうです。しかも最近は、世界的に個人投資家の売買が活発になっていますので、こうしたムードベータはより効きやすくなっているかもしれません。
年末来のグロース株優勢から、バリュー株へのローテーションを予想する声も聞かれますが、ムードベータでいくと、逆にこれから再びグロース株が強くなる可能性があるということになります。
春先から夏にかけては、日米ともグロース優位の傾向が
では、ムードベータは本当に効くのか、最近のデータで簡単に見てみましょう。
下の図は、データが取れる2009年から2020年までの期間で、日米ともにムードが上がる春先3月末に投資して7月末に売った場合のグロース株とバリュー株のリターンの差を示しています。
この12年間の差の平均は、日本では20ベーシスポイント(bp)つまり0.2%で、米国では36bp(0.36%)と、やはりグロース株優位となりました。
新型コロナ発生で3月に異常な動きをした昨年を除いても、日本で8bp、米国で17bp、それぞれグロース株がアウトパフォームしています。
アウトパフォームした年の数も、日本は12年中7年と微妙ですが、米国は9年と良好です。
■春先から夏にかけてのムードベータ
注:ブルームバーグから筆者作成。3月末に投資し7月末に売った場合のグロース株のリターンからバリュー株のリターンを差し引いたもの。グロース株とバリュー株はそれぞれ、とTOPIX(東証株価指数)およびS&P500種株価指数のグロース株指数とバリュー株指数。
週次で上昇した場合でも、グロース株は強い傾向
次に、「週次」のムードの変化を下のグラフで確認してみましょう。
月曜日から金曜日へとムードが上がる効果を3つのカテゴリで見てみました。
まず、月曜日から金曜日にかけて株価が上昇している時を「全体」、
次に、2週連続の連騰した時を「ケースA」、
そして、市場が前週に下落後、翌週は反発しムードが一気に回復した時を「ケースB」としました。
グラフに示したように、左半分に示した日本の例では微妙ですが、右半分に示した米国の例では全てのケースでグロース株がアウトパフォームしています。
■週次で上昇した場合のケース別のムードベータ
注:ブルームバーグから筆者作成。▲はマイナス。
月曜から金曜日にかけて株価が上昇している時に、「グロース株」をロングし「バリュー株」をショートした場合のネットリターン。ケースAは、2週連続で上昇した時、ケースBは下落から上昇に転じた場合
では、実際にロング候補となるグロース株をいくつかみてみましょう。今回はその中でも、昨今のカネ余りの恩恵を受けやすい金融関連事業で見てみたいと思います。
※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。
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