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【特集】アンジェス Research Memo(1):新型コロナウイルスワクチンについて、第2・3相臨床試験開始を発表

アンジェス <日足> 「株探」多機能チャートより

■要約

アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発の創薬ベンチャー。遺伝子医薬に特化した開発を進めており、将来的に「遺伝子医薬のグローバルリーダー」になることを目標にしている。新薬候補品を開発し、販売パートナーとの販売権許諾契約によって得られる契約一時金や、開発の進捗状況などによって得られるマイルストーン収益、上市後の製品売上高にかかるロイヤリティ収入を獲得するビジネスモデルとなる。

1. 新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発状況について
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するDNAワクチンの開発状況について、同社は2020年11月20日に第2/3相臨床試験開始を発表した。治験施設における治験審査委員会(IRB)で承認され、準備が整い次第、接種を開始する。2020年10月12日に大阪大学医学部附属病院で実施していた第1/2相臨床試験において、予定の30症例全ての接種が完了している。これに先立って実施した大阪市立大学医学部附属病院での第1/2相臨床試験の成績も含めて、安全性及び有効性についての初期的な試験結果については、当初の見込み以上に時間がかかっているが、引き続き分析を進めている。第2/3相臨床試験で用法用量を確定したのち、新型コロナウイルス感染症予防効果を検証する大規模な第3相臨床試験を実施する予定としている。また、米Brickell Biotech(ブリッケル・バイオテック<BBI>以下、Brickell)とも米国での共同開発契約を2020年9月に締結している。なお、国内での開発プロジェクトについては、AMED(国立研究法人日本医療研究開発機構)が公募した、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に採択され、研究開発費20億円(研究開発期間:2020年6月-2021年3月)の支援を受け開発を進めている。また、大規模量産体制の構築に向けた設備投資費用については、厚生労働省が公募した「令和2年度ワクチン生産体制等緊急整備事業」における交付金、約93億円(事業期間:2020年8月-2022年3月)を受け、製造委託先のタカラバイオ<4974>が中心となって整備を進めていく計画となっている。そして、AMEDが公募した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」(2次公募)にも採択され(金額は非開示)、新型コロナウイルス(COVID-19)を標的とした DNA ワクチン臨床開発を推進している。

2. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「AV-001」の米国での臨床試験開始
2020年11月13日に、カナダのVasomune Therapeutics(バソミューン・セラピューティクス)(以下、Vasomune)と共同開発を進めている「AV-001」を中等度から重度の新型コロナウイルス感染症肺炎患者向けの治療薬として、米国FDAにIND(新薬臨床試験開始申請)を行い、米国での臨床試験の開始許可を得たことを発表した。速やかな臨床試験開始に向けて準備を進めている。「AV-001」は、中等度から重度のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)及びARDS(急性呼吸窮迫症候群)肺炎患者の治療を目的としたTie2チロシンキナーゼ受容体アゴニストであり、Tie2アンジオポエチン経路を活性化させることで、血管機能を正常化させ、血管内皮バリアを回復させる機能を持つ。2020年8月に、Vasomuneが「AV-001」の開発について、米国国防総省からの「医療研究プログラム(PRMRP)」として280万ドルの助成金を獲得しており、米国でも注目度の高いプロジェクトである。これにより同社は、新型コロナウイルス感染症を対象とする、ワクチンと治療薬の両方のパイプラインを持つこととなる。

3. 先進のゲノム編集技術を有するEmendoの買収
同社は、2020年11月9日付で、遺伝子治療分野のゲノム編集で先進の技術を持つ、米国のEmendoBio (以下、Emendo)を買収することで、Emendoと合意したことを発表した。すでに保有している約40%のEmendo株式を差し引いた、残り約60%の株式に対する対価を主に同社の普通株式にて支払う(一部現金での支払いあり)。この買収の目的は、「遺伝子治療プログラムと次世代ゲノム編集プラットフォーム技術を有する世界初の企業の実現」としており、両社の経験及び専門知識の統合による、ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療用製品の実用化及び適応症拡大の加速化を目指している。なお、本件における第三社割当による新株式発行は、Emendo買収の対価となる普通株式を発行するためであり、資金調達を目的としたものではない。クロージング日である2020年12月15日(予定)をもってこの案件は成立することになる。

4. その他開発パイプラインの動向
そのほかにも2020年12月第4四半期は、オーストラリアで実施している高血圧DNAワクチンの第1相/前期第2相臨床試験や、米国で実施している椎間板性腰痛症を適応症としたNF-κBデコイオリゴの後期第1相臨床試験の結果をトップラインデータとして発表する予定で、結果次第でライセンス交渉を検討する方針となっており、発表内容が注目される。また、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェンR」は、国内で慢性動脈閉塞症患者向けに「潰瘍の改善」を効能として条件及び期限付き販売承認を得て2019年9月より販売を開始※しており、現在は市販後調査を進めている。進捗状況は順調のようで2024年の本承認取得を目指している。また、2019年10月より国内で開始した慢性動脈閉塞症の「安静時疼痛の改善」を確認する第3相臨床試験(予定症例数40例)や、米国で2020年2月より開始した下肢切断リスクの低い慢性動脈閉塞症患者を対象とした「潰瘍の改善」と「血流の改善」を主要評価項目とする後期第2相臨床試験(予定症例数約60例)については、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で進捗が遅れていたものの、直近は試験施設の体制も整備されたことから被験者登録も進み始めている。

※「標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善」を効能として、厚生労働省から条件及び期限付製造販売承認を2019年3月に取得し、同年9月より提携先である田辺三菱製薬(株)を通じて販売を開始した。


5. 業績動向
2020年12月期第3四半期累計(2020年1月-9月)の売上高は前年同期比91.2%減の28百万円、営業損失は2,857百万円(前年同期は2,358百万円の損失)となった。前年同期に売上計上していたムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイムR」の販売が2019年12月期の第2四半期で終了したことで170百万円の減収要因となっており、「コラテジェンR」については28百万円の売上を計上した。費用面では、研究開発費が新型コロナウイルス感染症ワクチンの臨床試験を開始したこともあって前年同期比で293百万円増加し、営業損失の拡大要因となった。通期業績見通しについては、新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発動向などを含めて、現時点で合理的な数値の算出が困難なことから非開示としている。なお、2020年12月期第3四半期末の現金及び預金は約123億円となっており、当面の事業活動を進めていくうえでの資金は確保されているものと判断される。

■Key Points
・新型コロナウイルス感染症ワクチンの第1/2相臨床試験の結果を2020年12月期第4四半期に公表予定
・ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬「AV-001」の米国での臨床試験が米国FDAによって承認
・先進のゲノム編集技術を有する米国Emendoの買収合意
・2020年12月期第3四半期累計業績はコロナワクチンの開発費用等の増加に伴い営業損失が前年同期比拡大

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《NB》

 提供:フィスコ

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